ICTコラム
第36回 問い合わせや売上が増える!中小企業経営者のためのウェブ活用(前編)中小企業が、ホームページやソーシャルメディアなどを活用して、より効率的・効果的に売上を向上させるための考え方、ウェブマーケティングの原理原則について、前編・後編の二部構成にて解説をいたします。前編では、中小企業におけるウェブマーケティングの必要性と、よくある失敗事例について、お話しをいたします。ウェブの活用に関して、何から手をつけて良いか分からない経営者様は、最初の一歩として、ぜひご一読下さい。
ウェブマーケティングとは何か
ホームページ、ソーシャルメディア、SEO対策、スマートフォン対応、リスティング広告、ディスプレイ広告、YouTube動画、メルマガやLINE@・・・などなど、あなたも一度はこれらのキーワードを耳にしたことがあるのではないでしょうか?昨今では、企業のウェブ活用に関する情報が溢れており、色々と断片的な情報をお持ちで混乱をしている方も多いかもしれません。「時代に乗り遅れないようにしたいのだけれども、何から手をつけて良いか分からない」という、中小企業経営者様からのお悩みの声が、弊社には頻繁に寄せられます。
そもそもウェブマーケティングとは何でしょうか?弊社では、ウェブマーケティングとは、「ホームページやソーシャルメディアなどのウェブを活用して、自社の商品やサービスが売れ続けるための仕組みを作ること」であると、お伝えしています。そして、特に中小企業の経営者様においては、このウェブマーケティングを学ぶことは必須科目であると断言できます。
うちの会社にはウェブなんて必要無い!?
お得意様からのクチコミのご紹介で上手くビジネスが回ってきた、営業マンの強い営業力で好業績が出せている・・・など、「自分の会社はウェブとは縁遠いので、ウェブマーケティングなんて必要無い」と考えている方もいるかもしれません。特にBtoB企業の経営者様は、ウェブへの関心がまだ薄いようです。もちろん、クチコミ紹介や強い営業力は素晴らしいことです。それらを否定するつもりは全くありません。しかし、さらにビジネスを加速させるために、もう少しだけ世の中の動向を一緒にみてみましょう。
環境の変化
「中小企業(SMB)によるIT製品・サービスの購買行動調査結果レポート(株式会社インテリジェンスビジネスソリューションズ)」によると、製品・サービスの購買活動において、全体の83%を占める多くの企業がインターネット検索を利用しているという調査結果が出ています。
また、「BtoBサイト調査結果分析2017(株式会社トライベック・ブランド戦略研究所)」によると、「企業のウェブサイト」を見て情報収集する人が64.8%と過半数で、「営業員・技術員の説明(47.7%)」の割合を大きく上回る結果が出ています。「業界サイトや専門サイト(39.8%)」「ニュースサイト(23.2%)」と併せると、ウェブを情報源として製品・サービスの購買の参考にする企業がかなり多いということが分かります。
「B2B企業1,400社の購買担当者に対する調査(Corporate Executive Board社)」によれば、問い合わせ前の情報収集段階で意思決定の約6割が終了しているという調査結果も出ています。営業マンとの商談が始まる前に、既に約6割の勝負がついてしまっているということです。
これらはつまり、製品・サービスの購買プロセスが、企業(営業マン)主導から顧客主導に変化しているということを意味しています。インターネットの発達により、顧客の情報収集力は飛躍的に高まっています。顧客は、製品・サービスの概要や価格の調査、競合製品の比較など、ウェブを使って下調べを事前に全て行った後に営業マンに声をかけてきます。営業マンが足繁く通って、カタログやパンフレットなどの情報を提供するという、昔ながらの営業手法に対して、顧客が価値を感じなくなってきているということです。
ライバル会社の動向は?
