ICTソリューション紹介
-株式会社EBILAB-求められるデータを活用する知恵 DXの成否を決める分析力
記事ID:D10032
伊勢神宮の内宮前で食堂・土産物店を商う創業約150年の老舗「ゑびや」は、DX※で見事に再建を成し遂げました。来客予測AI、画像解析AIシステムなどの導入で業務効率化を実現すると同時に、蓄積したデータをマーケティングに活用することで、大幅な売上増を達成しました。老舗を鮮やかに復活させた、ゑびやグループを率いる株式会社EBILAB代表取締役CEOの小田島 春樹氏に、DXの意義、活用のヒントをうかがいました。
パソコン導入から始まった創業一世紀超の老舗のDX
代表取締役CEO 小田島 春樹氏
「ゑびや」は伊勢神宮への参拝客を対象にした飲食店・土産店を営む創業約150年の老舗です。小田島氏が経営再建に着手した2012年当時の店は、日に焼けた古い商品サンプルがケースに並び、オーダーは食券制、計算にそろばんを使用するなど、昭和の雰囲気を色濃く残した典型的な地方の中小店舗でした。
「昭和で時間がぴたりと止まったノスタルジックな風情は、ある意味で魅力的ではありました(笑)。しかし、伊勢神宮の参道という優れた立地にありながら、マーケットからは明らかに取り残されていました。内宮には年間約600万人もの参拝客があり、他店に行列ができていても、当店はガラガラの日も珍しくありませんでした。釣りに例えると、魚影は濃く他の店はよく釣れているのに、ゑびやの竿だけがピクリともしない状況でした。その理由は、店のあり方や経営方法が時代に適していないからで、根本的に改革し、新しい釣り方や釣り具を導入する必要がありました」(小田島氏)
改革に乗り出した小田島氏がまず手がけたのは、中小企業にありがちな「勘や経験」に頼る肌感覚の経営から、データに基づく経営への脱却、そしてDXの実践でした。そのためには売上など経営に関する情報のデータベース化が必須です。しかし、当時のゑびやでは、経理業務などはパソコンを使用せず、すべて手書きの帳票で処理されていました。そこで、小田島氏はパソコンを購入してデータベースを作成することから取り組み始めました。
データを徹底的に分析し右肩上がりの業績を実現
写真①:センサーで店内や店まわりの人流情報を可視化
「まず最初に目指したのは、業務の効率化で自分の業務を楽にすることでした。家族経営の中小店舗は本当に多忙で、情報収集や新たな事業にまで頭が回らないのが現実です。自分に余裕がなければ、新たなプロジェクトへの挑戦は生まれません。そこで2014年にPOSレジを導入し、販売データの自動管理を実現しました。さらに2016年には、過去の売上記録や天候、曜日、近隣の宿泊者数などのデータを解析した『来客予測AI』を開発し、予測を基に効率的なスタッフの配置を行い、サービスの質向上や働き方の改善に結びつけていきました。また食堂部門では、これまで職人の勘に頼っていた仕入れのぶれを改善し、食材ロスを約7割削減しました。さらに、翌年からは『画像解析AI』によるデータ収集も始め、店頭に設置したセンサーで参道の通行者数や入店者数を測定し通行量や入店率をデータ化していきました(写真①)」(小田島氏)
こうして経営環境を整えた小田島氏は、蓄積されたPOSデータと来客予測AI、画像解析AIから得られたデータを統合解析し、マーケティング戦略に徹底活用しました。例えば「日々の店頭ディスプレーや商品陳列の違いとお客さまの入店率にどのような因果関係が見られるかを、POSデータと画像解析AIで分析し、より集客力の高い店頭展開に結びつける」「修学旅行の生徒や中高年のツアー参加者などメインの客層は季節や曜日で微妙に変化するため、そうした購買者の属性を解析し、時々のメイン客層にヒットする商品やキャンペーンを提案する」など、さまざまなデータの収集と日々のアクションの効果測定が徹底して行われました。
コロナ禍で一変したデータを有効に活用
2019年末からの新型コロナウイルス感染症の流行によるコロナ禍は、同店にも容赦なく襲いかかりました。緊急事態宣言時には一時休業も強いられ、飲食や店舗売上は対前年比でほぼ半減しました。データ解析はその間も進めていましたが、緊急事態宣言が解除されてお客さまが戻り始めると、客層に大きな変化が生じていることに気づいたと言います。
「コロナ禍前の2019年は、40代以上 が 56.2%、30代以下 が43.8%の年齢構成でしたが、コロナ禍以降の2020年7月~8月には、40代以上の割合が34.3%に減少、30代以下65.7%に増加と若年化傾向が顕著になりました。東京の街で例えるなら、年齢層が比較的高い巣鴨でビジネスをしているつもりだったのが、気づけば若者が集う原宿に店を出しているような状況に変わったわけです。この分析結果を受け、早速SNS映えする華やかなメニューや低単価商品を加え、若年層の需要に対応しました。店頭の見せ方も中価格帯の商品を大きく扱い、ポップな宣材を用意するなどした結果、予想を上回る成果が得られました」(小田島氏)
