企業ICT導入事例

-小柳建設株式会社-
現場を仮想空間で再現して生産性を向上 業務と働き方を改善した建設会社のDX戦略

記事ID:D20049

小柳建設株式会社は、「ホロストラクション」に代表されるさまざまなDXを推進し、長時間労働が当たり前とされてきた旧来の企業風土を改革してきました。その結果、生産性の向上と従業員の働き方改善を実現しています。今回は、同社COOの中靜 真吾氏に、これらの取り組みの背景や、DXで成果を上げるためのポイントについて話をうかがいました。

システムのクラウド化で快適な仕事環境を整備

専務取締役 COO 中靜 真吾なかしずか しんご

 新潟県三条市に本社を置く小柳建設株式会社は、土木建築事業を中心とする総合建設企業であり、特に浚渫しゅんせつ技術※1において全国的に高い評価を得ています。同社は近年、生産性の向上と従業員の働き方改善を目標にDXに積極的に取り組んできました。その結果、2024年11月以降、安全衛生優良企業マーク推進機構が認定する「ホワイト企業ランキング」において、1位を獲得し続けています。
 しかし、十数年前の同社には高度経済成長期の価値観が色濃く残っており、非効率な業務や長時間労働が常態化していました。当時を振り返り、中靜氏は次のように語ります。

 「建設事業は工期が限られた有期事業であり、工事ごとに事業所が移動します。そのため従来からリモートワークが多く、関係者間のコミュニケーションが不足しがちでした。これが属人化や残業時間の増加につながり、生産性が上がらず営業利益率も低迷していたため、会社の将来に対する危機感が高まっていました。そこで2014年、現社長(小柳 卓蔵氏)の社長就任を契機に、生産性向上に向けたDXへの取り組みを開始しました」(中靜氏)

 最初に着手したのは、社内基幹システムのクラウド化でした。それまで同社ではオンプレミス※2環境でシステムを運用していましたが、この形態は社内利用を前提としているため、社外での業務が多い建設業には適していませんでした。また、災害時におけるデータ消失のリスクも課題となっていました。こうした背景から、従業員が時間や場所にとらわれずに情報へアクセスし、円滑にコミュニケーションを行える環境を整えるため、クラウド化を進めました。

 「クラウド化を進めることによって、それまで個人の手元に留まっていた情報が可視化・共有化され、属人化の解消が進みました。その結果、業務の効率化やノウハウの継承にもつながりました。さらに2021年に竣工した新オフィスでは、個人の机から引き出しを撤去し、書棚も最小限に抑えることで、必要な情報をすべてクラウド上で共有する体制を強化しました」(中靜氏)

 その後も同社は、社内コミュニケーションをメールからチャットへ移行し、情報伝達の迅速化と精度向上を図りました。また、契約書や請求書の電子化を進めるとともに、電話応対業務を全面的に外部委託するなど、業務改革を継続的に進めました。
 さらに、スマホで撮影した工事現場の画像や動画にGPS情報やコメントを付与して共有できるアプリを自社開発しました。このアプリは、報告・連絡・指示といった日常業務を迅速化し、災害発生時の状況把握の迅速化にも寄与しています。

ホロストラクションが DXの推進に大きく貢献

 2019年からは、日本マイクロソフトとの連携により開発した「ホロストラクション」の運用を開始し、同社のDXは大きく進展しました。ホロストラクションは、頭部に装着したヘッドセットに3次元のMR(複合現実)を投影し、仮想空間を現実のように体感できる技術です。VR(仮想現実)やAR(拡張現実)を発展させ、3次元CGと実写データを組み合わせて可視化することで、離れた場所にいても同一空間を共有してコミュニケーションを行えるようにしています(画像1、2参照)。

  • 3DCADデータをホロストラクションのクラウドにアップすることで、さまざまなシミュレーションが行える(画像1)

  • 3Dモデルを目の前に、あらゆる角度から検証を進めることができる(画像2)

 「今も昔も、建設業務は設計図を基に進みますが、多くの顧客は図面から完成後の姿を具体的にイメージできません。更地の状態ではなおさらです。そのため従来はジオラマを制作して共有していましたが、実際のサイズ感を再現できず、顧客が納得するまで作り直しが繰り返されることも少なくありませんでした。さらに、施工中の仕様変更も多く、コスト増の要因となっていました。また、打ち合わせや検証のたびにオフィスと現場を往復する必要があり、大きな時間的ロスも発生していました」(中靜氏)

