事例系トピック

訪日外国人観光客の数が急激に伸びています。2020年に開催が予定されている東京オリンピック・パラリンピックに向け、急ピッチで受け入れ準備を進めていますが、まだまだ多くの飲食店や小売店においては、接客に必要な多言語対応が遅れているのが事実です。商機を逃すことなく、真のおもてなしを実現するために、どのようなツールを活用すればいいのか。長きにわたり多言語ツールの開発を行ってきた凸版印刷株式会社に話を聞きました。

訪日外国人観光客が求める多言語コミュニケーション

—まずは、多言語化が求められる背景について教えてください。

2020年に向け、訪日外国人が増加しています。その一方で、日本を訪れる外国人の多くが、多言語表示がないことに不便さを感じています。2016年に総務省と観光庁が発表した調査結果によれば、訪日外国人が旅行中に困っていることの第1位に「施設などのスタッフとのコミュニケーションが取れない」こと、そして第4位に「多言語表示の少なさ・分かりづらさ」を挙げています。多言語対応が必要なシーンは数多くあります。例えば、情報発信に必要なSNSやホームページ、店頭ポスターやサイネージ、案内用チラシ、店内掲示の各種案内文、そして外国人の利用客が感想を書き込む口コミへの返信などです。飲食店、宿泊施設、レジャー施設など多くの小規模事業者の皆さまは、外国人観光客を積極的に受け入れたいと考えてはいるものの、そもそも“何を準備すればいいのか”が分かりません。しかも、どれくらいの集客ができるか分からないのに、外国語対応が可能なスタッフを雇い入れたり、短い案内文などを翻訳者に頼んだりすることに抵抗を感じています。そのため、誰もが気軽に利用できる翻訳ツールが必要だったのです。

—最近は、インターネット上で手軽に翻訳が可能なサービスもあるようですが。

翻訳サイトも、学習能力が高いニューラルネットワーク※1が導入されたことで、飛躍的に精度がアップしました。しかし、翻訳サイト自体が汎用性の高い翻訳サービスであるため、いわゆる専門用語には対応していません。さらに現時点においては、初見で理解できない言葉を丸ごと抜いて翻訳してしまう傾向があります。翻訳サイトに限らず、現時点における機械翻訳の精度では、100%の正解を得ることはできません。特に長文を苦手としており、訳の抜け落ちも多発するため、およそ30%の精度しか実現できていないのが現状です。機械翻訳は、最終的に人がチェックして仕上げることと、専門用語を網羅したデータベースが連携しないと実用化がまだ難しいのです。

AIによる機械翻訳に加えて翻訳者が最終校正を行うクオリティ

—貴社の多言語化サービスへの取り組みの歴史についてお聞かせください。

弊社は、総務省所管の国立研究開発法人情報通信研究機構、通称「NICT」とともに自動翻訳システムの社会実装に取り組んできました。NICTが開発した自動翻訳エンジンを使用した、自治体や公共サービス事業者、郵便局に向けた音声翻訳サービス、教育機関における外国人保護者への対応など、さまざまなシーンを想定した社会実験を行ってきました。また百貨店に対しては、店舗ごとに発注していたために訳語が不統一といった課題の解決をサポートします。過去に行った翻訳も含めてデータベース化することで、流用による翻訳コストの圧縮と用語統一によるブランド管理も行っていました。このデータベースの特徴は、機械翻訳を実施した上で、最終的に人手による校正を入れて仕上げていることです。これは印刷会社として歴史を重ねてきた弊社が築いてきた翻訳者のネットワークを活かしたサービスと言えます。

—現在は、インバウンド特化型のサービスを展開されていますよね。

NTT東日本との協業によるインバウンド翻訳サービス「ジャパリンガル」も、こういった弊社の翻訳への取り組みから生まれたものです。NTT東日本が開発した文化観光特化型のAI翻訳サービス「ひかりクラウドcototoba(こととば)」を使用して、これに弊社の翻訳者による校正を組み合わせることで、インバウンド分野に絞り込んだ精度の高い翻訳サービスの提供を実現しました。観光地や宿泊施設、店舗などのさまざまな情報を手軽に翻訳できる観光事業者向け翻訳サービスを提供しています。

