ICTコラム
第15回 低コスト&高成約率!オウンドメディア活用のすすめオウンドメディア※1の活用で潜在層へのリーチと低コストな顧客獲得に成功した、ある士業業界での事例を紹介します。
オウンドメディア活用までの流れ
今回紹介する事例は、クチコミでの評判も良く顧客からの紹介で案件を獲得するケースが殆どである反面、ウェブからの問い合わせは月に1件あればいい状況にある企業です。
初期の施策として、まずは新規顧客獲得のためにランディングページ※2(以下LP)を作成し、サイト流入施策としてリスティング広告※3を社内で運用するところからスタートしました。
このLP施策である程度の成果は出たものの、問い合わせ当たりの広告費が非常に高くなり、費用対効果はとてもいい結果とは言えない状態でした。
次にこのLPでの失敗から、ターゲットを絞りユーザーのニーズごとに専門細分化したサービスのウェブサイトの立ち上げを行いました。
このウェブサイトを立ち上げた目的は大きく三つありました。
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SEO※4を意識し、ニーズが顕在化しているターゲットに絞った専門特化型ウェブサイトを制作してコンテンツを閲覧してもらうこと。
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絞り込んだターゲットユーザーに対し、コンテンツの的確な設計で「伝える・共感・関心」を目的とすること。
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ユーザーニーズに合致するコンテンツを配信することにより顧客を獲得すること。
流入施策は低予算で実行でき費用対効果を計測しやすいリスティング広告を主軸に実施し、この時のKPI※5は広告でのCPA※6としていました。
次の施策として各スタッフが分業で行っていた既存顧客向けのメルマガ記事で専門サイトを作成し、メルマガ配信と同時に専門サイト内へ記事を蓄積する事にしました。この専門サイトでは、長期的な信頼関係の構築を主軸に捉え運営を行った結果、専門家が書く情報により検索エンジンからも優良なコンテンツであると評価されアクセス数も伸び、さらにソーシャルメディアからも流入するようになり、記事のシェアも徐々に起こるようになってきました。
オウンドメディアの運用からみえた新たな糸口
さらなる業績向上のためのプロモーションとして、この専門サイトをオウンドメディアとして展開しました。記事のカテゴリを相続対策や組織再編などのニーズごとに設定する事で回遊性も意識した設計に変更しました。
オウンドメディアでは、既存顧客や潜在顧客の「悩みありき」でユーザー主体の有益な情報を発信する事をメインに、一つのテーマを取り上げる場合でも“多角度”からの切り口で記事を作成しました。
また、記事のリクエストやお悩みの相談などもメルマガの反響やウェブサイトのフォームから届くようになり、ユーザーとの接点がオウンドメディアによって出来、新たなニーズの糸口なども見つかってきました。
オウンドメディアを活用した新たな顧客獲得術
オウンドメディア運用における流入経路は複数ありますが、今回は広告流入に着目しました。
従来のLPはニーズが顕在化していた層に対してのプロモーションのため、どうしても限られた顕在層の取り合いになり、多数の競合がひしめくレッドオーシャンに参入せざるを得ない状態でした。従来のアプローチでは頭打ちになるため、潜在顧客層へのリーチへとターゲット層を広げた広告戦略を行いました。
例えば、新しく法人を設立したいというニーズ(会社登記、税務、社会労働保険業務が絡む)の場合、起業家予備軍の地域ごとの割合を調査し、潜在ニーズを探り、さらに年齢、性別も掛け合わせてスコアリングした一定以上の基準をクリアしたエリアのみ、ニーズのある年齢層に対して適正媒体を選定し、広告を配信しました。
具体的にはインフィード広告※7などを利用する事でまだサービス探究段階にない潜在ユーザーへリーチし、リターゲティング広告※8などを併用し受け皿のウェブサイトでは複数の切り口の記事で見込み客の育成を行いました。
この手法により、従来より高いCVR※9を獲得できるようになりました。また複数の記事の投稿で、回遊性を意識するものからタイミングによっては出来るだけLPへの誘導を促すものまで段階的に複数の用意をしました。
さらにA/Bテスト※10も併用し最適化を図り施策を行った結果下記のような数値が出るに至りました。
ライフタイムバリューでの費用対効果の算出
潜在層の取り込みを行い始めた今、次の施策としてユーザーの初期契約から事業継続において必要となる追加サービス、例えば法人設立から始まり税務顧問、労務管理、節税の保険契約などのアップセル及びクロスセルの転換率をデータとして蓄積するようにしています。
これらの蓄積したデータにより、ライフタイムバリュー※11をベースに最終的な目標CPAの判断を算出する事が出来るようになってきました。
日々めまぐるしく変化するユーザーニーズと業界情勢、競合他社との関係から生き抜くためにより強くお客さまから選ばれる必要が出てきています。既存のプロモーションによる顕在層へのリーチ、取り込みによる各種プロモーション、LPのテコ入れはもちろん、潜在ニーズの開拓と見込み客の育成、それに合った着地先の準備などを行い、機会損失を無くした、選ばれるための効果的なウェブの活用が求められています。
※1 オウンドメディア:マーケティングに用いる顧客との接点経路のうち、企業が自ら所有するウェブメディアを指す。
※2 ランディングページ:商品やサービスを売るために作成され、単独のページで構成される専門特化型ウェブページのこと。
※3 リスティング広告:主にYahooやGoogleのような検索エンジンの検索結果に表示される広告のこと。
※4 SEO:YahooやGoogleなどの検索エンジンで、特定のキーワードで検索した際に上位に表示されるための対策のこと。
※5 KPI:Key Performance Indicator(重要業績評価指標)の略。目的を達成するための過程をクリアできているかどうかを計測する指標。
※6 CPA:ユーザー一人あたりの獲得単価を表す指標。
※7 インフィード広告:ウェブサイトやアプリ内で、コンテンツとコンテンツの間に表示される広告。
※8 リターゲティング広告:一度ウェブサイトを訪問したことがあるユーザーの行動を追跡し、他サイトの広告枠上で同じウェブサイトの広告を表示させることで、再度の訪問を促すこと。
※9 CVR:ウェブサイトへのアクセス数のうち、資料請求や問い合わせに至った割合。
※10 A/Bテスト:二つのパターンのウェブページを用意し、それぞれ実際にユーザーに利用してもらい効果を比較するテストのこと。
※11 ライフタイムバリュー:顧客生涯価値。一人の顧客が取引期間を通じて企業にもたらす利益のこと。
関口 智紀氏
株式会社スリーエイト代表取締役。
群馬県の企業ながら日本全国のクライアントを持つ。アクセス解析を基にした導線設計改善や流入施策を得意とし事業の成果につなげている。WACA認定ウェブ解析士マスターとして大手企業から中小企業まで幅広い顧客のサイト改善に携わっている。
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