ICTコラム

第3回 仕事と育児の両立には、行政の「子育てサポート」制度の活用を

記事ID:D40003

コロナ禍でテレワークが進んだことによって、仕事と子育てを両立する「ワーキングマザー(通称:ワーママ)」を取り巻く環境が大きく変化しています。本コラムでは、どのような環境変化が起きているのか、また、ワーママがどのようなことを心がければよいのかについて、みゆき社会保険労務士事務所の栗原 深雪氏にお聞きしました。

テレワークが進むと、ワーママにとってメリットもデメリットも増える

 私は、社会保険労務士、産業カウンセラー、キャリアコンサルタントの資格を持っており、そのノウハウを組み合わせて、女性が育児や介護、病気治療と仕事を両立するための支援をしています。相談に来られる方は、女性社長や女性を多く雇用する企業の方が多いので、働き手がワークライフバランスを保てるような制度を提案しています。コロナ禍でテレワークが進んだことによって、仕事と子育てを両立する女性を取り巻く環境が大きく変化し、ワーママにとってはメリットにもデメリットにもなっています。
 メリットは二つあり、まず、通勤時間がなくなったことで、時間の自由が利くようになったことが挙げられます。子どもの送り迎えの時間ができたり、子どもが熱を出しても家で看ながら働けるので、仕事を休む必要もなくなりました。もう一つのメリットは、保育園など子どもの預け先が決まっていなくても、職に就きやすくなったことです。テレワーク化以前は、就職の面接で子どもの預け先が決まっているかを聞かれ、保育園を探そうとすると就職先が決まっているかを聞かれるといった状態でした。しかし、テレワークによってこのようなジレンマが軽減されるようになりました。
 一方、デメリットは、子育てにかかる時間が大幅に増えたことが挙げられます。コロナ禍で子どもが保育園や小学校に登校できなかった期間は、食事の回数が増えただけでなく、授業の代わりに出された課題を一緒にやらなければなりません。加えて、テレワークをしている夫の面倒までみなければならず、仕事と家事の線引きがしづらくなっています。線引きのしにくさという点では、企業側が良かれと思って「フルフレックス制」(図1参照)を導入し、好きな時間に仕事をできるようにした結果、深夜残業が増えてしまったという事例が後を絶ちません。たとえ総労働時間が変わらなくても、家事で仕事が中断されることによって、夜まで仕事をすることになり、十分に休みをとれていない人が増えています。

 このように幼い子どもがいるワーママにとっては、テレワークで楽になったこともあれば、それがゆえに増えた負担も大きいのです。夫となる男性方は、少しでもワーママの負担を減らせるように、スケジュールを共有してお互いの時間を調整したり、妻の話に耳を傾けて心理的な面でサポートすることを意識していただきたいですね。

厚生労働省の「こころの耳」や「ファミリーサポートセンター」、「くるみん認定」の活用を

 また、ワーママ側も育児や家事を一人で抱え込んで倒れてしまう前に、できるだけ周囲の人に協力を求めるようにしてください。日本には、まだ「育児や家事を人に頼むことは、いけないことだ」という風潮があります。仕事や家事、育児もすべて一人でこなさなければならないというストレスが、メンタルヘルスの不調につながることもあります。そうなる前に早めに誰かに相談をして、協力してもらうことが大切です。
 今は、行政にもワーママをサポートする機関があります。例えば「ファミリーサポートセンター」(図2参照)という市区町村が設置運営している組織があり、「育児を手伝ってほしい人」と「育児を手伝いたい人」が会員となって、地域で助け合いながら子育てをする制度があります。また、厚生労働省には、「こころの耳」という無料の相談窓口があり、電話で相談ができます。名前を聞かれることもないので、日ごろの思いを吐き出すことができ、「大変でしたね。よく頑張りましたね」と励ましてもらえることで、「ほっとすることができた」という若いワーママの声を多く聞きます。家事や育児はどんなに頑張ってもゴールが見えず、感謝をされることも少ないものです。「頑張ったね。ありがとう」という言葉をかけてもらうことで、もう少し頑張ってみようかなと希望が持てると思いますので、ぜひ活用してください。

 また、仕事と子育ての両立支援に取り組む企業を支援する制度として、厚生労働省の「くるみん認定」があります(図3参照)。この認定を受けるためには、一定水準以上の育児休業取得や、育児に伴う時短勤務制度の設置など10の要件からなる「くるみん認定基準」を満たす必要があります。

 近年、「子育てサポート企業」として「くるみん認定」を受ける企業が増えてきているので、求職者は一つの指標にするのもよいと思います。また、企業側がせっかく柔軟な働き方を制度として用意していても、「知らなかった、就業規則を見たことがない」という従業員が多いのは残念なことです。社会保険労務士の立場からも、今後は子育て支援制度の拡充だけでなく、周知に力をいれていく必要があると感じています。

優秀な人材を確保するためにも、企業は柔軟な就業制度を用意すべき

 「くるみん認定」に限らず、企業側が柔軟な就業制度を導入することが求められています。時短勤務、時差出勤、フレックス制度、年次有給休暇の時間単位付与などを採用することで、従業員が働きやすい時間を決めることができるので、育児や介護、病気治療と仕事の両立ができるようになります。また、大変な時期だけ、柔軟に雇用形態を変えられる制度も効果的です。例えば、正規雇用ではありながらも、短時間正社員として働くことができれば、従業員も安心して仕事を続けることができます。あるいは、長時間働くことができない期間はパートとして雇用し、長時間勤務が可能になった場合には正社員に戻したり、どうしても離職せざるを得ない場合はジョブリターン制度を採用するといった企業も増えています。
 このような制度を導入すると、ワーママだけではなく、若者層にとっても魅力となります。以前は、年収を重視するような声が多く聞かれましたが、今はワークライフバランスを大切にする若者が増えています。キャリアコンサルタントとして、入社1~2年目の社員に将来の目標を聞くと、「テレワークなどで自分の希望するバランスで仕事と私生活を充実させたい」という声が多く聞かれるようになりました。残業の有無、休暇の取りやすさ、職場の雰囲気などを見て会社を選ぶため、柔軟性の高い就業制度を取り入れていれば「この会社ではワークライフバランスを重視した働き方ができる」と認識されると思います。また、一度テレワークを体験してしまうと、満員電車に揺られて通勤することなど考えられなくなり、地元で働きたいという人が増えています。これからは、地方の企業ほど柔軟な就業制度にすることによって、優秀な人材を確保することができると思います。

栗原 深雪氏

みゆき社会保険労務士事務所
代表

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