企業ICT導入事例
-株式会社ビーイングホールディングス-物流最前線で活用される「ボイスシステム」両手が使えるピッキング作業で生産性と正確性が向上
金沢と東京に本社を置く株式会社ビーイングホールディングスは、全国40拠点以上での物流事業を中心に、観光バスやタクシー、車両整備の事業会社など多数を傘下に置いています。そのうち、石川県白山市にある物流センターでは、音声認識出荷システムを導入し、チェーン店向け食品類の出荷作業に活用しています。従来のハンディターミナルと違って常に両手が使え、ハンズ・フリーで作業に集中できる利点を活かし、倉庫内での出荷作業の生産性と正確性の向上などの効果が生まれています。音声の指示でピッキング※1ができる「ボイスシステム」※2は今後、日本国内でも多方面で浸透していくことが期待されます。
【導入の狙い】ピッキング作業を効率化し、正確で低コストの業務運営を実現する。
【導入の効果】作業の生産性・正確性が向上しただけでなく、働き方の改善や人材育成面での効果も。
約6,000種の商品を音声指示を基にピッキング
▲総務部長 桐原 義浩氏
株式会社アクティーはビーインググループの物流事業を担う子会社で、石川県白山市に物流拠点(名称:SCMセンター)があります。この拠点では主に、北陸地方で店舗展開するドラッグストア・チェーン向けに食品を店舗ごとに混載して出荷しています。同社倉庫内のフロアで日々扱うアイテム数は約6,000、オリコン(折り畳みコンテナ)数で約3,000ものピッキング作業を行っており、300以上の地域内の配送先店舗に向けて出荷しています。ここで働く従業員は約50名です。
「前日夜までに受注した分を翌朝からピッキング作業に入ります。迅速さも大切ですが、食品で難しいのは賞味期限管理です。大きな梱包で入荷したものから必要量だけバラしてコンテナに入れるので、入荷順に出していく『先入れ、先出し』のルールを徹底しなくてはなりません。従来のピッキング作業は、プリントアウトした受注リストを見ながら商品棚に移動し、ハンディターミナルでバーコードをスキャンして表示を確認するという方法でした。しかしこの方式では未熟練の作業者によっては手間がかかることや誤納品を起こす可能性もあるため、生産性・正確性をもっと改善できないかを検討していたところ、展示会の情報などから音声の指示でピッキングができるシステム(以下、「ボイスシステム」)のことを知り、2015年から試験的に導入することにしました。現在、25台が入っています」(桐原氏)
ヘッドセットと装着型端末機で商品位置と作業を確認する
▲株式会社アクティー 白山第3SCMセンター 課長代理 辻 健志氏
SCMセンターが導入した「ボイスシステム」は、マイク、スピーカー一体のヘッドセット(インカム)と、ケーブル不要で腰などに装着できる長さ15㎝程度の端末機、集中管理用のソフトウェア、無線LANで構成されています。特定話者・特定語彙向けに反応するようにできているので、最初に、当人の音声を識別させるための学習が30分程度必要になります。また同センターの商品棚は、レトルト調味料の棚は「イ―27」といったように商品のカテゴリー別に、文字と数字で分類しています。作業開始時はまず事前に登録した作業者を確認し、その後、作業内容として棚の位置(ロケーション)と数量が音声で指示されます。作業者が指示に従って該当商品を店舗別コンテナに入れ、ラベルを貼付し、音声で完了報告をすると、システム側から次の指示を受けることになります。
「商品はすべてJANコード(商品識別コード)で管理され、当センターは13桁のものを採用しています。しかし桁数が長いのでピッキングの指示で扱うのは下4桁の数字のみです。アイテム数が約6,000なので4桁あれば間に合います。このシステムを使えば、開梱時に両手が使えて、目線を商品から外さずに作業ができます。『ハンズ・フリー&アイズ・フリー』ですね。人の音声は環境や体調で変わるのですが、学習機能が備わっているのでその変化にも、対応してくれます『ボイスシステム』は、未経験の方でもすぐに使えるようになりますね」(辻氏)
作業効率が約30%向上 人材確保・育成にも効果
▲同社が導入している「ボイスシステム」のマイク、スピーカー一体のヘッドセット(インカム)と端末機
同センターは、物流の最前線基地として商品の再仕分け(2次ピッキング)に豊富な経験とノウハウを保有しています。取引先からの、時間、コスト、品質という厳しい要求を受け止めながら事業を発展させてきた背景には、作業の効率性・正確性向上や人材確保などの課題との不断の取り組みがありました。ICT化への取り組みも熱心で、グループのシステム会社では、TMS(輸配送管理システム)の自社開発・外販も行っているほどです。また、半透明ビニール板で中身が見えるようにしたオリコンやピッキング用のオリコンラックも自社で開発したものを使っています。今回の「ボイスシステム」も、こうした新しいことを積極的に試していく風土に適していたようです。
「まだテスト中なので正確な評価ではないですが、『ハンズ・フリー&アイズ・フリー』化によって生産性は30%ぐらい向上したと思います。誤配送は防止され、残業時間も減っています。従事者の経験値に依存しない作業になったことで、人材の確保や育成面でも苦労することが少なくなったと思います。また、システム自体をもっと使いやすくしようとも考えており、追加メニューを工夫して、システムからの指示を聞き取れない場合は『もう一度』とリクエストができるようにアレンジもしています」(辻氏)
コストとパフォーマンスを考えた導入・運用の検討が重要
日本の物流業界の仕事の中でも精密なピッキング作業は、これまで経験を積んだ従事者が支えてきましたが、少子高齢化の影響もあって人手不足が深刻になってきたこともあり、作業を機械化・自動化する必要性が認識されるようになってきました。それが「ボイスシステム」への注目が高まっている理由です。これは、物流業界に限ったことではないようです。
「当社が試験導入したことを知って見学者が増えましたが、その業種・業務が、製造からサービスまで多岐にわたっているので驚いています。導入を考える企業が増えていますね。私どもは、システムの利便性や導入効果も説明しますが、1台当たりのライセンス料とメンテナンス料など、コストがかかることも説明しています。どこでどのように使えばメリットがあるのか、パフォーマンスや投資計画を考えた上で導入を検討すべきと考えています」(辻氏)
※1 ピッキング:物流用語で出荷指示された品物を在庫から選び出す作業のこと。
※2 ボイスシステム:ピッキングなどの物流作業を、より円滑に効率的に行うことを目的に開発されたシステム。作業者はワイヤレスの音声端末一体型のヘッドセットを着用し、音声で出荷指示を受け、作業の完了も声で入力することができる。これにより端末入力などで手を使う必要がなく、ハンズ・フリーでの作業が可能になり、作業時間の短縮と作業品質向上を実現している
会社名 | 株式会社ビーイングホールディングス |
---|---|
設立 | 1986年(昭和61年)9月 |
所在地 | (金沢本社)石川県金沢市専光寺町レ3-18 |
代表取締役社長 | 喜多 甚一 |
資本金 | 8,000万円 |
事業内容 | 全国約40拠点で物流及び関連コンサルティング事業。(グループ会社事業として観光バス、タクシー、自動車修理、給油所、システム開発など) |
URL | https://being-group.jp/ |
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