 こうした課題に対し、同社はホロストラクションに、建造物や工事現場を高精細な3次元画像で再現する「3次元データシミュレーション」や、時間の経過に応じた進捗を可視化できる「タイムスライダー」、離れた場所にいる顧客と建設現場の状況などを共有できる『遠隔シミュレーション』などの機能を実装しました。

 「これらの機能を活用することで、建造物や現場をあらゆる角度から検証できるだけでなく、ジオラマでは不可能だった原寸大での確認も行えます。その結果、誰もが完成形を具体的にイメージできるようになり、理解度の向上やリスクの早期発見につながりました。また、『軒先を少し高くする』『1ヵ月後の進捗を確認する』といったシミュレーションを重ねることで、着工前にデータやノウハウを蓄積でき、施工途中でのやり直しや仕様変更の抑制にもつながります。さらに、これらの情報は遠隔でも同時に共有できるため、移動時間の削減にも寄与しました。ホロストラクションの活用により、業務効率は大きく改善しています」(中靜氏)

 実際にホロストラクションに触れた顧客や関係者の反応も上々です。「部屋の広さが実感できた」など、MRならではのリアルな表現に触れることで、理解度が格段に増したと言います。

DXの成功に欠かせない人材育成と経営理念の共有

 ホロストラクションを軸としたDXの推進により、同社の生産性は大きく向上しました。営業利益率は直近5年間において7~8%台を継続しています。残業時間も2017年度の月7.2時間から2025年度には1.7時間へと減少し、有給休暇取得率は58.1%から76.2%へと向上しました。さらに、2024年度の離職率は4.16%に留まり、建設業平均の10.0%(令和6年度厚生労働省産業別離職率)を大きく下回っています。
 では、同社がDXで成果を上げた要因はどこにあるのでしょうか。中靜氏は、経営理念とDXの目的を深く理解し、主体的に改革を推進できる人材の存在が成功の鍵だったと話します。

 「人材なくしてDXは成功しません。会社の経営理念とDXの目的をきちんと理解し、自ら主体性を持って改革を推進できる人材が揃ってこそ、成功への道は開かれます。旧来の組織風土や従業員の意識のままでは、取り組みを進めても十分な成果は期待できません。弊社では2010年から、京セラ創業者の稲盛 和夫氏が提唱した『アメーバ経営』を導入し、企業改革と人材育成に取り組んできました。社内を複数のチーム(アメーバ)に分け、計画立案から実績管理までを独立採算で担わせることで、従業員一人ひとりの経営者意識を高めています。各アメーバの成果や収支はもちろん、会社の経営数値も社内で可視化されるため、従業員のエンゲージメントやモチベーションが向上しました。従業員からホロストラクションの新しい活用法が提案されるなど、新たな成果を生み出しています。このように人材育成に継続して取り組んできたことが、DXの成果につながったと感じています」(中靜氏)

経営哲学手帳に記された第一章(画像3)

 同社では、経営理念や113項目に及ぶ行動指針をまとめた『経営哲学手帳』を配布し、日常的にその内容を共有しています(画像3参照)。加えて、毎朝15分の朝礼では経験談を基に意見交換を行い、方針や価値観の浸透を図っています。経営理念を全社で共有し、新しい挑戦に積極的に挑戦する企業風土を醸成した上でDXに取り組んだ同社の事例は、大いに経営の参考になると思われます。

※1 浚渫技術
河川や港湾の底に堆積した土砂を取り除き、水深確保や水質改善を行う土木技術。
※2 オンプレミス
サーバーやネットワーク機器、ソフトウェアなどをすべて自社で保有して運用するシステムの運用形態のこと。
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会社名 小柳建設株式会社
設立 1945年(昭和20年)11月
所在地 新潟県三条市荒町2-24-2
代表取締役社長 小柳 卓蔵
資本金 1億円
事業内容 建設工事の請負、企画、設計、監理及びコンサルティング業務など
URL https://n-oyanagi.com/

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