企業ICT導入事例
-株式会社ブルックリン-AI需要予測と職人の経験と勘を組み合わせ、 ベーカリー業界の経営課題である二つのロスを軽減
記事ID:D20043
全国のベーカリーでは、パンの売れ残りによる食品ロスの問題、早期完売による販売機会の取りこぼしが大きな経営課題となっています。そんな状況の中、新潟県のベーカリー「小麦工房 ブルックリン」ではAI需要予測システムを活用することで、課題解決や収益の向上などに成果を上げ始めています。その取り組みについて、同社の代表取締役 長谷川 啓太氏にうかがいました。
早じまいと売れ残り業界の課題を解消へ
代表取締役 長谷川 啓太氏
株式会社ブルックリンは、新潟県長岡市と同上越市にベーカリー「小麦工房ブルックリン」を展開しています。同店は、土日には2店で約2万個のパンを売り上げるなど、地元でも屈指の売上を誇っていますが、経営を担う長谷川 啓太氏は「日々、ベーカリー経営の難しさを感じ続けています」と話します。
長谷川氏:「ブルックリンは父が創業したのですが、私は当初、家業を継ぐつもりはなく、証券会社に就職して働いた後、学習塾のフランチャイズ経営に携わっていました。しかし、2019年頃に父から『売上が伸び悩み、経営に苦労している』という話を聞き、これまでの仕事の経験が活かせるのではないかと思い直し、店を継ぐ覚悟を決めました」
前職で日々データを分析し、定量的な視点での経営判断を行ってきた長谷川氏が、ベーカリー業界について最初に感じたことは、「経営判断の大部分をパン職人の勘と経験に頼っていること」でした。
長谷川氏:「全国にあるベーカリーの多くは、その日のパンの製造量を時節や天候から判断し、その決定によって一日の売上目標や従業員の作業量を決めています。その判断は経験豊富な職人に負うところが大きいのですが、経験と勘頼りでは予測が外れることもあり、閉店時間より早く売り切れて、販売機会を失うことがよくあります。逆にパンが大量に売れ残ることもあり、当店も以前は300~400個も売れ残ってしまうようなことがありました。また大量に売れ残りが発生した時は、パン職人たちをその分過剰に働かせたことになり、残業時間を増やす要因にもなっていました」
こうしたことはベーカリー業界共通の大きな経営課題ではあったものの、「抜本的な改革に取り組む店舗は見受けられなかった」と長谷川氏は振り返ります。
長谷川氏:「職人の経験と勘に頼る風潮は根強いですが、近年の原材料費の高騰、さらにフードロスへの問題意識の高まりもあり、ベーカリー業界にも抜本的な変革が必要だと強く感じていました。税理士とも財務諸表を分析しながら話し合った結果、最善策は二つのロス、『販売機会の損失』『過剰な売れ残り』の削減だと確信するに至りました。そこで活路を求めたのが、AI需要予測システムの活用です」
AI需要予測システムの活用で課題を解決し残業時間も減少
需要予測システムの表示画面。カレンダーに来客数予測と実績、昨年実績などが表示される
需要予測システムは、過去の販売データや業態ごとの関連データを分析して将来の需要を予測し、業務効率化やコスト削減に貢献するアプリケーションです。近年はAIを組み合わせ、より高精度な予測が可能なものも登場しています。しかし、「ベーカリー業界に特化したシステムがなく、2021年からいくつかのサービスを調べ、試行錯誤しました」と、長谷川氏は語ります。
長谷川氏:「これまで3社のシステム活用を検討しましたが、最初のシステムは初期費用が高額だったため、二つ目は思うような結果が得られなかったため、利用をあきらめました。そして三つ目も当初はAPI※を導入した高額のサービスだったため利用を断念したのですが、2024年3月よりAPIを用いず安価に利用できるウェブ版が登場し、現在はそのシステムを利用しています」
