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ICTコラム

第13“黄金比”はウェブデザインのUIに有効なのか

黄金比とデザイン

デザイン系の専門学校や美術大学などでは、デザインをおこなう上で個人的な美的センスは必要な要素とはしつつも、デザイン・ルールや理論に沿ったものにするということが重要だと教えられています。

古典的・代表的なデザイン・ルールに、黄金比(Golden Ratio)があります。黄金比とは、古くから伝わる調和的で美しいとされる比率です。自然と美しいと感じられ、個人差がおきにくいとされてきました。

では本当に黄金比であれば人は皆「美しい形だ」と思うのでしょうか。

そのことを述べる前に、黄金比はどうやってもとめられているのかを解説します。図1をご覧ください。正方形abcdを作り、辺bcの中点oを中心に、線分oaまたはodを半径とした円を描き、それと辺bcの延長線との交点をeとすると、ab:beが黄金比となります。これをa:b=b:(a+b)が成り立つように分割した時の比a:bとすると、答えは「1:(1+√5)/2」。近似値で表すと「1:1.618」です。

▲図1 黄金比の求め方(引用:Wikipedia)

黄金比は、自然のオウムガイにも含まれている神秘の比率とされています。クフ王のピラミッドやパルテノン神殿といった建築物、ミロのビーナス、そしてレオナルド・ダ・ヴィンチのモナ・リザといった美術品、セガの看板キャラクターのソニックの頭、アップル社のロゴといった意匠にも採用されています。

黄金比の統計学根拠~こんな身近なウェブデザインにも!

黄金比は、デザイナーが自身の作品構想の拠り所とすることが多く、ウェブサイトなどのデジタルコンテンツのユーザーインターフェース(UI)設計においてもたびたび使われています。図2はアップル社のサイトで用いられている黄金比の事例です。

▲図2 AppleのサイトでTOPページのファーストビューの縦横比を黄金比にしている例。画像やリンクボタンのサイズなども黄金比にしている。(引用:http://liskul.com/cr_goldenratio-3739)

ところで、黄金比には、統計学的な根拠はあるのでしょうか。

黄金比と「美しさ」についての考え方を初めて文献にまとめたのは、19世紀の心理学者グスタフ・フェヒナーです。彼は実験心理学的美学の立場から、人々が黄金比を好むことを統計的に示した(引用:グスタフ・テオドール・フェヒナー著『美学序論(1876)』)とされています。しかし、この時の調査方法は単純でした。さまざまな長方形を見せ、最も美しいと思うものを被験者に選んでもらいました。その結果、黄金比の長方形が最も多く選ばれた、という結論になりました。しかし、この1回だけの調査で、しかも、全被験者のうち3割程度に選ばれたのみで黄金比が最も美しいのだと結論づけてしまってよいのかと、賛否が分かれる結果となってしまいました。

一方、カリフォルニア大学ハース・ビジネススクールが発表した論文では、消費者が選びやすい製品のパッケージは黄金比の「1.6180」ではなく、平均で「1.732」または「1.414」の比率を持つ長方形が好まれるとなっています。(引用: Priya Raghubir and Eric A. Greenleaf (2006), ”Ratios in Proportion: What Should be the Shape of the Package?” )

前者の「1.732」は、実は√3の近似値です。“1:√3”は「白金(プラチナ)比」と呼ばれています。

また、後者の「1.414」は、実は√2の近似値です。“1:√2”は「白銀(シルバー)比」と呼ばれ、日本の用紙サイズ(A3やA4など)や、法隆寺の五重塔を上から見た投影平面図における辺(短辺と長辺)の関係も白銀比になっています。

日本では黄金比ではなく「白銀比」が好まれる?~国や文化によって好みは異なる

  • ▲図4 指矩(さしがね)(引用:Wikipedia)

    白銀比は別名「大和比」と呼ばれるくらい日本では建築でよく採用されている比率です。たとえば、大工道具の物差しである“指矩(さしがね)”(※図4)では、裏側の目盛りは表側の目盛りの白銀比の倍になっています。裏で正方形の対角線を測れば、正方形の1辺の長さが測定できる構造になっています。このようなことから、法隆寺・伊勢神宮など古い建築物の平面図形には、白銀比が自然に表現されるようになりました。

    このようなことから考察すると、国・地域や文化、見慣れた対象などにより、好まれる比率が異なり、美しいと感ずる図形が必ずしも黄金比になっている訳ではない、というのが現時点での答えであると思われます。

「黄金比信仰」の功罪~国・地域や文化に根差したユーザーテストが必要

ではなぜ、統計学的調査によっては黄金比が最も美しい比率であると証明できないのに、黄金比が美の基準比として一般化してしまったのでしょうか。

このことは、認知心理学の立場では、ある程度説明がつきます。対象に繰り返し接触することにより、対象への親近性が高まり好意が増加する現象を「単純接触効果(ザイアンスの法則)」と呼びます。

因みに、単純接触効果には、見るから好きになるのか、好きだから見るのか、という問題が提起されていたのですが、カリフォルニア工科大学教授である下條 信輔教授らの研究チームは、人の顔写真を使った実験によって「見るから好きになる」ということを論証しました。(引用:Shimojo, S., Simion, C., Shimojo, E., & Scheier, C. (2003). ”Gaze bias both reflects and influences preference”)

デザイナーが、学生時代の勉強や仕事をこなしてゆく過程で、黄金比を用いた数々の工業・建築デザインや美術品に触れるなかで親しみを覚えるようになり、黄金比が好ましい比率であるとの「刷り込み」が発生しているのでしょう。

また黄金比という用語そのものも、まさに誤解のタネです。なんの科学的根拠もないのに、宇宙の真理を示すゴールデンルールなのだという、デザイナーにとってオカルトめいた信仰を生んでしまっているのかもしれません。

ですから、発注者や消費者・ユーザーの立場からは、デザイナーがいくらプレゼンテーションで強く主張しようと、“黄金比だから優れたUIである”と思い込んでしまうのは禁物です。国・地域や文化、対象ユーザーに応じた調査に基づいたUI提案が必要なのです。

長澤 大輔氏

株式会社A&S代表取締役。

株式会社セガエンタープライゼス(現(株)セガゲームス)にて海外CS事業、新規事業開発プロジェクトマネージャーを経たのち、アメリカオンライン(AOL)、大手ウェブインテグレーション企業アイ・エム・ジェイを経て現在に至る。オンラインコンテンツビジネス開発業務に約20年携わる。筑波大学大学院ビジネス科学研究科(国際経営MBA)にて感性工学や統計分析を学ぶ。
ウェブ解析士協会公認ウェブ解析士マスター。中小企業庁委託(ミラサポ)派遣専門家。デジタルハリウッド主幹ディレクター。

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