企業ICT導入事例
-株式会社クローネ-コロナ禍による業績の悪化をSNSの活用で見事にカバーした雑貨店の挑戦
記事ID:D20012
コロナ禍による来客数の減少や売上の停滞に今も苦しむ小売業者が多い中、S N Sの双方向コミュニケーション機能を活用して顧客の囲い込みを実現し、成果を上げつつある雑貨店が注目されています。神奈川県鎌倉市で北欧雑貨などの小売りや卸売り、Eコマース※1を手がける、株式会社クローネの代表取締役・澤口 亮氏に話をうかがいました。
失われた顧客との接点をSNSの活用で復活
代表取締役 澤口 亮氏
中小企業庁「小規模企業白書2021」には、2020年度、小売業者の81.3%が対前年比で売上が減少し、24.1%がコロナ禍以前の数字には戻らないと考えていると報告されています。神奈川県鎌倉市に2店舗を構える北欧雑貨店クローネも、新型コロナウイルス流行当初は厳しい現実に見舞われ、1店舗の休業を余儀なくされました。店舗での小売り、ショップへの卸売り、そしてEコマースがクローネの売り上げを支える三本柱でしたが、いずれも深刻な打撃をこうむりました。
「緊急事態宣言が発令された2020年4月頃の来客数は、対前年で約4割減少しました。また、卸売りも得意先の休業などが相次ぎ、業績悪化に歯止めがかかりませんでした。そこで、Eコマースに期待したのですが、お店のメイン顧客であるシニア女性層は店舗での直接購入を好む方々が多く、売上の下支えには至りませんでした。そんな状況の中で活路を求めたのが、SNSの双方向コミュニケーション機能で、人と触れ合えない時代に顧客との絆を深め、売上につなげる挑戦を始めました。SNSを活用することで、Eコマースに慣れていないお客様でもリアルな買い物気分を楽しめる、新しい販売方法の模索が始まりました」(澤口氏)
もっとも取り組み当初は試行錯誤の連続でした。各種SNSを駆使し毎日投稿を続けましたが、期待する反応は得られませんでした。結局商品紹介やイベント告知など、ショップ側の情報を一方的に発信するだけでは、お客様の購買意欲を刺激するには到らなかったのです。澤口氏は改めてSNS最大のメリットである双方向性の活用に着目、リアルな接客が叶わない時代ならではの方法論の確立に成功しました。
Instagram※2のライブ配信から生まれたコアな顧客層とコミュニティ
毎週2回定時に配信される「クローネチャンネル」 は素朴な手作り感も魅力
「まず最初に、話題の商品などをスタッフが実際に手に取って紹介する動画『クローネ1分間チャレンジ』をInstagramで公開しました。すると、ダイレクトメッセージ※3でお客さまからの注文が相次いだのです。これにより、Instagramからでもモノが売れるという手応えを感じました。
現在ではライブ配信の『クローネチャンネル』へと進化し、配信回数は200回を超えています。配信は毎週火・土曜日の朝10:00から30分間行っています。スタッフが商品を紹介するそばから『おいくら?』『裏側も見せてください』など、視聴者のリクエストがコメント欄に投稿され、即座にお応えする形で進めています。商品の魅力がリアルに理解できると、大変好評です」(澤口氏)
このシステムのもう一つの利点は決済の簡略化でした。通常、オンライン上のオーダーや決済はEコマースのサイトに移動して行う必要がありますが、同社ではタブレットPOS※4とオンライン決済アプリを導入し、Instagramのダイレクトメッセージ内でのやり取りで商行為を完結させています。お店はウェブの管理画面で各オーダーの件名や金額が入った請求書を作成して顧客にURLを送信し、受信した顧客はURLから決済ページに入り、決済を完了させられる仕組みになっています。これにより従来のEコマースに比べて、大変簡便なショッピングが可能になりました。
「『クローネチャンネル』の配信中は、多い時は一回で1,000件を超えるメッセージが寄せられました。また、商品にまつわる話題だけでなく、コメント欄がお客さま同士のおしゃべりスペースとなるなど、クローネを中心にお客さまが共感を共有する場へと発展しています。最近は、参加型の動画も多く企画し、配信中に紹介したグッズの値段当てクイズを行うなど、工夫を凝らしています」(澤口氏)
ライブ配信には目立った投資も必要なく、スマートフォンを活用
Facebookの活用でファン同士の交流が活発化
同社では、Facebookのグループ機能を利用した新たなコミュニティ形成にも乗り出しています。