—「ジャパリンガル」の特徴を教えてください。

私たちが実現したのは「安い」「早い」「気軽に」という三つの利用メリットです。例えば、価格は通常の翻訳サービスの約3分の2の費用圧縮を実現し、スピードコースを利用していただければ、2,000文字までなら翌営業日の納品が可能です。文字単価で換算する従量課金プランと月額プランも用意しており、ウェブサイトから24時間・365日いつでも簡単に発注できます。通常の翻訳であれば、最低料金として5千円~1万円がかかりますが、「ジャパリンガル」では1文から翻訳の依頼ができます。依頼文字数×文字単価で費用が確定するので、文字数の少ないポスターやPOPのキャッチコピー、飲食メニューの解説文などにも活用できます。最も力を発揮するのは、博物館や美術館の解説文でしょう。「ひかりクラウドcototoba」自体、文化観光に関するデータベースを持っており、さらに新しい言葉が「ジャパリンガル」側からフィードバックされる度に学習していきます。日本人が読んでも難解な文章を分かりやすく、正しいニュアンスで伝えることができます。また、エンドユーザーが独特の言い回しや固有名詞などを入力できるカスタマイズ辞書機能を追加し、より精度の高い翻訳が可能です。インバウンド、あるいは外国人居住者向けのサービスに的を絞ったことで、用語の幅を広げるのではなく、より深めていく感覚です。AIの学習能力が高まっていけば、収集した観光・文化関連用語を蓄積していき、言い回しやニュアンスも含めて表現の精度が上がっていくものと考えます。

個人事業主であってもインバウンド需要をキャッチアップ

—ジャパリンガルの 対応言語はどのくらいあるのでしょうか?

現時点における対応言語は、英語、中国語(繁体字・簡体字)、韓国語です。基本的にはこの4言語がカバーできれば、多くの外国人観光客に対応ができます。今後は、ニーズの高いタイ語、ベトナム語、フランス語、スペイン語を追加していく予定です。

—これから多言語化を考えている方々へアドバイスをいただけますか。

現在、経済産業省が各自治体を通じて実施している「IT導入補助金」は、中小企業・小規模事業者などが自社の課題やニーズに合ったITツール導入の経費の一部を補助することを目的としています。この補助金を活用すれば、ジャパリンガルをさらに気軽にご活用いただけます。

—最後に、今後のビジョンを教えてください。

今後は、音声翻訳、ウェブサイト多言語化など、弊社内に30ほどある外国語受け入れ対応ソリューションを連動させて、ワンストップサービスとしてお客さまに提供していきたいと考えています。またジャパリンガルはAPI※2を公開しているので、外部サービスとの連携も容易です。ウェブ多言語化、デジタルカタログなど他サービスの多言語化支援にも注力していきます。本サービスを拡充することで、外国語が堪能な従業員がいない中堅・中小、個人事業主にとってのインバウンド需要拡大の起爆剤になりたいと考えています。

  1. ※1 ニューラルネットワーク:人間の脳の神経細胞をモデルとして構想される情報処理システム。
  2. ※2 API:Application Programming Interfaceの略。自己のソフトウェアを一部公開して、ほかのソフトウェアと機能を共有できるようにしたもの。
会社概要
凸版印刷株式会社
会社名
凸版印刷株式会社
設立
1900年(明治33年)
本社所在地
(本店)東京都台東区台東1丁目5番1号 (本社事務所)東京都千代田区神田和泉町1番地
代表取締役社長
金子 眞吾
資本金
1,049億8,600万円(2018年3月末現在)
事業内容
「印刷テクノロジー」をベースに「情報コミュニケーション事業分野」、「生活・産業事業分野」及び「エレクトロニクス事業分野」の三分野にわたり幅広い事業活動を展開。
URL
https://www.toppan.co.jp/