こうした対策が功を奏し、2020年10月には、参道の通行者数が対前年比で9割を切っていたにもかかわらず、来客者数は約109%、売上は約118%を記録しました。苦しい時期にあっても常に蓄積したデータを分析し新しいビジネスチャンスを探していたからこそ、同店はコロナ禍の被害を最小限に食い止められたと小田島氏は言います。
デジタル化で蓄積したデータをどう活用するかがテーマ
小田島氏は「今後、日本の企業はDXがますます必須となる」との想いから、CEOを務める株式会社EBILAB(エビラボ)で、ゑびやで蓄積されたノウハウを統合したクラウド型の店舗分析サービス「TOUCH POINT BI」を展開しています。
「日本の人口減少、生産年齢人口比率の減少にともなう人材不足やマーケットの縮小、原価の高騰や固定費の上昇などを考えると、これまでと同じ経営戦略では生き残っていけないと思っています。そのため、日本の企業は生産性を大幅に向上させていく必要がありますが、そこにDXの活躍の場があると考えています」(小田島氏)
同社で提供される情報は「POS分析」「来客予測」「天候 などのオープンデータ分析」「人流分析」「アンケート分析」「原価分析」など、多岐にわたります。しかし、導入しただけで売上増や業務の効率化が期待できるわけではありません。重要なことは、得られたデータをどう活かすかだと小田島氏は力説します。
写真②:お客さまの出身地を棒グラフで見える化したマップ データ
「例えば、お客さまからアンケート調査で大量のデータを取得できたとしても、そのすべてに目を通すのは大変ですし、その回答の文脈に潜むニーズを汲み取り、有効活用するのは困難です。そのため、人が日常的に使う言語をコンピューターで解析する自然言語処理などを利用するのも有効です。その解析の中で、例えば『残念』という言葉に『出汁』という言葉が多く紐づいていたなら、出汁を改善することが必要といったことが分かってきます。また、データの取得方法にも工夫が必要です。例えば、お客さまがどこから来られたのかをデータ収集し、マップ(写真②)を作りたいと考えた場合、お客さまに住所を聞くのはハードルが高いですが、郵便番号なら比較的簡単に情報提供に応じてくれるでしょう」(小田島氏)
また、データを有効活用するための視点として、小田島氏はこのように指摘します。
「データの活用法は無限にありますが、どう事業を構築するか、どうアクションを起こすかなどの経営ビジョンがなければ、DXも宝の持ち腐れです。自分たちのビジネスプランを測定・分析し、次の一手に活かせるか否かは使い手の考え方次第なのです。そして、得られたデータからどのような新しい商機を導きだせるか。これからはデータをきちんと読み込めるデジタル人材を育成することも、企業の生き残りのために重要な業務になっていくでしょう。高度なデータ分析を経営戦略に活用しようとする企業は、確実に増えていくと思います」(小田島氏)
「日本の将来推計人口」(人口問題研究所)によると、2050年には日本の人口は1億人を割り込み、2060年には現在の約30%減になると報告されています。マーケットの縮小、原価率の高騰、固定費の上昇などが確実に予測されるなか、国内生産力の衰退に歯止めをかけるためにも、小田島氏が指摘する通り日本の企業には今後デジタル化だけでなく、得られたデータを有効に分析できるデジタル人材の育成が強く求められていく時代になると思われます。
- ※ DX
- Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略で、直訳するとデジタルによる変容。進化したICT技術を用いることで、人々の生活やビジネスがより良いものへと変容(変革)していくこと。
会社名 | 株式会社EBILAB |
---|---|
設立 | 2018年(平成30年)6月 |
本社所在地 | 三重県伊勢市宇治今在家町13 |
代表取締役CEO | 小田島 春樹 |
資本金 | 5,898万円 |
事業内容 | サービス業向けクラウドサービス の開発・販売・サポート。企業コ ンサルティング、教育事業など。 |
URL | https://ebilab.jp/ |
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