企業ICT導入事例
-稲田金網株式会社-自社制作のウェブサイトをフル活用して広告・宣伝費などを圧縮 自社に適した営業戦略を展開
稲田金網株式会社は創業80年を超える老舗商社。社長を合わせて6名で金網やパンチングメタル※1、エキスパンドメタル※2製品など多様な製品を全国に販売しています。最小限の経営資源で最大の効果を上げる“ミニマム経営”を可能にしているのは、5,000ページを超える自社制作のウェブサイトです。これをフル活用し、宣伝のためのカタログやサンプル送付などにかかる間接費を圧縮、また外回りの営業をなくして問い合わせ対応に人員を集中させる戦略をとっています。
【導入の狙い】経営資源の少ない中小企業が、販売のための間接費を減らすためウェブサイトをフル活用する。
【導入の効果】ウェブからの新規注文が増え、売上高・利益とも安定した経営を継続できるようになった。
時代に合わせて「手を変える」自社の特徴を活かすためのウェブサイト
▲代表取締役社長 稲田 肇氏
大阪市中央区にある金網の老舗商社である稲田金網株式会社が扱う製品は約2,000種にもなります。一口に「金網」と言ってもその用途と種類は驚くほど多様で、建物の壁面の意匠や間仕切りから、工業用のコンベア、網カゴ、ふるい、さらには料理の豆腐すくいまで含まれます。一般的に商社では、商品説明のためにカタログやサンプルを作って客先へ送付する、営業担当がカタログやサンプルを携えて説明に出向くなどしますが、同社では現在、こうした活動を行っていません。
「数種類のカタログを作成して送ると、年間およそ65万円はかかります。サンプルの無料送付についても同様です。さらに営業経費もかかりますので、6人ほどの会社がそんなことをしていたら、経費倒れになり兼ねません」このように説明するのは、同社3代目社長の稲田 肇氏です。
稲田氏が先代社長から引き継いだ社是は「手は変えるが品は変えない」金網という商品は変えなくても、時代に合わせて売り方(手)を変えるという意味です。稲田氏もかつて、金網が実際に使われる現場を知るため、板金や内装工事の資格を取得し、各地で施工の実績を積みました。現在では内装工事などの仕事は手がけず、販売に特化していますが、「製品情報だけでなく、客先の購買担当者さえ知らない施工や意匠の知識を加えて対応できるようになりました」(稲田氏)
その経験は今でも活きており、稲田氏が現在用いている「手」は、ウェブサイト上に設けた複数のホームページをフル活用することです。
「当社の財産は、金網に関する知識と経験の豊富さです。それを活かしたホームページを2005年から自分一人で作り始めました。ウェブの知識はなく、専門の勉強をする時間もなかったので、写真や文字の大きさと位置を指定するだけのテンプレートを用いたソフトを使いました」(稲田氏)
製品別専門サイトを構築しカタログ代わりに活用
稲田氏は同社が蓄積してきた膨大な知識量・情報量を駆使して、ページ作成を続けました。ページ数が2,500を超えたところで、会社案内用サイトとは別に、金網、パンチングメタル、エキスパンドメタルの製品別専門サイトを独立させ、それぞれを充実させることにしました。現在のページ数は4サイトとグループサイトを含め総計約5,000に上り、まさに「金網の百科事典」です。サイトには、例えば、先代を取材してまとめた各製品の特長や、加工法、サイズ、施工事例などの記事が、豊富な写真や図表とともに掲載されています。この記事があることで、問い合わせを受けた際に、顧客にサイトを見てもらい、写真や図表を介してTV会議のように商談を進めることができ、カタログ以上の役割を果たしています。
「電話で話しながら、ウェブページ上の加工や施工の事例を参照してもらい、新たなデザインの提案を進める場合もあります。必要な情報はサイトからダウンロードしてもらい、双方の理解を深めればサンプルを送る場合も無駄がなく、スタッフ全員が決定権を持っているので、商談に出向く必要がありません」(稲田氏)
ウェブサイトの運用で稲田氏が注意しているのは、SEO(検索エンジン最適化)対策です。金網に関するどんな専門用語で検索しても上位5~10位以内には同社サイトが表示されるように更新頻度、キーワードなどを工夫し、簡単に使えるアクセス解析ツールも活用。自社の「圧倒的な商品知識と情報量の蓄積」という強みを、最大限に活かした戦略をさらに強化しています。
間接費を大幅に圧縮しウェブ経由でも新規顧客を獲得
こうしたウェブ活用によって、カタログやサンプルの制作・発送費、広告・宣伝費、営業経費などの間接費の圧縮もできましたが、より大きな成果は、売上に占めるウェブ経由の比率が年々向上していることです。2016年度の集計によると、ウェブ経由で注文する顧客は31%、うち16%が新規で、15%がリピーターになりました。
「中には北海道の牧場や九州の養蜂場もあります。まだ70%近くのお客さまは、従来通り電話やFAXを起点に注文されていますが、こちらは既存顧客が中心です。しかし今後は、近いうちにウェブ経由の比率が半分以上になると思っています。間接費の必要性はさらに低くなっていきますし、商談もスピーディです。必要経費として、サイトの維持管理に要するサーバー業者への支払いは避けられませんが、これも1サイト当たり3,800円弱なので、大きな負担にはなっていません」(稲田氏)
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▲製品の画像は社長自身で撮影してウェブサイト上で公開
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“どうせできない”と思わず“変えられる”という勇気を
稲田氏は、ウェブサイトの活用をさらに進化させようと考えています。
「現状のホームページは、どちらかと言えば、必要に迫られて情報をまとめたもので、満足はしていません。今、研究しているのは、利用者が急増しているスマートフォンやタブレットなどへコンテンツを対応させることです。また、エキスパンドメタルのように、用途が多いのに、なかなか言葉だけでは伝わりにくい製品を説明するために、動画を活用したいですね。これは難しいけれど、いろいろと工夫するのは楽しいです。仕事の仲間たちに加え、お客さまも巻き込みながら、金網の新しい可能性を広げていく仕事が好きなんです」(稲田氏)
自社の得意分野の価値を高めて、他社にはない価値を生み出した同社。“どうせできない”“どうせ変わらない”と思わずに、変えられる勇気を持って、未来を見据えて挑戦していくことを大切にしています。
※ 1 パンチングメタル:無加工の金属板に複数本のピンで構成された組金型を使用し、専用のプレス機で無数の穴を均等に打ち抜いた金属板。
※ 2 エキスパンドメタル:無加工の金属板に千鳥状に切れ目を入れながら押し広げ、継ぎ目のないメッシュ(網の目)状に加工した金属板。
会社名 | 稲田金網株式会社 |
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設立 | 1956年(昭和31年)3月 |
所在地 | 大阪府大阪市中央区東平2-3-12 |
代表取締役社長 | 稲田 肇 |
資本金 | 1,000万円 |
従業員数 | 6名 |
事業内容 | 金網製品及び金網加工品、パンチングメタル及びエキスパンドメタル製品の卸売販売 |
URL | http://www.inadakanaami.jp/ |
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