企業ICT導入事例

-社会福祉法人みちくさ-
利用者満足度や職員のやる気が向上 サービスの質と人の意識をICTで改善

記事ID:D20014

社会福祉法人みちくさは、障がいのある方の日常生活を支援し、社会参加を応援するための施設「あごら」と、共同生活援助施設「グループホームあごらんち」を運営しています。「あごらんち」では2019年12月より、介護記録支援ソフトの活用で大幅な業務改善に成功し、サービスの質や利用者の満足度、職員のモチベーション向上も実現しました。今回は、同法人でICT導入を推進した事務長の土井 正子氏、「あごらんち」管理者の黒岩 眞由美氏に話をうかがいました。

実務に追われ残業が続く日々、煩雑な手書き書類が大きな負担に

管理者 黒岩 眞由美氏

 現在、「あごらんち」では5名の利用者に対して8名の職員が朝番、遅番、夜勤のローテーションを組み、日常生活の支援を行っています。食事や排泄、入浴の介助など、個人の状況や環境に合わせる必要があるため、どうしてもサービスは長時間にわたります。また、以前は「支援日誌」や「連絡ノート」など、利用者の様子を手書きで記入する書類がいくつもあり、しかも内容の重複も多いため、時間的にも精神的にも職員の大きな負担になっていたと言います。

 「特に夜間の業務は大変でした。遅番の職員が夕食を準備し、夜勤者が入浴介助に当たりますが、バイタル測定※1、排泄、服薬、口腔ケア業務などが同時に発生します。書類の作成は利用者が寝静まった23時以降からの作業とならざるを得ず、深夜に同じような書類を何種類も手書きする作業は、職員を想像以上に疲弊させました」(黒岩氏)

 「管理者の離職者も発生し、当時は抜本的な業務改善の必要性に迫られていました」(土井氏)

 手書き書類の一元化、入力の簡略化などによる業務軽減を目的にICTの活用を決断した「あごらんち」は、まず経済産業省が推進する「IT導入補助金」を申請し、無事承認を得てから2019年12月に介護記録支援ソフトの導入に踏み切りました。

介護記録支援ソフトの導入で業務改善が一気に進んだ

事務長 土井 正子氏

 「あごらんち」が導入した介護記録支援ソフトは、パソコンに習熟していない職員でも操作できるよう、タブレットで簡単に入力できるシステムになっています。例えば、図のように従来の文章記入型からタップによる項目選択型へと作成方法が簡素化されたことで、職員の業務負担は大いに軽減すると期待されました。

 「職員の平均年齢が60歳を超える職場だけに、当初は受け入れられるか正直不安でした。実際、関心の低い職員もおり、しばらくは従来のスタイルとの並行作業で進めつつ、スキルの向上に期待しました。しかし業務のICT化への移行は、想像以上にスムーズに進んだ印象です。スマホの普及も大きな追い風となりました。操作に慣れた職員がシステムの便利さを伝えていく中、70歳の職員が『私にだってできる』と積極的に挑戦してくれたことで、職員全体に前向きな気持ちが生まれたのが大きかったですね。こうして導入から半年後の2020年6月には、記録書類のICT化への完全移行が完了しました」(土井氏)

ICT化前後の主な記録業務の比較

利用者の情報共有から生まれるサービスの質向上と新たな気づき

介護記録支援ソフトの活用により、これまで手書きで対応していた業務の多くが効率化され、特に数値や状況の記入が選択入力に変更された点が現場の高い支持を得ている

 導入された介護記録支援ソフトは、職員全員が共有する形で利用されています。施設利用者の基本的な情報から何をどう食べたかなどの食事の状況、体調の記録などを空き時間を利用して入力します。これまで心身ともに疲弊した状態で深夜帯にこなしていた作業の随時入力が可能となったおかげで、以前よりも正確できめの細かい利用者情報の共有が実現しました。利用者の状況が一目瞭然となったことで職員同士の申し送り時間も割愛され、残業時間の大幅減が実現し、職員の負担は大きく減少したと言います。

