電話応対でCS向上コラム
株式会社ドゥファイン-第71回 多様性を実践できるお客さま志向の応対力を
記事ID:C10131
ある携帯電話のコールセンターで
新入社員でコールセンター業務に携わり、すでに35年超え。そろそろ、自分のキャリアの仕上げを考える時期を迎えました。本当に多くのお客さまとさまざまな事案でお話をさせていただき、たくさんの学びがありました。企業の代表としての応対なので、基本的には用意されたスクリプトやルールに沿って応対します。受注系のセンターでは、商品やサービスの受注率を意識し、売上貢献が目標となり、必然的に応対も営業寄りになりがちでした。
その会社では、海外旅行の際に、現地で自分の携帯番号をそのまま利用できる、携帯電話のレンタルサービスを提供していました。今でこそ日本で使っている携帯電話は海外でもそのまま使えますが、当時はそのまま使うことができませんでした。
ある日、センターの電話が鳴り続ける中で、高齢の男性からの電話を受信しました。
奥さまとの初めての海外旅行で、携帯電話を使いたいとのお申し出でした。通常通り受付をし、操作や設定について説明をしましたが、どうも端末の操作が苦手なご様子です。簡単にご理解いただける状況ではなく、1時間近く説明をし、その日は終了。その後「もう1回教えてほしい」と数回、ご連絡をいただきました。
本来は、指名を受けての電話応対はルール違反です。しかし、このお客さまに限っては、状況を把握している私が応対する方がスムーズと考え、引き続き私が応対させていただきました。SIM カードの入れ替えや設定など、私たちにとっては何でもないことも、このお客さまにとってはとても難儀な作業のようでした。
勇気を振り絞って
出発日まであと1週間。「このまま海外にお持ちいただいても、結局使えずに荷物になるだけ。初めての海外旅行。せっかくの奥さまとの楽しい旅行が、携帯電話の操作に時間を費やすことになってしまっては……」思い切ってお客さまに、「携帯電話を貸し出さない」という提案をしました。お客さまは少しの間、無言でお考えになり、「そうだね。せっかくの旅行が台無しになるところだった。私に提案するのに勇気がいったでしょう。正直、びっくりしたけれど、私たちのことを思って言ってくれたんだね。ありがとう」とおっしゃってくださいました。少々不安が残っていても、営業の視点ではレンタルをおすすめしがちでしたが、お客さまの情況を察した「売らない営業」がCS の向上につながり、目からウロコが落ちる思いでした。
人手不足の折、最近では、電話もAI が応対する時代になりました。ただし、現在のAI では、お客さまの個性やお気持ちまでを気づかい、細やかに応対することは難しいかもしれません。
お客さまとの出会いは一期一会。AI に取って代わられないように、電話の向こうのお客さまと真摯に向き合い、日々の反省を忘れずにお客さま応対力をもっともっと、磨いていきたいと思っています。

楠田 奈美氏
株式会社ドゥファイン 執行役員CQO。約35年間、国内及び海外(アメリカ・スペイン)コールセンターの運営管理、並びにオペレーター経験から、現場感のある生きた事例を取り入れた実践的研修が得意。また、海外コールセンター構築時に現地で培ったマインド醸成やチームビルディングをテーマとする研修も担う。今もコールセンター内を毎日、忙しく走り回りながら研修の事例を探しています。電話応対技能検定指導者級資格保持者。