電話応対でCS向上コラム

第111回「良き問いは、答えに優る」

記事ID:C10080

生成AIの活用が、爆発的に世界中に広まり、関心を集めています。対話型AIのChatGPTに私が初めて出会ったのは、今年の1月でした。日本人が日本語で問いかけても、どんな問いにも即座に、それもきちんとした日本語で答える、それは不思議な驚きでした。それから半年、その信ぴょう性の保証はないにしても、パラメーターという学習規模の驚異的な膨らみは、今や企業も公的な機関も無視のできない段階に来ているようです。皆さんの周辺の関心度は如何でしょうか。

問われるChatGPTへの質問力

 ChatGPTが、信じ難い速さで即答するのを聞いて、私が先ず思ったのは、これからは「質問力」の時代になるだろうということです。質問が明快でなければ、AIは見当はずれなことを答えるかも知れません。適切な返答を得るには、「知りたいことのポイントを押さえて、簡潔な言葉で訊くこと」です。これはインタビューの基本でもあります。「同時通訳者が通訳しやすいように訊け!」新人アナウンサーの頃、先輩からは、そんな言葉で、この基本を教わりました。
 AIの進歩が今後の電話応対にどのように影響するのかは、まだ分かりません。ただ、聴く、訊く、話すという、AIには真似のできない人間の対話力は、ますます重要になってくるでしょう。
 先月号でも触れましたが、AIの対話は「音」です。人間の対話は「声」です。AIの音は無機質に質問に答えますが、人間の声には「情」があります。対話の質が全く違います。ChatGPTの導入は、電話応対者の訊く力のレベル向上に大きく関係してきます。

質問しない日本人

 日本の言葉文化は「察しの文化」ですから、あまりしつこく質問をしたりはしません。納得できなくても、どこかで察してしまうのです。したがって「質問力」に特化した教育もあまり聞きません。曖昧に察して済ませることは、ビジネスでは致命傷になりかねないのです。
 外国事情に詳しい人に聞きますと、欧米などでは、質問時間を十分にとって、そこから議論が白熱することがよくあるそうです。日本では、質疑の時間はサービス程度に軽く考える傾向があるため、核心を突く質問がなかなか出ないのです。遠因を探れば、子どもの頃から、質問を重視したトレーニングを受けてこなかったことにあるのでしょう。
 大分以前にドイツ文学者の小塩 節さんにうかがった話を思い出します。小塩さんは研究のために数年間ドイツにいたことがあります。幼かったお子さんが、ドイツの小学校に入学しました。数年後、日本に戻った小塩さんとともに、お子さんも帰国し、都内の小学校に編入学しました。ところが日本の学校に馴染めず、登校拒否になったというのです。その理由はこうです。小塩少年にとって、日本の授業には分からないことがいっぱいあります。そこで手を上げて訊きます。すると同級生たちが声を立てて笑います。初めのうちはその都度答えてくれていた先生も、小塩少年一人に授業を中断されるので、だんだんうるさそうにして取り合わなくなったというのです。ドイツの小学校では、先生が授業の最初に子どもたちに教える基本が二つあるそうです。①は、分からないことがあったらその場ですぐ手を上げて訊きなさい。②は、人の質問を決して笑ってはいけない。この世の中に、くだらない質問はないのだ……。教育環境の違いはあるにしても、ドイツの先生は、質問することについての大事な基本を教えていると思いました。

訊き手き て次第で話は大きく変わる

 「良き問いは、答えに優る」という言葉があります。アナウンサーのインタビュー研修で、基本の心構えとして教えてきました。どのような質問をし、どのようなリアクションで聴くかで、インタビュー番組は全く違うものになります。研修手法の一例をご紹介します。
 豊富な人生経験や仕事の実績をお持ちの方お一人に、インタビューを受ける役をお願いします。受講者の3人のアナウンサーは、同じ方に別々に話を訊くのです。すると、設定は同じでも、訊き出せた話は驚くほど違ってきます。そこには訊き手の興味・関心だけでなく、人生観まで見えてきます。まさに訊き手の力量を問われるのです。
 ChatGPTの登場は、「訊く力」の大切さに目を向けるチャンスです。簡潔な言葉で、核心を押さえた訊き方ができること。これからの人間応対者に求められる能力でしょう。
 最後に、良い訊き方のポイントを一つ。「具体的に訊けば、具体的な答えが返る」

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会検定委員。
NHK アナウンサー、(財)NHK 放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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