電話応対でCS向上コラム
第52回 考える電話応対を目指す日本の教育が変わる
日本の教育がようやく変わろうとしています。長く続いた知識中心の教育から、考える力を育てる教育に舵を切り替え始めたのです。大学入試も2020年から、従来の知識中心のマークシート方式から、思考力重視の試験に大きく変わります。それに合わせて小学校、中学校、そして高等学校の学習指導要領の改変も発表されています。
日本の社会の営みの根底には、何ごとによらず、判断の基準となる「正解」がありました。そのため、ことに当っても、考えさせることよりもその正解を教えるのが日本流の教育でした。詰め込み教育からゆとり教育へ、昭和の後半から平成にかけて、さまざまな成果とひずみを生んだ日本の教育は、ここに来て脱ゆとり教育を目指して「考える教育」への転換を図ろうとしています。大学入試が2020年改編で標榜するその三つの柱とは、思考力、判断力、表現力を伸ばすことにあります。
もしもし検定が目指すもの
2009年にスタートした電話応対技能検定(もしもし検定)は、受講者5万人の大台を見据えて、着実な広がりを見せています。検定の精神は「心、ことば、そして愛」です。そして10年前に掲げたその目標は、国の掲げる教育改革案と同じ「思考力、判断力、表現力」だったのです。少々尊大な言い方をお許しいただければ、「もしもし検定」は10年前に既に時代を先取りしていたとも言えるのです。しかし考え方は先行していても、実際の電話応対教育にはまだまだ多くの課題が残されています。
長年の正解至上の考え方が、柔軟に考える力を抑えているのです。世の中には、これが絶対の正解と言えるものはそうはないのです。マニュアル一つとっても、それが正解とは限りません。ですから正解を覚えることよりも、正解を求めて考えることのほうが正解なのです。
マニュアル応対は思考を止める
各企業に応対マニュアルが整備され始めたのは、もう数十年も前でしょうか。コールセンターやコンタクトセンターでは、経験のない人でも一応の応対はできるようになりました。そこでは、全部とは言いませんが、考えて判断して応対することはむしろ禁じられたのです。一昔前には、難題が起こると、まず何を調べれば正解に行き着くかを考えました。そのための試行錯誤をしてきました。ところが今のインターネット社会では、コンピューターに触れることで、ほとんどの正解(らしきもの)は簡単に手に入ります。考える必要はないのです。そして時代はさらに進んで、今急ピッチでAI時代を迎えています。
考える習慣をつける
東京大学の経済学者・柳川範之さんによれば、「考える能力」とは、「頭の良し悪しとは関係ない。それは習慣やクセの問題だ。そしてそのクセがつくのは、物心つく幼児から小学校低学年の頃なのだ」そうです。幼児はたくさん質問します。「これ何?」「なぜこうなるの?」「どうして?」この幼児の問題意識を親がしっかり受け止めてやれば、子どもは成長しても、たくさんの疑問を持って考える大人になるというのです。
有名な松下電器〈現パナソニック〉の創業者・松下幸之助さんは、部下が社長に相談に来ると、答える前に必ず「あんたはどない思うんや?」と問い返したそうです。部下は社長に相談する前にしっかり考えて、自分の案を持ってから行かないと答えてはもらえないことを知ります。この話はかなり知られた話ですから、ご存じの方も多いでしょう。
では、考えるクセをつけるにはどうすれば良いのでしょうか。難しく考える必要はありません。
毎日の昼食。どこで食べようかと相談しても、いつも意見を言わない人がいます。店に入ってからも、「何にする?」「どうしようかなぁ」「同じでいいや」と全く主体性のない人もいます。日常生活の中で、たえず考えて、自分の意見を持って発言するクセを習慣づけてください。その習慣が、マニュアルを超えて考えて話す電話応対につながるのです。
AIが瞬時に正解をくれるこれからの時代に、人間が担う電話応対とは、考えて判断して話す応対だと思います。
岡部 達昭氏
日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員会委員長。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。