企業ICT導入事例

-株式会社南部美人-
スマートフォン世代向けにホームページを刷新 海外展開にも注力する老舗酒蔵の挑戦

3年ぶりにホームページを刷新した岩手の老舗酒蔵 株式会社南部美人。同社を率いる5代目社長の狙いは、ブランディングという企業の“顔”作りと急速に普及するSNSとの連携でした。低迷する国内の日本酒市場にとどまらず世界進出に本腰を入れている同社は、次代の担い手であるスマートフォン世代の動向も踏まえつつ、持てる資産を効果的に使って必要な布石を着々と打っています

冷え込む日本酒市場の中にあって元気の良い酒蔵が岩手にあった

  • ▲代表取締役社長・久慈 浩介氏

    国税庁の統計※1によれば、国内の酒類総合消費数量は1996年から下がり続けています。その中でも清酒の比率は全体の6.7%にまで減少しています。そんな逆風下で、際立って元気の良い酒蔵が南部杜氏の里岩手県・二戸市にある株式会社南部美人です。新酒の鑑評会※2で何年も金賞を受賞、2016年には世界的に権威のあるIWC※3のコンクールでも最高位のトロフィーを受賞しており、国内外3航空会社の機内酒にも採用されるなど高い評価を得ているのです。20年かけて開拓した海外市場でも業績を伸ばして今や29カ国に輸出。近年では糖類無添加梅酒を開発(特許取得)し、酒と梅酒の両方でユダヤ教の教義に沿う「コーシャ認定※4」を受けたことでも注目されています。

この躍進をけん引しているのは、1972年生まれの5代目社長の久慈氏です。1997年に「日本酒輸出協会」を全国の蔵元とともに立ち上げ、酒の仕込みのない季節には「南部美人ライブツアー」と称して全国にPRする活動を20年間続けてきました。また東日本大震災の時は、同業蔵元と一緒にYouTubeで「東北の酒を飲んで応援して」とアピールして大きな反響を集めました。アイデアと行動力を持つ久慈氏は、ホームページなどの改善にも熱心に取り組んでいます。

2017年春にホームページを刷新 ブランディングで“顔”を伝える

  • ▲南部美人ホームページ

これまでの同社のホームページは、酒のことや日常のできごとなどがブログのように書き込まれるだけのものでした。またサイト内で商品直販にはほとんど力を入れていませんでした。というのも、ショッピングモールや酒販専門サイトが先行しており、消費者はそのチャネルから購入すると考えていたからです。

そのホームページが大幅に刷新されたのは2017年2月。酒造りへのこだわりを丁寧に解説したコーナーをトップに、受賞実績や直販ショップ、社員紹介などのコーナーがあり、シンプルな構成と写真の扱いが印象的です。

「時代が変わったと考え、ホームページへの考え方も変えました。パソコンよりスマートフォンで見る人が増え、メッセージはFacebookなどのSNSでパーソナルに交換されています。ホームページに求められるのは企業の“顔”であり、ブランドや物語です」(久慈氏)

新しいサイトはスマートフォンにも対応。工程の流れ図や社員全員の個別紹介、久慈一家の家系図が掲載されているのもユニークで、確かに「物語」を感じさせます。また、直販サイトでは季節限定商品を出したり各種の支払いシステムに対応しています。

「ブランドが浸透するにつれて興味を持つファンが生まれ、繰り返し購入するリピーターになります。ホームページを刷新することで、たくさんある酒の販売サイトではなく、蔵元から直接買う特別な楽しさやメリットを感じてもらえるようになってきました。利用者の6割をリピーターにすることを目指します」(久慈氏)

さらに若い人向けに、ホームページとは別にSNSサイトも立ち上げました。Facebookページでは社員が交代で日々のできごとを、友だちに話すような気軽さで書いています。記事への「いいね」の数が1,000人を超えることもあります。

日本酒市場の開拓に海外市場進出とSNSを活用

久慈氏は、日本酒の新しい市場を海外に開拓するため、業界団体と一体になって早くから取り組んできました。そしてその成果が着実に実を結んでいます。2013年に同社の製品が海外で安全な食品と認められたことも大きなはずみになりました。

「和食の普及とともに、コメと水だけから作られるフルーティで芳醇な日本酒のファンが海外でも急速に拡大しています。当社も輸出比率が出荷の2割に達しました。海外で支持されるには彼らのスマートフォンやインターネットの使い方にも配慮しなくてはなりません」(久慈氏)

海外向け情報発信には「南部美人」を「SOUTHERNBEAUTY」と訳した英語サイトがあり、インパクトの強い大きな写真を使いユーモアを含んだ個性的なデザインです。

「これは受け手のセンスを考えたもの。でも、日本語の新サイトに込めたブランド物語も簡潔に伝えたいので、「SOUTHERN BEAUTY」とは別に「南部美人」の英語サイトも用意しており、こちらは中国語にも対応しています。また欧米の若い世代が好むSNSは、投稿写真中心のInstagram(インスタグラム)です。日本もこの流れになってきました。ですから、試飲会などのイベントでも、写真映りが良いように会場をしつらえます。絵になるカッコ良さや話題性を自分たちから作り上げていくのがSNS活用のコツだろうと考えています」(久慈氏)

自社の事情と戦略に合わせてICT投資の優先順序を考える

  • ▲工程のほとんどは人手作業だが「火入れ」工程は新方式「プレートヒーター急冷却火入れ」で行っている

    酒造に限らず製造業では、ICT投資となると工場の機械化や情報のデジタル化が優先されますが、同社ではしぼり後の「火入れ」工程に独自システムを使う以外、製造工程は従来からの設備と人手作業で行っています。

    「業務にはすぐデジタル化が必要なものと、むしろアナログで取り組んだほうが良いものがあるはずです。当社の酒造りは若手人材の育成にもつながるのでデジタル化は急ぎません。優先順序としては、インターネットやスマートフォンなど、身近ですぐ使えるツールをしっかり使いこなしたいのです。インターネットを使ったクラウドファンディングもその一つです」(久慈氏)

クラウドファンディングはインターネットを介した資金集めで、同社は、先立つ資金が必要になる酒米購入のために総額3,000万円を集めました。

時代の変化を見極めながら戦略的に事業を進める久慈氏は、今後のICT活用について抱負をこう語ります。

「経営者としての自分の使命は次世代への橋渡しだと思っています。SNSのようなコミュニケーションツールを使いこなす世代に、社員とともに日本酒の魅力を伝えたい。ICTには距離や世代の壁を超える可能性がありますが、ツールを使い分ける知恵と技術とセンスをもっともっと磨く必要性を感じています」(久慈氏)

※1 国税庁の統計:国税庁統計年報書による。→https://www.nta.go.jp/shiraberu/senmonjoho/sake/shiori-gaikyo/shiori/2016/pdf/006.pdf#page=1
※2 鑑評会:独立行政法人酒類総合研究所が全国の新酒を調査研究することにより、製造技術と酒質の現状及び動向を明らかにし、清酒の品質向上のために行っている。
※3 IWC:International Wine Challengeの略。設立から33年を迎える世界最高権威のワインコンペ。2007年からSAKE部門が設けられた。
※4 コーシャ認定:ユダヤ教の指導者が、製造工程をその目で確かめて安全な食品と認定し認定書を発行。認定された食品の包装紙には、コーシャ認定を受けていることをマークやロゴで表示することができる制度。

会社名 株式会社南部美人
創立 1902年(明治35年)
所在地 岩手県二戸市福岡字上町13
代表取締役社長 久慈 浩介
事業内容 清酒・リキュールの製造、販売
URL http://www.nanbubijin.co.jp/
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