企業ICT導入事例

-公益社団法人 商連かながわ(旧神奈川商店街連合会)-
コロナ禍で苦境に陥った商店街の新たな挑戦

記事ID:D20009

日本の商店街はコロナ禍以前より衰退が危惧されてきましたが、新型コロナウイルスの感染拡大により状況はさらに深刻化しています。そんな状況を打破すべく、神奈川県の「公益社団法人 商連かながわ」では買い物もできる商店街のオンラインツアーを実施しています。今回は、その取り組みについて商連かながわの古性 清乃氏に話をうかがいました。

深刻な状況に陥った商店街再生へのプロローグ

 コロナ禍で売上減少に苦しむ企業が増える中、人影が消えた各地の商店街でも多大な影響が出ました。日本観光推進総合研究所の「商店街振興に関する自治体実態調査2021年」によると、約80%の商店街がコロナ禍による悪影響があったと回答しています。
 商連かながわが、神奈川県内の会員商店街に対し、2021年5月〜7月にかけて行った商店街実態調査でも、75.4%の商店街が、コロナ禍の影響で景況感は厳しいと回答されています。また57.4%がコロナ禍の影響で店舗の閉店や廃業が起きているという深刻な結果が出ました(図1参照)。

公益社団法人 商連かながわ
主任 古性 清乃氏

 このような状況の中、商連かながわの古性氏も「当初はどのように客足を戻すかばかりを考えていた」と振り返ります。

 「 商店街は“、お客さまに来ていただく”ことで成り立つビジネスですので、コロナ禍以前はお客さま参加型の『商店街観光ツアー』を定期的に開催し、とにかく“来ていただく”ことに注力していました。そのため、コロナ禍によって人の流れが途絶えたのは、本当に痛手でした。そこで、2020年7月から商店街観光ツアーに動画配信型を追加し、商店街に消毒液を散布する様子など防疫対策面もアピールし“遠出は無理でも、お近くの商店街なら安心して来てください!”というコンセプトで、集客増につなげようとしました」(古性氏)

 その結果、動画再生数も好調で、客足も少し戻りましたが、動画だけでは実際の買い物に結びつかない上、東京五輪前の感染拡大防止策強化のため外出自粛ムードが強まり、再び客足が遠くなっていきました。そんな状況の中、打開策のヒントになったのが香川県のバス会社が実施していた「コトバスオンラインバスツアー」でした。
 同ツアーはZoomによるライブ配信と、自宅に届ける食品などの商品により、家にいながらバスツアーが楽しめるというものです。同様のやり方を模索する中で、コンサルタント会社よりQRコード決済を取り入れたツアーのアイデアを聞き、古性さんは同社とともに「オンラインお買い物ツアー」の実現に向けて動いていくことになりました。

企画・準備段階からさまざまな難題が噴出

 「商店街に来てもらう」という固定観念から脱却し、新たに企画した『買い物もできるオンラインツアー』(図2参照)ですが、企画・準備段階から集客や会計手段など、さまざまな難関にぶつかったそうです。

 「最初に配信方法はZoom、決済はQRコードと決めましたが、まずはZoomや撮影に慣れるための予行演習として、伊勢原駅前中央商店会で買い物はしない体験ツアーを実施しました。集客は、コロナ禍以前から実施していた商店街観光ツアーの会員になっていただいていたリピーターのお客さま200名ほどに案内していたのですが、高齢の方が多かったこともあり、Zoom使用に抵抗があったのか、予想以上に参加希望者が少なく不安が募りました。最終的には、当方のFacebookを見た方や興味を持たれたほかの商店街の方などがご参加くださり、何とか体験ツアーを開催することができました」(古性氏)

 その後の本ツアーは、キャッシュレス決済の導入率が高く、“久里浜お使い便”という配送システムを持っていた久里浜商店会で実施されました。しかし、当初に予定していたQRコードによる決済を直前で代金引換へと変更することになるなど、こちらもさまざまなアクシデントに見舞われました。

まだまだ課題は多いが可能性も多いと実感

 まさに手探り状態の中での実施となった「オンラインお買い物ツアー」でしたが、古性氏は今後への手応えを感じていると話します。

 「 課題は山積ですが、実施後のアンケートを見るととても好意的な評価が多く、今後への希望が見えてきました。例えば今回、山口県からご参加いただいた方がいましたが、通常では足を運んでいただくことが難しい遠方のお客さまにご参加いただけたのは大きな収穫でした。これは地域密着型で“来ていただく”ことだけを考えていた時にはあり得なかったことで、オンラインによるツアーならではのメリットだと思います。心配だったお買い物についても、紹介したすべてのお店で商品をご購入いただき、この企画に対する手応えを強く感じました。また、QRコード決済は断念しましたが、『キャッシュレス決済だと思っていたから参加しなかったけれど、最初から代引きと知っていたら参加したのに』というご意見も後日お聞きしました。お店側もレジのシステム変更や使い方に対してキャッシュレス決済導入に消極的な方もおられます。導入推進に向けての補助金制度もあることをお伝えしても、使いこなすのが大変という理由で、ご高齢の店主の方を中心に反応が芳しくないお店もあります。そういったご意見も踏まえ、決済方法についてもいろいろなケースを検討する余地があると感じました。配送システムも、久里浜商店会がやっているような、各店舗が個別に対応するのではない、商店街での共同配送システムの構築なども必要という声も頂いております。“買っていただく”ためには、今までのような接客対応だけでなく、対面ではない場合の接客や商品説明のやり方など、店側の意識改革も必要となってきます。それらをどう対処していくかも大きな課題です。そういったことをICTなど、オンラインでの講習も含めて視野に入れていかないと、と考えています。一足飛びには行きませんが、今回の試みでやるべき目標が見つかったことも収穫でした」(古性氏)

オンラインツアーの将来性

 アンケートの中には「買い物時間が短い」などの意見があったほか、現場ではZoomがつながりにくくなるなどインターネット環境の問題も発生したそうです。このような課題は多く残しましたが、古性氏は新たな可能性も見つかったと話します。

 「今回、ある施設でデイサービスを利用していた方々にご参加いただきましたが、老人ホームや地域包括支援センターなどの福祉施設と連携し、買い物難民の問題の解消につなげることも考えられます。また、ツアー以外でも商店街の商品が購入できるショッピングサイトの開設など、新たな展開に気づくきっかけにもなりました」(古性氏)

 商連かながわの取り組みはまだ始まったばかりで、課題は山積しています。しかし、商店街のあり方を変える新たなカタチとして、大きな可能性を秘めているように感じられます。

※ コトバスオンラインバスツアー:香川県の琴平バス株式会社が実施しているオンラインによるバスツアー。事前に自宅へ特産品が送られ、当日参加者とその特産品を食べ、自宅にいながら旅行気分を味わうこともできる。

「Zoom」、Zoomロゴは、Zoom Video Communications,Inc.の商標または登録商標です。
「QRコード®」は、株式会社デンソーウェーブの商標または登録商標です。
「Facebook」は、Facebook, Inc.の登録商標です。

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団体名 公益社団法人 商連かながわ
創立 1952年(昭和27年)6月11日
所在地 神奈川県横浜市中区尾上町5-80神奈川中小企業センター3階
事業内容 神奈川県内の商店街の振興を図るための各種調査や普及啓発活動、各種情報発信など。
URL https://shotengai-kanagawa.com/

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