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中小企業のDX戦略を考える全国中小企業クラウド実践大賞と「総務大臣賞」受賞企業の取り組み記事ID:D10030
クラウド実践大賞実行委員会が主催し、総務省が共催、中小企業庁などが後援する「全国中小企業クラウド実践大賞全国大会」が、2022年12月21日にオンライン配信により開催されました。この大会の意義や評価、さらに受賞企業を代表して「総務大臣賞」を受賞した株式会社イズミダの取り組みを紹介します。
業務効率化のほか、新規事業創造や組織変革など多彩なDX※事例を発信
全国中小企業クラウド実践大賞 入賞企業一覧
クラウドサービスの活用は、人材の確保・育成、販路開拓、業務効率化、新規事業の創造など中小企業が抱える経営課題を解決する大きなカギを握っています。
「全国中小企業クラウド実践大賞」は、中小企業のクラウド事例やDX事例を発掘し共有することで、中小企業のクラウド活用やDX推進を後押ししています。参加する企業は自社の取り組みを振り返り、社内外へPRをする機会として活用しています。
2022年度はモデル事例の登録は44社で、うち32社が事例の発表を行いました。
従来は業務効率化のためのクラウド活用の事例が多かったものの、2022年度はクラウドを活用した新規事業創造や組織変革などのDX事例も多く発表されました。参加者アンケートでは「机上の話ではなく、現場の実態が伝わり、今後に活かせる」、「さまざまな業種のDX事例を知ることができた」というコメントも見られました。
総務大臣賞受賞 イズミダの取り組み
低迷する魚屋を救ったクラウド戦略
株式会社イズミダ
常務取締役 鮮魚部統括部長
出水田 一生氏
総務大臣賞を受賞した株式会社イズミダのプレゼンターを務めた出水田氏は「全国的に魚屋のクラウド化はまだ浸透していないようなので、ほかの中小企業の参考になるならと考えて応募しましたが、賞をいただけるとは思ってもいなかったので、とても驚きました」と話します。高い評価を得た、同社のクラウド化の取り組みについて、詳しく話をうかがいました。
残業&休日出勤は当たり前、先行きが見えない魚屋が抱える問題とは
家族経営で魚屋「出水田鮮魚」を営んでいる株式会社イズミダは、先代の急病をきっかけに長男の出水田一生氏が三代目として家業を継ぎました。しかし、当時のお店はアナログ管理で生産性が低く、売上も低迷していました。同店の売上は、市内の病院や学校、介護施設への卸がほぼ100%を占めていましたが、全国展開の大手業者が参入し、保存がきいて種類も多い冷凍の魚が重宝されたことで売上が年々減少していきました。そんな状況の中、「お店が生き残るためには新たな売上の創出が必要不可欠だと考えたものの、家族経営ならではの昔ながらの働き方が大きな障壁となっていた」と、出水田氏は振り返ります。
「店はパートも含めて6人ほどで切り盛りしていましたが、早朝3時~4時に市場へ買い付けに行った上、繁忙期には残業が続く状況でした。現場仕事は年配の男性中心で属人化され、なかなか若い人や女性を雇用できませんでした。また、現場仕事に追われ事務仕事は後回しになり、母が残業や休日業務で処理していました。これらは家族経営にありがちな光景ではないかと思いますが、当時の弊社も『これが当たり前』という雰囲気でした」(出水田氏)
この当たり前から脱却するために、出水田氏は業種を超えて同じような問題を抱える同世代の経営者たちと積極的に交流し、クラウドサービスの活用にヒントを見出しました。
若い世代が働きやすい店を目指してバックオフィスを徹底クラウド化
当たり前からの脱却のきっかけは、クラウド会計システムを導入した異業種の経営者との出会いでした。そこで、クラウド化により家族経営の悪癖を改善できると考えた出水田氏は、手始めにバックオフィス業務のクラウド化を推し進めました。
「一人だけ休日返上で働き詰めの母を、煩雑な会計業務から解放させたいという思いが一番でした。さらに、私自身も数字と向き合うことで経営について学べると考え、バックオフィス業務の改善から取り組みました。当時の会計業務は、市場・業者ごとに発行される仕入伝票をさばき、卸先から毎週届く発注書をまとめ、卸先の数だけ納品書と請求書を発行するという業務をすべて手書きで行っていました。さらに、市場への支払いは月単位ではなく仕入れ後数日単位の短期間で繰り返すので、伝票作成や振込の機会も多くなっていました。このほか、市場以外の仕入れや経費の請求書の処理もあり、膨大な手間と時間をかけていました。
