企業ICT導入事例

-株式会社村ネットワーク-
ホームページに営業を担わせた身の丈に合ったDX戦略

記事ID:D20019

大分県で野菜の加工・販売などを手がける株式会社村ネットワークは、コロナ禍で収益の柱を失い、厳しい経営を強いられていました。しかし、既存のホームページをリニューアルし、充実したLP※1と、より具体的なコンテンツを展開したことで、対前年比約200%の売上を実現して危機を乗り切りました。同社のDX※2戦略をリードする、常務取締役の應和おうわ 春香氏に話をうかがいました。

業績好調の中小企業がコロナ禍で売上半減の危機に

常務取締役 應和おうわ 春香氏

 株式会社村ネットワークは、大分県豊後大野市でカット、パウダー、ペースト、アルファ化※3など野菜の加工や販売を手がける、従業員14名の企業です。県内の学校給食に使用されるカット野菜事業を収益の柱とし、近年は自社ブランドの小売事業やメーカーなどの受託加工事業も展開し、業績は順調に推移していました。

 「ビジネスは一見好調でしたが、売上全体の45%をカット事業に依存していたため、同事業に何かあった際のカバリングが困難という明確な経営課題がありました。そのため、他事業の売上比率を高める必要性を感じていました。また、学校の休暇期間には工場稼働率が極端に下がる業務効率の悪さも問題で、繁忙期である秋冬期を100とすると8月の稼働率は10を切っている状況でした。そこでパウダーやペーストなどの受託加工事業の拡大で解決を図ったのですが、新しい一歩を踏み出そうとした瞬間、コロナ禍で経営戦略に大きな狂いが生じました」(應和氏)

 収益を支えていたカット野菜事業が、全国一斉休校の影響でストップを余儀なくされ、同社は売上の約半分を突如失いました。應和氏が懸念していた課題が図らずも顕在化し、同社は大きな危機を迎えたのです。

 「中小企業にとって重要なビジネスチャンスとなる、商談会や展示会も中止が相次ぎました。弊社の規模では営業に専任スタッフを確保するのも難しく、このような場が失われたのはかなりの商機損失となりました。また、たとえ商談にこぎつけたとしても成約に至る確率は決して高くなく、その割に書類作成や連絡などに費やす手間はかなりの負担で、本当に八方ふさがりの状況に陥ってしまいました」(應和氏)

営業担当者は「ホームページ」 復活はここから始まった

写真①:内容が薄く、同社の魅力が伝わりづらかった 以前のホームページ

 限られたスタッフがより効率的に働ける環境を作るために、應和氏はまず地元の商工団体や自治体のアドバイス・支援を受けながら、中小企業にふさわしい新たな営業スタイルの確立を模索しました。そこで導き出された解決策が、同社のホームページをリニューアルし、営業業務まで担わせる「ホームページに営業させよう!」というビジネスビジョンをもったDX戦略でした。

写真②:同社の事業、魅力、訴求点をすぐにイメージできる現在のLP

 「しかし、当時の私は正直この方面に疎くて、『DXってデラックスのことですか?』なんて状態からのスタートだったのです(笑)」(應和氏)

 以前の同社のホームページはイメージ優先型で、会社のこだわりやコンセプトをビジュアル中心で訴求することに重点が置かれていました。例えば野菜の受託加工事業の紹介ページでは、具体的な説明に力を注ぐよりも、とりあえずお問い合わせフォームへの誘導を優先するスタイルで、顧客のニーズに応えるには乏しい内容でした(写真①)。その結果、多くの見込み客を逃していた可能性があります。そこでLPを見直し、事業紹介や商品紹介、同社の優位性から見積もり、成約までをワンストップで閲覧・完結ができるように改良しました。各コンテンツも具体的な内容に変わり、顧客が知りたがっている情報をより分かりやすく伝え、使いやすい構成にしました(写真②)。また自社内での運用を容易にするため、作成には汎用性の高い「ワードプレス」を採用しています。

 「特に力を注いだのが『自動見積もりシステム』(写真③)の導入です。加工したい野菜の種類、加工方法、量などを入力すると、その場で訪問者に見積金額が表示されます。金額に納得いただければ、電話などで問い合わせをすることなくそのまま仮申込みフォームへと進めます。『いつでも、どこでも、簡単』なこのスタイルで、より少ない手間でより成約率の高い見込み客との商談が可能になりました。新しいホームページは、期待した以上に優秀な営業担当者になってくれたのです。さらに、首都圏を始め九州以外のエリアに商圏が拡大するなど、ネットならではの波及効果も生まれています」(應和氏)

問い合わせが殺到し前年比2倍の売上を実現

写真③:食材の種類、加工方法などが入力できる「自 動見積もりシステム」

 自動見積もりシステムは、2021年5月のオープンから4ヵ月間で330件の利用を記録、問い合わせ数は1,000件を突破しています。應和氏も「対面や電話で営業活動をしていた時代には考えられなかった数字に驚いた」と話します。また、成約率の向上も顕著で、当時約7%だった受託加工事業の売上比率は一時期約17%に上昇し、部門売上は対前年比201%を記録しました。計画当初は同業他社に見積金額を明かしてしまうリスクも懸念されましたが、その場で金額が提示されるユーザーフレンドリー※4な発想が成約率の向上に結びついたと分析し、実績が不安をはるかに上回ったと言います。また、蓄積されたデータはクラウド「Googleスプレッドシート」で社内共有され、新規商品開発や販売戦略に利用するなど、二次活用への取り組みも始まりました。

 「工場稼働率の平準化も実現できました。学校が休みの時期も含めて現在の年間平均稼働率は約80%を達成しています。平準化は業務効率の向上はもちろん、従業員の働き方の安定にもつながっています。これらは、技術的にも予算的にも決して無理をしない地道なDXだったからこその結果だと考えています。決して自慢できるデジタルリテラシーを持たない弊社が、いきなり大予算の新規システムを導入しても、対応に苦慮するばかりで宝の持ち腐れになってしまった可能性は否定できません。身の丈に合った持続可能なDXが成功のカギだったのだと確信しています」(應和氏)

 現在同社ではホームページにブログやSNSを組み合わせた、より多角的な情報発信を展開しています。このような取り組みが認められ、同社は2021年度全国中小企業クラウド実践大賞全国商工連合会会長賞を受賞しました。

 DXは難しい。そんなイメージが先立ち、導入に消極的な企業も少なくないと思われます。できることからDXを推進し、新たなビジネスを創出した同社の取り組みは、多くの企業にとって有益な示唆に富んでいると言えるでしょう。

※1 LP
Landing Page(ランディングページ)の略。検索エンジンやウェブ広告などを経由して、ユーザーが最初に到達したウェブページのこと。
※2 DX
Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略で、直訳するとデジタルによる変容。進化したICT技術を用いることで、人々の生活やビジネスがより良いものへと変容(変革)していくこと。
※3 アルファ化
「糊化」のことで、デンプンを含む食材を加熱処理し、デンプンの分解効率を良くしたもの。例えば米を炊いて柔らかくなった状態のもの。
※4 ユーザーフレンドリー
ユーザーにとって使用方法が分かりやすいこと。
会社名 株式会社村ネットワーク
創業 2005年(平成17年)
本社所在地 大分県豊後大野市大野町田中43-12
代表取締役社長 小原 秀樹
資本金 1,000万円
事業内容 野菜カット・野菜ペースト・カットフルーツなどの製造加工販売
URL https://muranetwork.com/
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