ICTコラム

第4回 自分が頑張りすぎない「明るい介護」で、仕事との両立を

記事ID:D40004

あなたの周りでは、介護をしながら働いている人はいませんか?介護と仕事の両立と聞くと、「大変そう」と思ってしまいますが、テレワーク環境が整ってきた今、働き方を少し変えてみたり、勤務先の「両立支援制度」や行政の「介護保険サービス」などを利用することで、仕事との両立も可能です。今回は、働きながら介護をするために必要なことを、とどろき社会保険労務士法人の日隈 久美子氏にうかがいました。

介護がいつ始まっても慌てないように、事前に公的機関のウェブサイトを確認しておく

 近年、高齢化が進み、働きながら家族の介護をする方も増加しています。介護の場合、育児と違って、その日は突然やってきます。十分な準備ができないまま、介護が生活の中心となっていたという方も多いのではないでしょうか。そのため、介護を理由に仕事を辞めてしまう方も少なくありません。介護はいつ始まっても慌てないよう、事前に厚生労働省のポータルサイト(図1参照)や自治体の地域包括支援センターのウェブサイトを見ておくなど、しっかりと準備しておくことが大切です。弊所は、3名の職員全員が女性なので、特に女性従業員が多い企業から多くの相談をいただきます。女性が仕事と、育児や介護、病気の治療の両立ができて安心して働ける職場になるように、女性の社会保険労務士の立場でサポートすることを心がけています。

介護離職を防ぐために、企業は両立支援制度を整え、ICTを活用して広く周知すべき

 介護離職は、働き手にとっては収入が減るばかりでなく、社会とのつながりが断たれ、孤独に追い詰められてしまう危険性があります。うつ症状を発症するなど、自身の健康を害して要介護者と共倒れになることを防ぐには、公的制度を活用するなどして、介護をしすぎないことが大切です。ところが、介護離職をした人に聞くと、職場の両立支援制度や介護保険サービスの存在を知らなかったという人が多いのです。介護は育児に比べて経験者が少ないので、職場の支援制度が広く周知されていないのだと思います。この問題を解消するためにも、企業は、介護をする人(介護者)を支援する制度を整え、社内ウェブ掲示板やオンライン研修などで、いつでも情報を得られるようにする必要があります。こうした情報を提供する場として、社内に相談窓口を設置するのも有効です。相談窓口があれば、介護者が誰に相談していいかわからないという状況もなくなりますし、人に話すことで自分の状況を整理することができ、必要なサービスを求められるようになります。

 企業側も、いざという時に慌てないよう、事前に「就業規則」や「育児介護休業規定」などを見直す必要があります。また、両立支援の制度、例えば「短時間勤務制度」や「介護休業や介護休暇」などがある場合は、社内ウェブ掲示板などで労働者に広く周知してください。とはいえ、中小企業では、介護者が実際に出てからの後追い対応になるケースも多いと思います。後追い対応でも構いませんので、介護者から相談があった場合には、仕事や家庭状況をヒアリングし、一人ひとりの要望に応じてフレックスタイムや時差出勤、テレワークなど、介護を支援する働き方を提示してください。ここでは、労働者の悩みに寄り添うことが重要です。介護との両立支援制度を利用する人に対して、解雇や不利益な取り扱いは法律で禁じられているので、特に気をつけてください。

周囲に自分の状況を伝え、職場や行政の制度を活用することで、介護をしすぎないように

 介護の時期と、仕事にやりがいや責任が出る時期は重なるものです。介護者になった場合は、一人で抱え込まず、可能な範囲で自身の状況を周りに話してください。遅刻や休暇が介護を理由としたものだと周りが分かっていれば、「お互いさま」と協力も得られやすくなります。さらに気を付けなければならないのが、自身の健康です。介護を一人で抱え込んでしまうと労力を要しますし、最悪の場合、うつ状態にもなりかねません。そうならないためにも、勤務先の「両立支援制度」と行政の「介護保険サービス」などを活用して、自分で介護をしすぎないことが重要です(図2参照)。

 まずは、会社の人事や総務の窓口に相談すること、あわせて自治体などに設置されている「地域包括支援センター」に相談して、早め早めの対策をとるようにしてください。特に、親が急に倒れて入院し、退院後に在宅介護になるケースが多くみられます。要介護認定が下りるには申請から1ヵ月程度かかるので、入院時に申請しておくことをおすすめします。早めに準備することによって、退院後にスムーズに介護保険サービスを選択できるようにしましょう。

 職場に介護者がいる場合は、周りが仕事内容を把握して、カバーすることが大切です。一人に過度な負担がかからないよう、仕事の「棚おろし」をして、細かく業務分担をしてください。介護は誰にでも起こり得ることです。育児とは違って終わりが見えない上、状況は悪化していくのでネガティブな面が強くなります。これを個人の問題と考えず、職場全体で助け合う姿勢が大事だと思います。

 自分で頑張りすぎず、周囲のサポートを得て「明るい介護」を目指すことが大切です。企業にとっても「明るい介護」のロールモデルができると、新たな制度を導入したり、サポート環境を作りやすくなると思います。

テレワークでは、孤独感や疎外感を感じさせないよう、こまめなコミュニケーションを大切に

 テレワークやフレックスタイム制は、以前からワークライフバランスを取るための勤務形態として推奨されてきたが、労務管理や情報セキュリティの課題があり、企業が導入に二の足を踏んでいました。そのため、これまで介護者は限られた時間をやりくりして介護をせざるを得ませんでした。コロナ禍では、テレワークやフレックスタイム制の導入が進み、仕事の合間を縫って介護ができるようになりました。一方で、介護と仕事の切り分けが曖昧になり、長時間労働や睡眠不足によって心身ともに疲弊する人が増えています。働き方を調整することは簡単ではありませんが、仕事、介護、自分の時間をどう1日の中で組み合わせていくかを考えることが重要です。

 さらにテレワークは、時間の都合がつけやすい一方で、孤独感や疎外感を味わいやすいという課題もあります。介護者が孤立しないように、メールやチャットツールなどをうまく使って、職場の人同士でこまめにコミュニケーションを取ることを心がけてください。

 コロナをきっかけに、仕事においても「不要不急」という言葉を耳にするようになりました。業務の優先度を明確にして、不要不急なものを削ぎ落としていくことで、テレワークやフレックスタイム制を定着させている企業が増えています。アフターコロナでもこの流れは加速するでしょう。介護に限らず病気治療中の方や高齢の方も、コロナ禍で導入された制度を活用して、人々が幅広く活躍できる社会になればよいと思っています。

日隈ひのくま 久美子くみこ

とどろき社会保険労務士法人
代表社員
特定社会保険労務士

とどろき社会保険労務士法人

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