電話応対でCS向上コラム

第134回 「気になる話し言葉」

記事ID:C10147

「言葉の正誤をめぐって言い張ってはいけない。言葉は生き物であり、絶対正しいとか、間違っているとかというものではない」。アナウンサーという仕事に就いた半世紀の昔、先輩アナに言われた一言を肝に銘じてきました。とはいえ、ここ数十年の日本語話し言葉の、よく言えば自由闊達、悪く言えば野放図な変貌ぶりには、一言も二言も言いたくなります。まずは愚見をお許しください。

今も止まらぬ語尾伸びの話し方

 「~ですぅ」「~ですがぁ」「~ましたぁ」のように「語尾をだらしなく伸ばす話し方」が問題になり始めたのは、もう50年も前のことです。全学連のアジ演説が発祥という説もありますが、若者を中心に全国に広がりました。流行り言葉はやがて収まるだろうと思っておりましたら、これがまったく収まりません。歳をとった当時の若者が、語尾伸びをそのまま高齢世代にまで持ち込んだのでしょうか。今の子どもたちのほとんどは語尾を伸ばして話します。でも、許しがたいのは、言葉を生業としている、作家や評論家、教師、解説者たちにまで広がって、堂々と語尾伸びで話す人が意外なほど多いことです。影響力を持つ人たちだけに、内容はともかくとして、彼らが話す言葉が非常に気になります。語尾伸び言葉は決して進歩ではありません。だらしなく稚拙に聞こえるだけです。これを直すには、まずは録音をして自らの話し方の欠陥をしっかり認識することです。その上で、調音訓練表などを使って、語尾を締めるきちんとした話し方を習得することです。

尊敬語を使えない

 「くださる」「おっしゃる」「なさる」などの尊敬表現で話す人が少なくなりました。そのことを強く感じるのは、放送に出てくるアナウンサーたちの話し方です。出演者の先生方を紹介するアナウンサーが「教えてくれるのは〇〇先生です」「案内してくれるのは○○さんです」と平気で言っていることです。「教えてくださるのは」と言えないのです。
 「お名前は何と言うんですか」「連休は何をしてましたか」「明日は何か予定がありますか」「明日の午後は家にいますか」。これらの言い方はすべて敬意不足です。
 「お名前は何とおっしゃいますか」「連休は何をなさっていましたか」「明日は何か予定がおありですか」「明日の午後は家にいらっしゃいますか」。こうした尊敬表現ができないのです。残念なことに私の後輩の若いアナウンサーたちもそうなのです。指導しなければならない中堅層が気がつかないのでしょう。早晩、AIのほうが正確な尊敬語を話すことになると思います。

無秩序に増える省略語・ 造語・カタカナ語

 文字文化の衰退というよりも、激増するネットの影響ではないかと思います。全国的に書店が激減しています。新聞の購読者の減少も深刻な問題でしょう。そしてそのことは結果的に話し言葉に影響を与えているのです。
 ヤバい、うざい、はんぱない、マジ、ほぼほぼ、がっつり、まくる、スタバる、コクる。
 同質の省略語は昔からありました。さぼる、やじる、ジコる、バイト、サテン、ナウいなどは、高齢者でも理解できます。しかし最近の省略語は、カタカナ語をさらに省略します。タイパ(タイムパフォーマンス)やリスケ(リスケジュール)になると、一般的な話し言葉ではなくなります。

すべてを「個」で数える助数詞

 助数詞の乱れも深刻です。年齢を言うのにほとんどが「個」になってしまった実態を以前にも書きました。「彼女は私より二コ上」。「彼は一コ下だ」。何年、何歳という助数詞は、ほぼ壊滅的に聞かなくなりました。つい先日も、中学生ぐらいの少年が二人、羽を休めている鳥を数えるのに「コ」を使っていました。これも言葉の省エネの一つかもしれません。日本語の助数詞の細かさは大人でも迷います。タンスや履物、テーブルや椅子、墓や仏像、生きている魚と食卓に並ぶ魚。その助数詞は全部違います。すべてをマスターするのは至難の業でしょうが、この細やかさこそが日本語なのです。
 悠久の自然と、そこに生きる数々の命と暮らし。私たちの豊かな日本語は、その中で生まれ育ってきました。そこに今、進歩する科学技術が踏み込んできつつあります。その波に翻弄されることなく、確かな日本語を守っていきたいと思います。

※アジテーション演説
大衆を扇動し、特定の行動を 促すことを目的とした 演説のこと。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会検定委員。
NHK アナウンサー、(財)NHK 放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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