そこで、まず仕入伝票や発注書の処理は表計算アプリへの入力へ移行し、仕入先・卸先ごとにまとめ、どこでも誰でも確認や修正ができるようにしました。このデータをクラウド会計システムと結びつけて納品書や請求書は電子文書化し、メール送信できるようにしました(写真①参照)。また、市場への支払いはネットバンキング、日々の売上はPOSレジアプリ、経費の支払いはクレジットカードで行い、これらもクラウド会計システムへ紐づけることで日々の支払いや仕分け作業が効率化できました。また、経費もレシートの写真撮影による自動入力が可能なシステム(写真②参照)を使い、処理が格段にスムーズになりました」(出水田氏)
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写真①:クラウド化により、バックオフィス業務の大幅な改善に成功した
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写真②:領収書などは、スマホで撮影するだけで自動入力される
会計処理のクラウド化により、バックオフィス業務のこうした作業時間は年間で約150時間削減され、作業自体もパートを含めて誰でも行えるよう標準化されました。さらに、「若い人が働きやすいと思える職場を整えたい」と考え、勤怠管理もクラウド化するなど働き方改革を推進していきました。その結果、労働環境が週休2⽇・残業ゼロへ改善され、従業員も男性7名、女性12名の計19名に増え、平均年齢31歳へと年齢構成も変わり、「会社の雰囲気も明るくなった」と言います。
クラウドツール活用で目指す世代を超えて働ける会社づくり
クラウド化により業務効率の改善に成功した出水田氏が次に着手したのは、新たな売上の創出でした。
「これまでは卸専門でしたが、車庫を一般向け店舗に改装して小売を始めました。また、県外への販路拡大を目指し、干物の加工・販売を始めました。さらに、2022年には鹿児島市に飲食店を開始。こちらも好調です。この結果、以前は水産加工・卸のみだった売上高構成が2015年8月以降は干物加工と小売が半分を占め、2022年度からは飲食が新たな柱となり、より強固な経営体制が整えられました(図参照)」(出水田氏)
売上が伸び、雇用も増えて業務が拡大する中、出水田氏は今後の展望について「スキルや体験を売る『仕入れのない売上の創出』を拡げたいです」と話します。
「現在は、市場を見学し新鮮な魚を食べてもらうツアーなどを実施しているのですが、今後はオンラインでの開催も増やしたいと考えています。これまでにも一度、都内の食堂に集まった参加者と地元の生産者をオンラインで繋ぎ、地元の魚で作った料理を食べてもらいながら交流する会に参加しましたが、現地に来られない方々に魚の魅⼒を伝えるのに、とても有効なイベントだと感じました(写真③④参照)。
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写真③:東京の食堂と地元の生産者をオンラインでつないだイベントの様子
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写真④:オンラインイベントで、鹿児島産・大隅産の魚を味わう参加者たち
また、子ども向けの魚さばき教室や高校での商品開発の授業、大学の水産学部と採用関連のイベントを行っていて、教育分野との接点も持っていますので、この関係を地域活性化に活かしたいと考えています。私たちの活動で子ども達がもっと魚を好きになり、若い世代に魚屋の仕事を知ってもらえたら、雇用環境もも変わり、それが私たちにはもちろん、地元にもプラスになると思っています。
実際、弊社でもSNSによる情報発信は若いスタッフの自主性に任せているのですが、若い世代のアイデアや感性で会社が変わりました。このような事例が増え、次の世代に引き継がれていくようになれば、地方でも魅⼒ある企業がどんどん生まれるのではないかと考えています」(出水田氏)
昔ながらの非効率な慣習で経営難に陥っている家族経営の小さな企業は、全国にまだ多く見られると思われます。このような企業にとって、イズミダの取り組みは、状況を打開するための大きなヒントになるのではないでしょうか。
- ※ DX:
- Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略で、 直訳すると「デジタルによる変容」。進化したICT技術を用いることで、人々 の生活やビジネスがより良いものへと変容(変革)していくこと。
会社名 | 株式会社イズミダ |
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設立 | 1974年(昭和49年)10月 |
本社所在地 | 鹿児島県鹿屋市新川町830 |
代表取締役社長 | 出水田 勇光 |
資本金 | 300万円 |
事業内容 | 水産加工、卸、小売、飲食など |
URL | https://www.izumidasengyo.com/ |
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