「2016年版中小企業白書(中小企業庁)」によると、IT投資をしている中小企業の売上高は、IT投資をしていない中小企業の2倍以上であるという結果が出ています。ウェブの活用などのIT投資を積極的に行うことが、売上を拡大するための非常に重要な要因の一つであると言えます。
では、どれ位の割合の中小企業が、その重要性に気付いているのでしょうか?同じく「2016年版中小企業白書(中小企業庁)」によると、「IT投資は重要である」と答えた企業は、まだ62.4%しかおらず、ウェブの活用が重要ではないと考えている企業が約4割もいることが分かっています。約6割の企業しか、ウェブの重要性にまだ気付いていないのです。つまり、ライバル会社がまだ重要性を認識していない今こそ、早急にウェブの活用に乗り出すことが、競合優位性を築くチャンスであるということです。
中小企業のウェブ活用 失敗事例
中小企業において、ウェブ活用に取り組む際のよくある失敗事例を見てみましょう。ここでは、架空の産業用機器メーカー「ABC製作所」を例にしてお話ししましょう。もしかすると、あなたの会社もこのようなケースに陥る場合があるかもしれません。
ステップ1:パソコンの詳しそうな若手社員に担当を任せる
「うちの会社も時代に乗り遅れないように、ウェブ活用に取り組まなければ!」ある日、ABC製作所の社長はこのように思い立ちます。そして、まず担当者を選定します。従業員数30名の中小企業であるABC製作所には、ウェブ専門の部隊などはもちろんありません。ここで、白羽の矢が立ったのが、「パソコンの詳しそうな若手社員」です。営業やマーケティングの知識や経験は二の次で、ただ「パソコンが詳しそうだから」という理由だけで、若手社員が「ウェブマーケティング担当者」として任命されます。
ステップ2:ホームページをリニューアルする
ウェブマーケティング担当者に任命されたものの、何から手をつけて良いか分からない若手社員が、最初に取り組むのは、「ホームページのリニューアル」です。古臭いホームページを一新して、見栄えの良いデザインのホームページに更改します。ホームページ制作費用はピンキリですが、中小企業の場合であれば、30万円~200万円程度でしょうか。ホームページ制作業者から「昨今のホームページはスマートフォン対応が必須です」と言われ、最新のデザインでスマートフォン対応も完璧なホームページが出来上がります。
ステップ3:ソーシャルメディアアカウントを開設する
新しいホームページが出来上がり、これでホームページからの問い合わせが増えるかと思いきや、なかなか結果が出ません。見栄えの良いホームページにリニューアルしたにも関わらず、ホームページ閲覧者数や問い合わせ数は、ほとんど変化が無い状態です。この段階で、焦った若手社員が目を付けるのが、無料で実施できる「ソーシャルメディアの活用」です。Facebook、Twitter、Instagramなど、企業用のソーシャルメディアアカウントを開設し、日々投稿をすることで、自社のファン数を増やすために奔走をし始めます。
ステップ4:SEO対策を実施する
ソーシャルメディアへの投稿を日々頑張って続けるものの、全くファン数が増えません。上司からは、「そろそろ結果を出してくれ」とプレッシャーをかけられ始めます。この辺りで、若手社員はウェブマーケティングに関する展示会やセミナーなどに参加し、情報収集を始めます。そこで「SEO(Search Engine Optimization=検索エンジン最適化)対策」という言葉を耳にします。SEO対策とは、自社の製品・サービスに関連する特定の検索キーワードで上位表示をさせるための手法のことです。SEO業者に言われるがまま、わらにもすがる思いで20万円~100万円程度の追加予算をかけ、特定のキーワードで検索エンジンに上位表示されやすくするための応急処置をホームページに施していきます。
ステップ5:インターネット広告を実施する
SEO対策後、パラパラとホームページ閲覧者数は増え始めたものの、わずかな増加にしかなりません。「もっとたくさんの人に見てもらわないと・・・」焦る若手社員に、SEO業者が救いの手を差し伸べます。「リスティング広告やディスプレイ広告などのインターネット広告を利用しないと、閲覧者数はなかなか増えませんよ。他社もほとんど皆さん実施しています。最低でも月額30万円程度はかかります」と。ホームページリニューアルやSEO対策と、かなりの費用を費やしてきているため、もう後には引けません。何とか月額30万円の追加予算を獲得して、インターネット広告を実施し始めます。
ステップ6:社長、大激怒
インターネット広告を実施したことで、ようやく安定してある程度のホームページ閲覧者数を確保することができることができるようになりました。若手社員は意気揚々と社長に報告を入れます。「こんなにたくさんの人に見てもらえるホームページを作りました」と。そして、社長が怒りに震えながら静かに口を開きます。「私は、たくさんの人に見てもらうホームページを作れと言った覚えはない。売上につながる問い合わせを増やせと言ったんだ。ここまで膨大な予算をかけて、まったく問い合わせ数が増えていないじゃないか!」そして、社長の頭の中には、こんな印象だけが残ってしまいます。「ウェブなんて意味が無い。ただの金食い虫だ。うちの会社には必要無かったんだ。もう二度とやらない」と。
失敗の原因は何なのか?
