ICTコラム

孤立させないICT体制づくり

記事ID:D40077

前回は、ひとり情シスの現状と、属人化や退職、災害対応、過負荷といった構造的なリスクについて見てきました。リスクを回避するためにまず着手したいのは、ひとり情シスを「孤立させない」仕組みづくりです。これは、持続可能なシステム運営を実現する上で欠かせません。本連載(全3回)の2回目は、ICT業務の棚卸と可視化、社内分担、外部パートナーの活用など、具体的な方法について解説します。

ICT業務の棚卸と可視化

 体制を整える上で最初にすべきことは、業務の全体像を明らかにすることです。ひとり情シスが日々担っている業務は、周囲から見えにくく、「動いているが、何をしているか見えにくい」状態になりがちです。
 まずは、担当しているすべての業務をリストアップすることから始めましょう。セキュリティ対策、サーバー・ネットワーク管理、社内システムの運用保守、ヘルプデスク対応、ベンダー管理、ライセンス管理、バックアップ確認など、日常的な定常業務から年に一度の更新作業まで洗い出します(図参照)。次に、それぞれの業務について「対応頻度」「所要時間」「難易度」「代替可能」を整理します。こうした可視化によって、どこに負荷が集中しているか、どの業務が属人化しているかが分かるようになります。

図:ひとり情シスの業務負荷

 さらに、責任範囲の明確化も重要です。「このシステムのトラブルは誰に報告するのか」「ベンダーとの窓口は誰なのか」といった役割分担が曖昧なケースは少なくありません。あらかじめ明文化しておくことで、担当者が不在の時でも周囲が動ける体制の基盤ができます。
 日々、業務に追われているひとり情シスにとって、この可視化も大変な作業です。しかし、業務内容を整理し、周囲と共有しなければ、その重要性が組織に伝わらず、評価もされないことになります。障害が起きなければ「何もしていない」と見なされ、トラブルが起きれば「なぜ防げなかったのか」と問われる。それが、ひとり情シスの難しさでもあります。だからこそ、経営層や上長には内容を理解し、適切な支援を行う姿勢が求められます。

社内での分担・協力体制の構築

 ICT業務の棚卸ができたら、次は社内での分担と連携の仕組みを考えます。中小企業では、専任の担当者を置けないケースも少なくありません。その場合に注目したいのが、「兼任ひとり情シス」という選択肢です。
 社内の管理部門で中核を担う社員が兼任するこのスタイルは、実務的にも合理的です。30代以上で社歴10年前後の社員であれば、社内のキーマンや業務の流れを熟知しています。例えば、セキュリティ対策を社員に徹底してもらう場面でも、社内の人間関係や仕事の進め方を知っている人が推進役を担うほうが、社員への浸透がスムーズです。また、経営層との距離が近い立場であれば、会社方針をICT施策に反映しやすいという利点もあります。つまり、「パソコンには詳しいが社内の事情には疎い」という専任のICT担当者が苦手としがちな領域を、この兼任担当者は補いやすいのです。
 なお、米国の中小企業では管理部門の社員がICT業務を兼務することは一般的です。フルタイムのICT専任者を置くほどの業務量がない場合もあり、専任者一人分の人件費を外部サポートに振り向けることで、より幅広い専門知識を活用できるという考え方が根づいています。
 もう一つ重要なのが、「ICTは使う側も学ぶ」という社内文化です。「プリンターが動かない」「操作を忘れた」といった問い合わせの多くは、ユーザー自身がマニュアルを調べれば解決できるものです。最近では生成AIの無料版でも、パソコンやオフィスソフトに関する疑問の多くが解決できます。マニュアルの整備や、社員への基本的な教育を行うことで、ひとり情シスへの問い合わせ件数を大幅に減らすことができます。「情シスに聞けばいい」文化が定着すると、ひとり情シスは“問い合わせ窓口”から抜け出せません。その結果、ひとり情シスは、本来取り組むべき改善業務や将来の準備に手が回らなくなります。経営層が「まず自分で調べる」文化を促すのも、体制整備の一環として有効です。

外部パートナーの活用

 社内の体制を整えると同時に、外部の力を借りることも不可欠です。ひとり情シスが一人で抱えきれない専門性の高い領域や、緊急時の対応を外部にアウトソースすることで、リスクを大幅に軽減できます。
 代表的なのが、サーバーやネットワークの監視・管理、セキュリティ対策などを月額定額で提供するサービスです。24時間365日の監視体制を自社で構築することは中小企業には現実的ではありませんが、MSPを活用することで、コストを抑えながら安定した運用環境を実現できます。障害時の初動対応を任せられる点も、ひとり情シスの精神的な負荷を軽減する効果があります。さらに、クラウドサービスの活用により、運用負荷の軽減と属人化の解消を同時に実現できます。
 また、ICT戦略の立案やシステム選定、ベンダーとの交渉支援など、より上流の業務などは外部のアドバイザーよりサポートを受ける方法もあります。経営者やICT担当者が「何を導入すべきか」「どこから手をつけるべきか」に迷っている場合、外部の専門家の視点を取り入れることで判断の精度を高められます。相談先はICTコンサルタントやコーディネイターだけでなく、会計士や税理士、金融機関、自治体の相談窓口、地域の販売店、情報交換仲間など多岐にわたります。大切なことは、自社の業務を理解してくれて、共創的に取り組める関係を築くことです。

支援サービスの活用方法

 外部パートナーをうまく活用するためには、契約前の整理が大切です。まず、社内のICT業務のうち「外部に委託する領域」と「内製で担うべき領域」を明確にすることです。すべてを外部に出すと、社内にスキルや経験が蓄積されなくなるリスクがあります。そのため、意思決定や社内調整は内製で担い、定型的な監視・保守・ヘルプデスクは外部に委ねるという役割分担が一般的です。
 また、外部ベンダーとの関係は単なる発注先ではなく「パートナーシップ」として築くことが重要です。定期的に情報交換し、将来計画も相談できる関係性が重要です。実際、地域の販売店からICT関連の情報を得ているケースも少なくありません。販売店はサービスにかたよらず現場に適した提案をしてくれますが、昨今のICT人材の不足により販売店側も体制変更や担当者の交代が起こりえます。そのため、日ごろから情報収集や関係構築に時間を割いて取り組むべきです。
 最近では、自社に適合しないサービスやソリューションを導入してしまうケースも増加しています。販売会社は、取り扱っている製品やサービスを売るということがメインですので、必ずしもユーザーの環境に適合した提案を行えるわけではありません。最終的な責任はユーザー側にありますので、第三者の専門家からアドバイスを得られる体制をもっておくことが重要です。

※ MSP
Managed Service Providerの略。顧客のICT環境における監視・
保守・運用業務を代行する事業者のこと。

清水(しみず) (ひろし)

横河・ヒューレット・パッカード入社後、米国HP社に出向し、アジア太平洋本部でマーケティングダイレクターなどを歴任。米国、フランス、タイ、シンガポール駐在、日本法人マーケティング責任者を歴任。デル・テクノロジーズ社にて上席執行役員、全社マーケティング統括、中堅企業事業責任者でビジネスを倍増させ世界トップ部門となる。著書に「ひとり情シス」(東洋経済新報社)などがあるほか、中堅中小企業のひとり情シス支援に取り組み、一般社団法人ひとり情シス協会の事務局を担当。

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