企業ICT導入事例

-横浜市役所-
ごみの分別をAIがチャットで回答。電話応対する職員の負荷を軽減し、市民サービス向上へ

ごみの分別は資源の再利用に不可欠ですが、一方で自治体ごとにルールが異なることに戸惑う人も少なくありません。横浜市は、そうした分別の問い合わせにAIを導入し、24時間365日の的確な回答体制を実現しました。

【導入の狙い】ごみの分別ルール回答を電話とAIにより複線化。「きちんと分別したい」という市民のニーズに昼夜の分け隔てなく答える。
【導入の効果】1ヶ月あたり6万件の問い合わせをAIが処理。人的リソースの最適化で問い合わせ対応以外の業務への注力を実現。

「10分別15品目」への問い合わせが週明けなどに集中

▲横浜市 資源循環局 政策調整部
3R推進課長 江口 洋人氏

横浜市資源循環局は、人口374万人を擁する横浜市で、廃棄物の収集、運搬、処理、処分を担当しています。また現在、「ヨコハマ3R夢(スリム)プラン推進計画」に基づき、「横浜らしい循環型社会」実現に向けての取り組みも進めています。

「3Rはリデュース(Reduce=発生抑制)/リユース(Reuse=再利用)/リサイクル(Recycle=再生利用)という言葉の頭文字をとったものです。この3つのRのうち、特にごみそのものを少なくするリデュースにご協力いただけるよう、市民の皆さまにお願いしております。またリユース、リサイクルを推進するため、横浜市はごみを10分別15品目で収集し、市民の皆さまにも多大なご協力をいただいております」(江口氏)

この「10分別15品目」というルールは特に多いわけではなく、全国の政令市においても標準的な分別ルールです。しかし、全18区の資源循環局収集事務所、そしてコールセンターへ、分別についての問い合わせ電話が多く寄せられていました。

「電話で多くのお問い合わせが寄せられることは、正しくごみを分別したいという市民の皆さまのお気持ちの表れで、ありがたいことです。そしてそうした電話に丁寧に受け応えするのも私たち資源循環局職員の業務です。しかし、人的リソースには限りがありますし、週明けの月曜日、年度末や年度初めなどの引越シーズンにはお問い合わせが集中するため、ほかの必要な業務に割く時間が十分に取れなくなることもあります。そのため、何らかの対策の必要性を感じていました。その一方で、市民の皆さまにより広くごみの分別ルールについての周知を行い、燃やすごみに混入している資源物を減らすことも課題となっていました」(江口氏)

すでに整備されていたデータベースとAIを連携させ開発

この課題は2016年8月、解決に向け第一歩を踏み出すことになります。それはNTTドコモによる、ある提案でした。

「横浜市には公民連携、つまり役所と民間事業者の連携に関する窓口『共創フロント』があります。ここにNTTドコモから、AIを活用した連携ができないかという提案があったのです。共創フロントの事務局である政策局共創推進課がその提案を検討した結果、資源循環局での活用が決まりました」(江口氏)

資源循環局では2011年より、品目毎のごみ分別に関わるデータベース「MIctionary(ミクショナリー)」の整備を進めています。当初300から500項目で始まったデータは、市民から問い合わせのあった品目を随時追加し、5年間ほどで約2万項目にまで拡大しました。そこで事務局はこのMIctionaryとAIとを連携させ、ごみの分別ルールについて、インターネットを使ったチャット形式で回答できないかと考えたのです。

「導入に向けての作業は2016年10月に始まりました。資源循環局は、AIが利用者の質問に適切に答えることができるよう、質問のパターンとそれにどう返答するかというシナリオを作成するとともに、NTTドコモにより紐づけられた質問キーワードとMIctionaryデータの確認作業を担当しました。NTTドコモは、会話を実現するためのシステムを開発、調整しました。シナリオは資源循環局のキャラクターである“イーオ”から利用者への問いかけで始まり、『品目名だけ』『品目名+出し方』『品目名+手数料』といった質問を想定しています。AIは利用者の質問から品目がピンポイントで判断できる場合は適切と思われる答えを表示し、同じ品目でもサイズや素材により出し方が異なるものについてはそれぞれを例示します。また粗大ごみに該当するものは予約が必要なので、申込先へのリンクを表示します」(江口氏)

“笑い”を生むユーモアのある答えがニュースになり認知度が向上

また開発の過程では、共創推進課職員やNTTドコモを交えた三者による打合せを頻繁に行い、実証実験開始の直前までAIがより適切に答えることができるための調整やシナリオの確認を積み重ねました。そして2017年3月、資源循環局・ヨコハマ3R夢プランのマスコットを起用した「イーオのごみ分別案内」が、市民向けの実証実験で公開されました。

「公開後はデータ収集のため積極的な利用を職員にも促し、適切に案内できなかったケースについて情報をいただき、こちらで確認、修正を行いました。ただこれだけ短時間で市民向けの実証実験へと進めることができたのは、MIctionaryというデータベースがすでに存在していたことによるものだと思います。もし分別についてのデータベース整備も並行して作業していたら、作業量は膨大になり、公開までの時間も長くかかったはずです。また、実証実験中は『夢は?』という“ごみ以外のもの”を問いかけた際に『……捨てないことが大事な気がするな』など、AIのユーモアある答えをニュースメディアが話題にしていただいたことで、認知度が大きく高まったと思っています」(江口氏)

実証実験を終え、本格導入となった2018年4月以降、利用者から1ヶ月あたり約6万件※の問い合わせが寄せられています。

「実はこの導入により電話の問い合わせ件数がどう変化したか、有意なデータは持っていません。ただ資源循環局各事務所、コールセンターともに問い合わせ受付時間が限られている中で、24時間稼働する『イーオのごみ分別案内』の果たす役割は大きく、実際に電話でのお問い合わせを受け付けていない時間の問い合わせは、全体の3割にも上っています。これだけ多くの人が分別に興味を持ち、ご協力いただいていることは、心強い限りです」(江口氏)

近い将来の夢は多言語化、そして画像認識や音声認識の導入

最後に、今後の展望や機能強化について話をうかがいました。

「横浜市には今9万7,000人の外国人が居住し、その人口は今後も増えていくでしょう。海外のごみ事情は日本とは異なり、分別そのものの概念がない国もあります。現在『イーオのごみ分別案内』は日本語のみ対応していますが、今後はそうした外国の方に横浜市でのごみの分別を案内できるよう、多言語化を検討しています。またハンディキャップのある方がより不自由なく使えるよう、画像認識や音声認識も近い将来の課題です。さらに、粗大ごみをよりスムーズに出してもらえるように、混雑時期をプッシュ通知でお知らせしたり、分別以外のごみ全般についての問い合わせもAIが答えられるようにしたいというのが理想です。こうした理想が現実のものとなり、電話問い合わせによる職員の負担が少なくなれば、人的リソースをほかの市民サービスに向け活用ができるはずです」(江口氏)



※ 横浜市役所に寄せられた膨大な問い合わせのうち、資源循環局の「AIを活用したイーオのごみ分別案内」で対応した数値。

組織名 横浜市役所
所在地 神奈川県横浜市中区港町1丁目1
市長 林 文子
URL http://www.city.yokohama.lg.jp/
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