上記のような失敗事例は、本当によくあるケースです。では、なぜABC製作所ではこのような失敗が起きてしまったのでしょうか?ウェブマーケティング担当者である若手社員の能力が低かったからでしょうか?ホームページ制作業者やSEO業者の提供するサービスが詐欺だったからでしょうか?いいえ、全く違います。若手社員は経験の無い中で懸命に情報収集をしながら結果を出していましたし、各業者も「見栄えの良いホームページを作る」「ホームページ閲覧者数を増やす」という点においては、きちんとしたサービスの提供をしていました。原因はずばり、「全体的なウェブマーケティング戦略が無いまま、小手先の戦術(施策)ばかりを実施していたから」です。
では、全体的なウェブマーケティング戦略を立てるには、何をどのように実行すれば良いのでしょうか?次回の「問い合わせや売上が増える!中小企業経営者のためのウェブ活用(後編)」では、中小企業のウェブ活用の成功事例、ウェブマーケティング戦略の定義と実施の仕方についてお話しをいたします。
参考文献
・中小企業(SMB)によるIT製品・サービスの購買行動調査結果レポート(株式会社インテリジェンスビジネスソリューションズ)
https://www.persol-pt.co.jp/salesmarketingservice/downloadfile/Surbd4Yrdi9kw2wWscsa8gr5.pdf
・BtoBサイト調査結果分析2017(株式会社トライベック・ブランド戦略研究所)
http://japanbrand.jp/column/bb-column/bbc2017
・B2B企業1,400社の購買担当者に対する調査(Corporate Executive Board社)
https://hbr.org/2012/07/the-end-of-solution-sales
・2016年版中小企業白書(中小企業庁)
http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H28/PDF/h28_pdf_mokujityuu.html
加藤 雄一郎氏
(株)ピージェーエージェント代表取締役。
NTTコミュニケーションズにて、デジタルマーケティングに関するコンサルタントとして活躍後、スモールビジネス向けコンサルティング会社であるピージェーエージェントを設立。ブランド戦略の立案を強みとして、ブランディング・マーケティングに関するコンサルティング事業を展開している。
関連記事
- 電話応対でCS向上コラム(309)
- 電話応対でCS向上事例(254)
- ICTコラム(122)
- デジタル時代を企業が生き抜くためのリスキリング施策(3)
- 2024年問題で注目を集める物流DXの現状とこれから(3)
- SDGs達成にも重要な役割を担うICT(3)
- 人生100年時代をICTで支えるデジタルヘルス(3)
- 働き方改革と働き手不足時代の救世主「サービスロボット」の可能性(3)
- ICTで進化する防災への取り組み「防災テック」(3)
- ウイズ&アフターコロナで求められる人材育成(3)
- AI-OCRがもたらすオフィス業務改革(3)
- メタバースのビジネス活用(3)
- ウェブ解析士に学ぶウェブサイト運用テクニック(46)
- 中小企業こそ取り入れたいAI技術(3)
- 日本におけるキャッシュレスの動向(3)
- DXとともに考えたい持続可能性を図るSX(3)
- 「RPA(ソフトウェア型ロボット)」によるオフィス業務改革(6)
- 「農業×ICT」で日本農業を活性化(3)
- コロナ禍における社会保険労務士の活躍(4)
- コールセンター業務を変革するAIソリューション(3)
- ICTの「へぇ~そうなんだ!?」(15)
- 子どものインターネットリスクについて(3)
- GIGAスクール構想で子どもたちの学びはどう変わる?(3)
- Z世代のICT事情(3)
- 企業ICT導入事例(176)
- ICTソリューション紹介(83)