「Instagramは、店をコアとしたファンの集合体形成には有効ですが、ファン同士の直接交流には適しているとは言えませんでした。そこで、ファン同士のコミュニケーションが楽しめるよう、Facebook内に承認制の『北欧雑貨クローネのバックヤード』を立ち上げました」(澤口氏)
同社は、これらSNS活用の効果もあり、顧客リピート率が着実にアップし、さらに客単価もコロナ禍前に比べて約30%アップしました。
「双方向の交流を通じて、お客さまの好みに対する理解が進み、以前と比べて仕入れの確実性が増しました。また、お客さまの人となりに触れられたことで、需要を先取りした仕入れも可能となり、最近では『なぜ私の好みを知っているの?』『この店で買うものに間違いはない』といったメッセージが多数寄せられています」(澤口氏)
お客様こそクローネにとって最高のインフルエンサーだと澤口氏は言います。SNSから生まれたニーズを仕入れに反映し、そこからヒット商品が生まれる好循環が、同社から多く生まれています。
お客さまとともに考える商品企画会議を開催
「SNSからは、お客さまと一緒に開発したオリジナル商品も生まれました。商品企画会議をInstagramのライブで配信し、お客さまにもコメント投稿で会議に参加していただいたのです。活発な意見交換の結果、お店とお客さま双方の想いがこもった、より素敵なモノ、欲しいモノの誕生が叶いました。こうした交流は今後も継続しつつ、将来的にはアイデア交流だけでなく、購入型クラウドファンディング※5を利用するなど、さまざまな形でお店とお客さまの絆をより強くする企画の実現を目指したいと考えています」(澤口氏)
「キーホルダーがほしい」「木製品がほしい」など、商品企画会議 のお客さまの声を反映して作られたオリジナルキーホルダー
SNSは宣伝の場ではなくお客さまとの絆を育む場
こうした取り組みにより、売上は以前を上回る水準で推移しているものの、同社全体の来店者数はコロナ禍前の水準まで戻っていません。そこで最近、SNSを活用した第3の取り組みとして「オンライン接客」を始めました。これは、例えば20分500円など時間枠を販売し、お客さまにはスマートフォンの映像と音声を通じてお店でのショッピングを楽しんでもらうものです。接客はスタッフがマンツーマンで行い、リアルタイムで要望に応えています。しかし、澤口氏はSNSを上手に活用するために必要なことは、「販売より、お客さまとの関係構築を重視することだ」と言います。
「SNSは商品名を連呼する場ではなく、お客さまとの絆を育む場だと考えています。直接的な販売増を期待するのではなく、お客さまとのより良い関係構築のために活用するイメージです。人が集まれば、そこにビジネスが生まれます。それならば人をどう集めるか、集めた人をそこにどう留めて逃さないか。SNSの活用ポイントは、そこにあると思っています。先日は「スナッククローネ」と名づけたリモート集会を開催し、2時間以上にわたってお客様と一緒に楽しいオフタイムを過ごしました。両者の絆をより深める素晴らしい体験となりました」(澤口氏)
まだまだ直接的な接触がはばかられる現在、SNSのビジネス活用を考える企業にとって、SNSの特徴や機能を活かした株式会社クローネの取り組みは大いに参考になりそうです。
- ※1 Eコマース
- インターネット上で商品やサービスの売買を行う電子商取引のこと。
- ※2 Instagram
- SNSの一つで、写真や動画を無料で共有できる無料のアプリケーションのこと。
- ※3 ダイレクトメッセージ
- SNSで第三者に開示されずに情報をやり取りできる機能。D Mとも呼ばれる。
- ※4 タブレットPOS
- タブレット端末やスマホに専用アプリのダウンロードを行い、POSレジの機能をもたせたもの。
- ※5 購入型クラウドファンディング
- リターンに特別な物やサービスなど、金銭以外が設定されたクラウドファンディング。
会社名 | 株式会社クローネ |
---|---|
設立 | 2005年(平成17年)3月 |
本店所在地 | 神奈川県鎌倉市御成町3-10 |
代表取締役 | 澤口 亮 |
資本金 | 300万円 |
事業内容 | 北欧雑貨を中心としたアイテムの小売り、卸売り、Eコマースを手がけている |
URL | https://www.hokuouzakka-krone.com/ |
https://www.instagram.com/krone_kamakura/ |
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