同店が現在使用しているAI需要予測システムは、サービスを提供している通信会社と日本気象協会が共同開発したもので、通信会社の携帯電話基地局から得られる端末の位置情報データを基にした人流統計データや、日本気象協会が保有する気象データ、利用企業の店舗ごとの売上や来店客数など各種データをAIアルゴリズムで分析し、需要を予測するサービスです。月額8,000円ほどで利用でき、予測は毎日朝9時に更新されます。
長谷川氏:「パンは早朝から焼いていますが、11時に追加で何個焼くかを最終判断しているので、製造担当者は9時の需要予測を基に追加個数を決め、スタッフのその日の作業量を決める判断に役立てています」
同システムを1年間活用し続けた結果、実際に二つのロスは減少傾向にあると長谷川氏は説明します。
長谷川氏:「導入前は、パンの売り切れにより機会損失が発生する日と、逆にパンが大量に売れ残る日が、それぞれ週1回くらいの頻度でありました。これが導入後は月1回ほどに減り、売れ残った場合でもその量が従来より少なくなりました。最近は、残ったパンを冷凍して翌日に『もったいないパンセット』として販売していることもあって、廃棄はほぼゼロに抑えられるようになりました。さらに、従業員の収入減につながらないよう、基本給を上げながらも、残業時間を減少させることもできています」
AIの予測だけに頼らず独自データをプラスオン
需要予測システムにタブレットから アクセスし、毎朝9時に予測を確認している
AI需要予測システムの活用により多くの成果が得られたものの、長谷川氏は「現状のサービスでは、まだまだ物足りない」と、経営者としての本音を語ります。
長谷川氏:「現在のシステムでは入力できるデータの種類と、その蓄積年数が少ないため、精度向上のための改善余地は多いと感じています。また、参照データが少ないためなのか、特に祝日の需要予測が外れてしまうことが多く、ベンダーにその改善を求めています。このほか、需要予測はシステムの都合により、毎朝9時に更新されるのですが、この時間をもっと早めてもらえると、早朝の仕込み段階から最新予測を参考にできるので、より効率的になると考えています」
これらシステムの弱点を補うため、同店では日々の気象情報や1時間ごとの売上額を加味しながら需要を予測しています。
長谷川氏:「特に1時間ごとの 売上額は、『どの時間帯がよく売れているか』を分析する上で非常に重要ですが、現在のシステムではそこまでフォローできていません。そのため、AIの需要予測だけに頼らず、独自の分析、そして職人の経験と勘、これらを組み合わせて活用することが、最も効果的だと考えています」
また同社はトレイにのせたパンの種類、個数をカメラで自動認識するベーカリー向けのスキャンレジとキャッシュレス決済のサービスを両店舗に導入し、レジでの支払いが速くなり回転率が大幅に向上したそうです。この結果、店舗の駐車場の回転率も向上し自然と売り上げも増加するなど、AI需要予測システムと共に利益をもたらしているそうです。
長谷川氏は最近、同業の経営者に「AIの需要予測は、あくまで過去のデータを基にしたもの。そのデータを基にした数だけを売り上げたとしても、それは過去から成長していないことになる」と諭されたと話します。確かに過去を超えて成長し続けるには、AIの需要予測の活用だけでは不十分です。そのため、同社は今後、ICTの活用を進化させ、過去を超えるための挑戦を続けていくそうです。
- ※API
- Application Programming Interfaceの略。
異なるシステム間で機能やデータを共有するための仕組み。ソフトウェア同士をつなぐ「橋渡し役」のような専用回線を意味する。
| 会社名 | 株式会社ブルックリン |
|---|---|
| 創業 | 2000年(平成12年)12月1日 |
| 所在地 | 新潟県長岡市古正寺3-25(長岡店) |
| 代表取締役社長 | 長谷川 啓太 |
| 資本金 | 900万円 |
| 事業内容 | パンの製造・販売 |
| URL | https://brooklyn-pan.net/ |
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