企業ICT導入事例

-北海道ワイン株式会社-
一日80トンのブドウを迎える繁忙期の負担を軽減 持続可能な生産を支えるワインメーカーのDX戦略

記事ID:D20050

国産ブドウ100%にこだわり、「北海道産ワイン」を造り続ける北海道ワイン株式会社。ブドウ栽培の担い手不足や、繁忙期の業務負荷といった課題を解決するためDXに取り組んでいます。今回は、道内の大学や行政とも連携したスマート農業の研究開発や、自社の主軸事業であるワイン醸造にデジタル技術を取り入れることでどのような未来を描いているのか、同社経営企画室でDX推進に取り組む眞崎 晃文氏にうかがいました。

大量の原料受け入れ業務が現場の大きな負担に

経営企画室 次長 眞崎 晃文氏

 北海道ワインは、道内2ヵ所の直轄農場に加え、多くの契約農場で栽培されたブドウを原料とするワインメーカーです。年間生産量は200万本を超え、その原料となる国産ブドウの受入量は日本一を誇ります。そのため、膨大な量の原料管理が課題となっていました。
 「ブドウは農産物ですから、収穫時期が一定期間に集中します。品種によって多少の違いはありますが、9月から10月にかけての収穫期には一日あたり80トンものブドウを受け入れる日もあり、その計量や受け入れ処理に追われるため、従業員が残業を余儀なくされることも多くありました」(眞崎氏)
 持ち込まれたブドウは品種ごとに計量され、何がどれだけあったかを記載した伝票を発行します。これらの作業はすべて手書きで行われ、さらに作業終了後には担当者が伝票の内容を社内システムへ再入力します。そのため、作業効率が低いだけでなく入力ミスが発生することもありました。こうした課題を解消し、業務の効率化と作業員の負担軽減を図るため、同社は「原料受入データ管理システム」を導入しました。

仕入れ時の計量・伝票作成とデータ入力を自動化

 「原料受入データ管理システム」は、2021年から経済産業省のデジタル化支援事業の採択を受けて開発を進めてきました。開発にあたっては、計量・演算機能を外部の開発業者が担当し、データ入力・管理システムなどとの連携部分は、社内の情報システム管理部門が自社開発で進めていきました。

 「9月・10月の収穫期は工場の人手が不足するため、ほかの部署から応援を出すこともあり、情報システム部門のメンバーも実際にブドウの受け入れを経験していました。そのため、現場を理解した上で、どこに負担があり、どのように改善すれば時短や負担軽減につながるのかを『自分ごと』として考えることができました。その結果、現場にとって本当に使いやすい、効率的なシステムになったと感じています」(眞崎氏)

 眞崎氏は、「現場の声に応えるだけ、開発部門が頑張るだけでは、真の意味で使いやすいシステムを作るのは難しい」といいます。現場を理解している開発部門がいて、社内でのコミュニケーションや改善サイクルが健全に回っていたからこそ、システム導入による工程への影響も最小限に抑えられ、スムーズなDXが進められた、と実感しています。

原料受入データ管理システム ①農家から届けられたブドウを計量器へ ②受け入れたブドウを計量 ③計量結果は自動でシステムへ送られる

 また、支援事業の補助金を活用してデジタル化に対応した計量器を2台導入しました。この計量器から取得されたデータは「原料受入データ管理システム」へと自動送信され、伝票発行までを一連の流れで処理できます(写真①②③参照)。これにより、伝票の手書き作業が不要となり、作業時間が大幅に短縮されました。
 「導入前と比較して、繁忙期の残業時間は一日あたり約2時間削減されています。また、ヒューマンエラーによる入力ミスもなくなり、作業効率も大きく改善しました」(眞崎氏)

官・学と連携した共同研究で スマート農業の可能性を探る

 原料受入業務のDXを通して劇的な業務改善に成功する一方で、同社は持続可能な農業の実現を目指す取り組みにも力を入れています。北海道に限らず、高齢化による離農や新たな担い手の不足は国内でも深刻な課題であり、デジタル化によって負担が軽減できれば、農業の持続可能性向上にも貢献できると考えています。

 「北海道大学で農業ロボットなどの研究をされている野口 伸教授(現・理事/副学長)とのご縁から、道内にある当社の直轄農場にてスマート農業や自動化の共同研究をしています。具体的には、北海道大学が開発したシステムを搭載した自動走行カートや、AIカメラによる植物の病気判定などの実証、さらにこれらのデータを活用した営農スケジュールの作成も試験的に行っています。ロボットハンドを用いた自動収穫も技術的には実現に近づきつつありますが、現時点ではまだ人の手のほうが作業スピードで勝っています(写真④参照)。今後は処理速度の向上や、一般の農家の方でも扱いやすい操作性の実現が課題です」(眞崎氏)

写真④/ロボットハンドによる自動収穫の実証実験 提供:北海道大学 生研支援センター事業「オープンイノベーション研究・実用化推進事業」より

 また、収穫期までの草刈り、害虫駆除といった日常的な農場作業にも自動化の余地があり、期待を寄せています。

 「農場は広大な土地ですので、春から夏にかけての営農期は草刈りや防除(病害虫からブドウを守るための栽培管理の一つ)が続きます。北海道とはいえ真夏は気温30度を超える日も続きますし、負担が大き いため、こうした作業をロボットが代替できれば、効率化だけでなく、農場で働く人への負担軽減にもつながると考えています」(眞崎氏)

DXの成功体験により高まる改善意識

 「原料受入データ管理システム」の導入により現場の負担軽減が実現したことで、社内にも前向きな変化が生まれていると眞崎氏は話します。

 「導入前は『本当にできるのか』と不安視する声もありました。私自身も、現場に混乱が生じるのではという懸念は持ちつつも、現場の労力に依存した経営には限界があると感じていたため、このシステム導入には大きな期待を寄せていました。結果として、負担軽減の効果を最も実感しているのは現場の従業員だと思います。この成功体験により、『ここも効率化したい』といった改善のアイデアも出やすくなりました」(眞崎氏)

 こうした取り組みにとどまらず、眞崎氏自身も業務改善のためのツール開発に挑戦するようになりました。

 「2025年頃から生成AIを業務に取り入れています。企画立案に活用するだけでなく、ワインの在庫管理などアナログで行われている業務にも使えたらと思い、Google Apps Script(Googleが提供する自動化ツール)を活用し、在庫管理用の表計算シートなどと連動して在庫量の変化を自動で管理できる仕組みを構築し、現場で運用しています。また、環境保全の取り組みの一環として、経理データから二酸化炭素排出量を算出するシステムも作成しました。その結果、電力依存の高さやタンク冷却に使う水のコストの負担など、当社が抱えるエネルギーリスクの存在にも気づき、その対策を進めているところです」(眞崎氏)

 農業関連企業にとって、収穫期の繁忙は避けられません。今は人手で対応できていても、人口減少が深刻化する中、今後も同じ体制で維持できるとは限りません。「ここはどうしても人の手でないと」とこだわりたい工程があるからこそ、一人ひとりの業務負荷を適正化するデジタル化への取り組みは重要です。

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会社名 北海道ワイン株式会社
設立 1974年(昭和49年)1月
所在地 北海道小樽市朝里川温泉1-130
代表取締役社長 嶌村 公宏
資本金 4億4,689万円
事業内容 北海道産をはじめとする国産ブドウ100%使用の日本ワイン醸造・販売、営農指導やワイナリーツアーを通じたワイン文化の醸成にも取り組む
URL https://www.hokkaidowine.com

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