企業ICT導入事例

-株式会社後藤組-
「全員DX」で現場も働き方も変えた建築会社の挑戦

記事ID:D20031

建築業界では長年の市場規模の縮小に加え、資材の高騰や深刻な人手不足が経営を圧迫する中、DXによる業務効率化を進める企業が増えています。しかし、中小の建築会社ではデジタル技術への抵抗感やデジタル人材の不足などにより、思うようにDXを進められない事例が多く見られます。そうした中、株式会社後藤組では、従業員一人ひとりがDXに取り組む方針を貫き、6年間で大きな成果を上げています。その取り組みについて、同社の代表取締役の後藤 茂之氏にうかがいました。

3億円の赤字を教訓に業務の平準化を目指す

代表取締役 後藤 茂之氏

 株式会社後藤組は、山形県内外で公共土木・建築、注文住宅、リフォーム、不動産売買などの事業を展開する総合建築会社です。代表取締役の後藤氏は、代表に就任した1992年当時から、不況にさらされる業界で会社が生き抜く術を模索し続けてきました。

後藤氏:1990年代にバブルがはじけて民間建築が減少し、さらに2000年代には国の政策見直しで公共事業も減少したため、20年ほどで多くの建築会社の売上が半減しました。この間、私も「このままでは会社が潰れる」という危機感から、営業力に秀でた元ゼネコン社員を雇い、彼に大きな権限を与えて売上の増加を目指しました。しかし経費をでたらめに浪費され、3年間で3億円の赤字を抱えてしまったのです。

 この時、たった一人の過ちで中小企業は窮地に陥ってしまうことを学んだ後藤氏は、個人の行動や技量に仕事が左右されてしまう「属人化」という課題の解消に取り組みます。

後藤氏:当時は、本来なら誰でも対応ができるはずの業務が特定の従業員に集中する属人化が大きな課題になっていました。そのため、私は業務の整理とマニュアル化を指示してきましたが、従業員たちからは「建築の現場はナマモノで作業内容が毎回異なるため、マニュアル化なんて無理です」と言われました。しかし、現場が変わったからといって作業が100%異なるなんてことはありえません。作業内容を整理すると、確かに現場ごとに異なる作業は2割程度ありますが、残りの8割は、建物や材料が違うだけで必要な工程や技術などはほぼ同じでした。ですから、業務の平準化が図れたなら、そこから効率的な人員活用、コスト削減などのメリットが得られると考え、社内の情報をデジタル化し、DXを推進していくことを決めました。

全員DXで広がる成功の連鎖

 同社は2019年6月よりDXに取り組みましたが、デジタル分野の専門職の採用やDX推進チームのような固定した部門の設置などは行わず、従業員全員がDXに取り組む「全員DX」の方針を掲げました。

後藤氏:DXは目的ではなく業務を効率化する手段ですから、従業員一人ひとりの業務が対象になります。そのため、特定の従業員だけが取り組むのではなく、従業員全員が取り組むのは当たり前だと思います。また、部署や現場ごとに業務内容や課題が異なりますから、それぞれの実態に合わせて、自分たちにとって本当に効果的なDXに取り組むべきだと考えました。

 全員DX は、ノーコード・ローコードツールを導入し、各部課のDX推進担当を中心としてチームを作り、月に一つのアプリを作ることから始めました。

後藤氏:当初は、DXの必要性をなかなか理解してもらえず、具体的な取り組みは遅々として進みませんでした。そこで、DXで得られる利益、取り組まないことによる不利益を徹底的に説明し、その上でDX の成果に報酬を出してモチベーションの向上を図りながら、「どんなものでもよいから、まずは仕事が楽になりそうなアプリを作ってみなさい」と指示しました。

 このようなアプリ開発による最初の成果は、データの二重入力問題の解消でした。同社では長年、現場やバックオフィスなどで同じデータを別々に入力する二重入力が課題になっていました。そこで、データを入力と同時にクラウドで共有し、会議資料のデータを自動更新するアプリを開発しました。このアプリにより無駄な二重入力が解消され、それまで平均2時間かかっていた資料作成時間がほぼゼロになりました。

後藤氏:D Xを社内に浸透させるためには従業員がメリットを実感することが重要で、一つ成功すれば、あとは自然に次へ、次へと広がっていくと考えていました。実際、従業員も資料作成時間の短縮でDXの効果を実感し、自主的にアプリを開発するようになりました。

学び合いと競い合いが全員DXを加速

画像①/DXワークショップでは、従業員⾃⾝が講師役となって行っている

 この流れに乗って、後藤組では建設現場のペーパーレス化や現場の安全管理点検、画像認識による建材管理、勤怠管理や注文書の電子化など、さまざまな業務を効率化させるアプリが自社開発され、残業時間を約12%削減、⽣産性を約37%向上させる成果をあげました。

後藤氏:現場向け以外にも、新卒採用の管理アプリを開発しました。以前は学生のエントリーから選考、通知まで紙の書類や複数のツールをまたがり複雑だった管理業務が、一つのアプリで一元化できるようになり、採用の進捗を自動集計するなどバックオフィスの効率化を図ることができました。

 同社の全員DXが大きく前進し、こうした成果をあげられた背景には、従業員同士でスキルを切磋琢磨し合う仕かけの導入も一役買っています。

後藤氏:2020年10月に、DX ワークショップ(画像①参照)を発足しました。これはノーコード・ローコードツールの使い方などを実践的に学び、教え合うリスキリングの場で、毎回ワークショップの最後に習得度をテストし、成績最下位の受講者が次回の講師役を務めるようにしました。このルールを設けたことで、講師役になった従業員は、次回教えるために一層勉強するようになりました。

画像②/年1回のDX大会では、各部課が開発したアプリで仕事がどれだけ軽減されたか、生産性が上がったかを発表する

 さらに、磨かれた技術の発表の場として、年に一度「DX大会」(画像②参照)が開催されています。

後藤氏:DX大会では各部課が開発したアプリの発表会が行われ、全従業員の投票で最優秀チームを決定し、優勝チームには賞金が授与されます。また、データポータル アソシエイト/スペシャリストという社内資格制度も設け、アプリ開発の能力に優れた従業員の賞与に資格手当を上乗せするようにしました。こうした仕かけも、従業員のDXに対するモチベーションアップに貢献したと思います。

 全員DXによる生産性向上の取り組みは残業や休日出勤の減少を実現しましたが、それにとどまらない今後のDX戦略ついて、後藤氏は次のように語ります。

後藤氏:建築業界は今、生成AIの活用によるゲームチェンジが起き始めています。生成AIは、データ化が困難だった職人の技術や動作までも学習し、属人化からの脱却をさらに進める可能性を持っています。私たちのDXも今後、生成AIを活用することでさらに発展させなければなりません。

 現在、後藤組は生成AIやAR(拡張現実)技術を活用するための調査・開発を進めており、さらに進化したDXの推進を目指しています。

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会社名 株式会社後藤組
創業 1926年(大正15年)
本社所在地 山形県米沢市丸の内2-2-27
代表取締役 後藤 茂之
資本金 9,685万円
事業内容 公共土木事業の施工管理、事務所・工場などの民間建築、学校・病院などの公共建築、戸建住宅の建築・リフォームほか
従業員数 150名
URL https://www.gto-con.co.jp/

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