ICTコラム
第1回 テレワーク導入の担い手として記事ID:D40001
社会保険労務士(社労士)は、社会保険制度や雇用関連法など、人事・労務の専門家として企業を支援しています。近年では働き方改革やテレワーク導入の相談にも対応し、解決に当たっています。今回からスタートするこのコラムでは、テレワーク導入の担い手として、コロナ禍における社会保険労務士の活躍について述べていきたいと思います。
中小企業福祉事業団とは?
私が代表を務める中小企業福祉事業団は、1970年の発足以来、会員である社会保険労務士の職域の拡大及び知識の向上に寄与すべく、各種支援事業を行ってまいりました。
お陰さまで多くの社会保険労務士の皆さまにご賛同いただき、2020年8月現在では、会員社会保険労務士数4,900名を数える全国有数の団体となっております。
近年では、働き方改革への対応や、労務問題に関する相談、社会保険や給与計算のアウトソーシングについてのお問い合わせなどに対して、その分野に精通した会員社会保険労務士とともに解決に当たってまいりましたが、コロナ禍においては、その内容にも変化が生じています。
例えば、報道でも取り上げられることの多かった雇用調整助成金をはじめ、離職に関わる手続きの代行、新しい働き方の制度の導入・整備などが挙げられます。
新型コロナウイルス感染症の影響が、今後の企業活動にどのような影響を及ぼすのかは不透明ではありますが、この難局をともに乗り越えるための対応策を講じることができる人事・労務の専門家として、社会保険労務士は企業を支援しています。
中小企業がテレワーク導入を進めるための課題
例えば、急速に浸透しつつあるテレワーク勤務制度の導入支援がまさに良い例でしょう。
今年の4月に緊急事態宣言が発令されてから、企業におけるテレワークの導入率が大幅に増加しており、その後テレワークを常態化する企業や、出社の必要がなくなったためオフィスの規模を縮小する企業も出てきています(図1、図2参照)。
テレワークは、ICT(情報通信技術)を活用し、時間や場所を有効に活用できる柔軟な働き方として、図1のように導入が進んでいます。しかし、中小企業においては、大手企業に比べるとテレワーク導入に当たっての課題がまだまだ多く、大手企業並みに普及するにはしばらく時間がかかることが予想されます。
中小企業がテレワーク導入を進めるための課題となっているのが、「既存の業務をいかにデジタル化するか」という点です。日々の業務において押印作業など紙を前提としたワークフローが多く存在するため、それらを解消しなければ、いかにテレワーク導入を進めても結局出社して業務せざるを得ない状況は避けられません。
また、既存の業務のデジタル化には、ICT機器やクラウドサービスの導入及び活用が必須ですが、それを進めるために多くの費用や労力が発生することから、資金や人材に余裕のない中小企業にとって大きな障壁となっています。
テレワーク導入の旗振り役として期待される社労士
そのほか、テレワークを導入するに当たっての課題は、主に以下のものが挙げられます。
●労働時間の管理
●部下のマネジメント
●円滑なコミュニケーション
●仕事の過程が見えない中での人事評価
●情報セキュリティ面でのリスク管理
●テレワーク先の安全衛生管理など
これらについては、就業規則や社内規程、人事制度を整備し、運用ルールを浸透させるための教育などが必要になりますが、いずれも人事・労務の専門家である社会保険労務士の専門領域です。
これらを、中小企業においても実行しやすい形で提案し、テレワーク導入の旗振り役として社会保険労務士がますます活躍の場を広げるものと期待しております。
企業と社員、双方にメリットをもたらすテレワーク
企業にとっても、ここでテレワークを根づかせることは大きな財産になります。今でこそ新型コロナウイルス感染症対策としてテレワークが注目されていますが、家族の介護が必要になった社員や、育児中の社員、さらには病気を治療しながら仕事を両立する社員などにとって、これまでは「出社すること」がネックとなっていました。そんな離職を余儀なくされていた優秀な方に、テレワークで活躍の場を提供することができるとなれば、社員はキャリアを継続することができ、企業は貴重な労働力を確保することができるため、双方にとって非常に喜ばしいことです。
また、災害などの理由により社員が通勤できなくなった場合においても、事業継続をスムーズに行うことができるため、BCP(事業継続計画)対策としての効果も大いにあります。
社労士は中小企業の発展に寄与し、ともに歩む
新型コロナウイルス感染症の影響により、予期せずして働き方改革が推進される形となりましたが、これを変革の好機と捉え、社会保険労務士がその専門的知見を活かした上でこれまで以上に中小企業の発展に寄与し、ウィズコロナ、アフターコロナの場面においても、日本経済の担い手として中小企業とともに歩んでいくことを願ってやみません。
川口 義彦氏
中小企業福祉事業団 理事長
1938年(昭和13年)9月23日生まれ。1960年(昭和35年)6月川口労務管理事務所を創設。以来、1968年(昭和43年)の社会保険労務士誕生から今日に至るまで社会保険労務士界の発展と成長に情熱を注ぐ。全国社会保険労務士連合会常任理事、全国社会保険労務士政治連盟幹事長代理、東京都社会保険労務士政治連盟相談役、社団法人全国労働保険事務組合連合会副会長を歴任。
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