ICTコラム

AIロボットがもたらす将来像

記事ID:D40075

ロボット基盤モデルなどの生成AI技術の急速な進展によりAIロボットも進化しています。特に人間に似た姿と動きを持つヒューマノイドロボットの実現への期待が高まっています。本連載(全3回)の最終回では、ヒューマノイドロボットをはじめとした最先端のAI技術を搭載したAIロボットたちが、私たちの生活や社会にどのような変化をもたらすのか、その業種ごとの具体的な活用事例と社会へのインパクトについて解説します。

ヒューマノイドロボット実現への期待

 AIロボットの将来を考える上で重要な存在として、ヒューマノイドロボット(人型ロボット、以下ヒューマノイド)があります。ヒューマノイドは人間の外見や動作を模倣し、人間と同じ環境で人間と同じ作業が可能になると期待されています。従来の搬送ロボットや片腕ロボットのような、特定環境や用途に特化した機器では困難であった作業にも対応し、労働力不足の抜本的解消や人間の生活の質向上への貢献が見込まれています。
 ロボット基盤モデルの進展により、ヒューマノイドの開発も進展しています。人間と同じ環境で同じ作業を行うには、人間並みに状況を読み解く力と器用さが求められます。そのため、ロボット基盤モデルなどの汎用的な能力を持った高性能なAIモデルが欠かせません。
 これまでヒューマノイドはデモンストレーションや研究用が中心でしたが、2025年以降、実際の現場で動作させるための量産機の製造・出荷が始まりました。現時点では、工場での組み立てや搬送などが主な活用場面です。例えば、自動車メーカーのBMWは、自動車組み立て作業の一部でアメリカのロボットスタートアップ「Figure」社のヒューマノイドを試験運用しています。
 また、韓国の自動車メーカーである現代自動車も2028年をめどに自社工場に傘下のロボティクス企業「Boston Dynamics」のヒューマノイド「Atlas」を配置し、物の整列や搬送などを行う計画です。このほか、家庭向けのヒューマノイドも登場しています。ノルウェーとアメリカに拠点を置くロボットスタートアップ「1X Technologies」は、「NEO」と呼ばれるロボットを一般家庭向けに2026年から販売します。ただし、現状はNEOが対応可能なタスク(作業・課題)は限定的とされています。
 このようにヒューマノイドの研究及び産業応用に注目が高まっていますが、やや過度な期待も見られます。実用化に向けては、AIモデルのさらなる高性能化に加え、人間並みの器用さを実現する高精度ハードウェア(例えばロボットハンド)の開発などの課題があります。また、高い安全性を確保するための仕組みや基準づくりも欠かせません。
 こうした点を踏まえると、我々の身の回りへの短期間での普及は難しく、中長期的(5~10年)な視点が必要です。一方、将来的に「一家に1台」といったレベルで普及すれば、人間や社会に大きなインパクトをもたらすでしょう。

想定されるAIロボットの活用領域

 生成AIやロボット基盤モデルの進化により、将来のAIロボットは従来よりも複雑な判断や、複雑な動きを実現すると考えられます。与えられた状況や指示を自律的に思考し、人間からの具体的な手順の指示がなくとも例外的な状況に対応できるようになるでしょう。これを象徴するのが、前述のヒューマノイドです。こうした進化を踏まえ、AIロボットの将来的な用途を業種・分野別に整理しました(表参照)。

 製造業では、従来の定型的な自動化から、より柔軟な自動化に変化し、人間にしかできなかった複雑かつ繊細な作業を自動化します。例えば、AIが物体の形状や性質を認識することで、不定形物や柔らかい物体の取り扱いが可能となります。これにより少量多品種生産、個別カスタマイズ製品の製造などが進展します。また、熟練技術者の作業をデータ化してAIが模倣することで、「匠の技」の一部機械化も期待されます。
 物流・倉庫では、従来は人間の介入が必要な難しい作業(柔軟にモノをつかむこと、柔軟な荷物の積み込みなど)を、ロボットが代替すると予測されます。人手が不可欠であった作業領域の自動化が進み、倉庫内作業の完全自動化も現実味を帯びてきます。加えて、トラックの自動運転や最終配送の自動化技術の進展により、サプライチェーン全体の自動化も期待されます。
 建設・土木業は、一品生産(顧客それぞれの要求に合わせて設計・施行)や不整地・屋外作業が多いため、従来はロボット化のハードルが高い領域でした。しかし、AIロボットは多様な環境に柔軟に対応できるため、ロボット化の起爆剤になりえます。特に、溶接や高所などの危険作業の一部代替や、人の目視や経験で対応していた点検業務の効率化が見込めます。
 農業分野では、製造業同様に人間の複雑かつ繊細な作業を支援し、生産性向上が期待されます。例えば、熟練生産者の動作を模倣して自動収穫するロボットの活用が考えられます。さらに、畑などの農場のデータ化も進めば、ロボットによる適時適切な農薬や肥料の自動散布も可能になります。
 小売・サービス業では、すでに受付(コミュニケーション)ロボットや搬送ロボットが活用していますが、今後はその活用範囲が拡大します。例えば、バックヤードでの商品補充や在庫棚卸、警備、清掃での活用が想定されます。これにより、人間は接客など付加価値の高い業務に集中できるようになります。

AIロボットがもたらす社会変化

 前述した活用領域を踏まえると、AIロボットは①社会課題の解決、②人間の役割変化、③産業構造の変革という三つの変化を社会にもたらすと考えられます。社会課題の解決では、ロボットによる自動化や支援により、幅広い業界の人手不足の解消が期待できます。また、AIが人の技能を学習することで、技術継承にもロボットが貢献できる可能性があります。
 人間の役割変化では、過酷な労働や従来のロボットでは難しかった単純作業から人間が解放される可能性があります。その結果、人間はより安全かつ身体的負荷の少ない業務や、高付加価値な業務にシフトできます。
 産業構造の変革では、24時間365日の生産やサービスの提供が可能となり、生産性が大幅に向上します。さらに、ロボットによる完全無人・完全自動型の小売店舗(例:カフェ)など、新しいビジネスの創出も期待できます。
 一方、AIロボットの普及には技術面だけでなく社会的課題の解決も必要です。具体的には、ロボットが問題を引き起こした場合の責任の所在についてルール・法令の整備などが必要です。したがって、前述の社会変化がすぐに起こるわけではなく、AI技術の進化にともない、徐々に変化が身近に表れてくるでしょう。だからこそ、中長期的な視点でAIロボットの活用方法を今から検討しておくことが重要と考えます。

近藤(こんどう) 浩史(ひろふみ)

株式会社日本総合研究所 先端技術ラボ 次長兼エキスパート。2011年、日本総合研究所に入社。2018年よりAI技術の調査・研究を担当し、SMBCグループ向けのAI技術を用いた実証実験に携わる。現在、生成AIを中心としたAI技術の中長期的な動向に関する技術リサーチとAIの調査・研究チームのマネージャーも担当。共著に「AI時代の人的資本経営」(日本能率協会マネジメントセンター、2025年)。

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