 「職員の総労働時間数について導入前と現在で比較すると、約25%の削減を実現しました。職員は節約できた時間を積極的にほかのサービスの充実に振り替えていますので、実際には数値以上の改善がなされたと考えています」(土井氏)

 「感覚的には負担が半分以下に減少した印象を抱いています」(黒岩氏)

 また、タブレットを介した利用者情報の共有と活用は、サービスの質的向上にも大いに貢献したと言います。

 「これまでのサービスは、職員個人の経験値や主観に頼りがちな傾向がありました。しかし、利用者の情報が共有されたことで、全職員が正しい情報に基づいた客観的なサービスを行えるようになりました。利用者一人ひとりの情報が共有されたことで、利用者の好き嫌いや一人でできることとできないことなど、これまで職員の主観で判断していた情報が、実は誤りであったケースも報告されています。かつては自分の意にそぐわない時に大声を上げたり物を投げたりする利用者もいましたが、現在は職員に余裕が生まれた上に利用者の希望を配慮したサービスを実施できているためか、このようなケースはめったに見られなくなりました」(黒岩氏)

現状確認に追われていた会議が具体的なサービスを検討する場へ

効率化が進み、業務負荷が軽減されたおかげで余裕が生まれ、職員の会議も活発に。職員の細やかな気付きにまで話が及び、その効果が施設のあらゆるサービスに反映されている

 ICT化は職員の意識改革も呼び起こしました。積極的にサービスの質的改善に取り組む姿勢が顕著に見られるようになったのです。

 「これまでの職員会議では、発言者は毎回ほぼ同じ顔ぶれで、新しい企画が出るような雰囲気はほとんどありませんでした。利用者の現状確認が主な議題になりがちで、時間も長めで気づけば下を向いている職員の姿も見られました。しかし、今では職員全員が利用者の現状を把握できているため、会議の場では具体的なサービス内容の検討が行われるようになりました。前向きな発言も相次ぐなど、職場の雰囲気ががらりと変わりました。施設のサービスレベルが以前より向上したのは、言うまでもありません」(黒岩氏)

 情報の共有が実現したことで、利用者に対する理解がより進みました。これまでコーヒー嫌いと思われていた方が、実は愛好家だった。乳製品が嫌いなのは、担当者の思い込みに過ぎなかったなど、新しい気づきの連続に職員は目を見はり、これまで見られなかった情報交換が盛んに行われるようになりました。ICT化は、職員間のコミュニケーションを促進し、より風通しの良い組織の実現にも大いに貢献したようです。

 「職員の心に生まれた余裕は、必ず利用者にも伝播するものです。施設の空気は以前にも増して穏やかになりました。小さなタブレットが大きな変革を施設にもたらしてくれたのです」(土井氏)

法人全体でのICT化が決定 近い将来グループウェアの活用も

 介護記録支援ソフトの導入は、「あごらんち」と隣接する「多機能型施設あごら」でも、導入が決定し、2022年秋より運用を開始する予定です。「あごらんち」の利用者は、「あごら」も利用しているため、両施設がデジタルでつながり情報共有が進むと、今まで以上のサービスの実践、利用者満足度の向上につながると期待されています。

 「近い将来グループウェアの導入も検討したいですね。職員間のより充実したコミュニケーションを実現するために、大変有効なI C T活用だと期待しています」(土井氏)

 少子高齢化により、人手不足で正常な運営維持が難しくなってきている介護・福祉サービスの世界において、「あごらんち」の事例のようなICT活用は、重要度を増しています。

※1 バイタル測定
患者の生命の兆候を示す基本的な情報。通常は「脈拍」「呼吸」「血圧」「体温」の測定を意味している。
会社名 社会福祉法人 みちくさ
設立 2003年(平成15年)5月
所在地 福岡県豊前市大字八屋1800−8
理事長 藤川 靖子
事業内容 多機能型施設あごら(生活介護、 就労継続支援B型)、グループホーム あごらんち(共同生活援助)を運営。
URL https://www.michikusa-agora.or.jp/
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