企業ICT導入事例

-川崎興産株式会社 メトロ書店-
ICTによる業務負担軽減でお客さまとのふれあいが生まれる

数多くの種類の本を取り扱うだけでなく、返本制度※1という特有の商習慣を持つ書店の在庫管理は、多くの書店にとって課題となっていました。メトロ書店を運営する川崎興産株式会社は、1980年代にいち早く自社開発によるコンピューター在庫管理ソフト「メトロシステム」を導入。以後、他社向け販売を行うソフト開発会社も立ち上げ、書店向け在庫管理ソフトで確固たる地位を築きました。

【導入の狙い】知識と経験など人的要素に頼っていた在庫管理をICTにより見える化する。
【導入の効果】品揃えを最適化、店員の負担軽減でお客さまに本の提案をできる余裕を確保した。

映画館の地下、小さな書棚から始まったメトロ書店の歴史

  • ▲常務取締役 JPIC公認読書アドバイザー・川崎 綾子氏

    川崎興産株式会社が運営するメトロ書店は、JR長崎駅の駅ビル(アミュプラザ長崎)にある本店のほか、神戸市、福岡市に4店舗を展開する大型書店です。

    「弊社のルーツは初代社長である祖父が創業した長崎駅前の映画館です。書店としての歩みは、地下にある映画館の通路での書籍販売から始まりました。“メトロ書店”という名称は、その名残です」(川崎氏)

この小さな書店には川崎氏の祖母が選びぬいた本が並び、多くの利用者で賑わいました。

「その後、映画産業の斜陽化を感じ取った祖父は映画館を閉じ、同じく長崎駅前に書店を開業しました。この書店はお客さまのご好評を得て、1980年には2フロア、売り場面積70坪という大型店舗になりました」(川崎氏)

しかし業容拡大にともない、メトロ書店は新たな課題に直面しました。それは書店特有の流通形態に起因する在庫管理でした。

「店舗の大型化で扱う本が増え、書棚の担当者でなければ在庫の有無が分からなかったのです。また本は基本的に3カ月で取次店(問屋)に返本しますが、その管理は本に挟まれたスリップという短冊のようなもので行われていました。そのため毎晩夜中までスリップで売上を確認し、返本する本を仕分ける作業に忙殺されました。そして新刊を含むさまざまな書籍を読み、お客さまにおすすめしたいものを選び出す時間はどんどん削られていったのです」(川崎氏)

コンピューターの黎明期に自ら専門書を読み解き、ソフトを開発

このままでは「お客さまに面白い本をお届けする」という書店本来の目的が達成できない。そう考えた当時の店長、現社長の川崎 孝氏は、在庫管理にコンピューターの導入を発案します。しかし当時コンピューターのビジネス利用はごく一部に限られ、在庫管理のパッケージソフトはありませんでした。

「結局社長の川崎は、自力での開発を選択します。高価だったオフコン(オフィスコンピューター)を購入し、専門書を読み、プログラムを書いたのです」(川崎氏)

こうして誕生したのが、日本初の書店向け在庫管理ソフト、メトロシステムでした。そしてこのソフトは、同社内の作業負担を軽減しただけでなく、売上にも大きなインパクトをもたらしました。

「その仕組みは本一冊一冊にコードを振り、コンピューターに入力し管理するという原始的なものでした。当時は在庫確認には待ち時間はつきもので、品切れの場合は注文して入荷するまで待つ必要がありました。しかしソフトの導入はその待ち時間をなくし、また売れ筋を把握して前倒し発注することも可能となり、人気の本の売り切れはほとんどなくなりました。これがお客さまの間で話題となり、来客数も増加、売上はソフト導入前の3倍になりました」(川崎氏)

ソフト販売を手がける新会社を設立、ほかの書店にもメトロシステムを展開

  • しかし川崎 孝氏はここで満足することなく、その視線はさらに先の未来を見通していました。

    「社長の川崎は、このソフトそのものがビジネスになると確信し、株式会社メトロコンピュータサービスを立ち上げ、同業他社へのソフト販売に乗り出しました。また1990年代にはそれまでのオフコン環境からパソコン対応への転換を進めました」(川崎氏)

  • ▲店内でお客さまが自由に書籍検索できる「店頭在庫検索システム メトロン」。駅ビルにあるため、利用客向けにJR時刻表も内蔵しています

    その後メトロシステムは大きく進化し、売れ筋の見きわめや書棚の最適配置など、書店の業務をさまざまな角度からサポートしています。

    「リアルタイムの売れ行きデータに基づく配置換えなど、臨機応変な対応が可能になりました。また神戸や福岡にある支店での売れ筋の傾向が長崎にやや遅れて到来することも分かり、売れ筋本の配置を見直すなど、先回りしての対応も容易になっています」(川崎氏)

現在、メトロシステムはMetroLinkへと進化し、クラウド環境での利用、POS※2やEDI※3通信、店頭で書籍が検索できるメトロンも機能として取り込み、販売分析や取引先との連携ができる統合的商品管理ソフトとして、大手書店を含む全国約1,600の書店で活用されています。

「メトロシステムからMetroLinkまでは、メトロ書店という現場とメトロコンピュータサービスという開発部門が密接にコンタクトし、販売の現場の声を、つねにソフトにフィードバックしながら改良を続けてきました。それが後発の他社製品との最大の相違点だと思います」(川崎氏)

デジタル化の推進は「書店本来の使命」に回帰するための方策

  • ▲「何か面白い本はないか」「友人にどんな本を贈ればいいか」など、さまざまな相談に応える「読書相談カウンター」

    ICTによる業務改善により、書店員に余裕が生まれ、多彩な企画やイベントが実現されています。親子を対象に行われている「絵本おはなし会」や読書アドバイザーの川崎氏が対応する「読書相談カウンター」も好評です。

    「本とお客さまの出会いをお手伝いするのが書店員の重要な仕事です。日常の在庫管理などの負担をICTの活用で軽減すれば、お客さまとふれあう時間も多くなり、お客さまに『一冊の本がもたらす感動』をお届けできるのです。それは、書店本来の使命への回帰なのです」(川崎氏)

現在、メトロ書店にはNTTの「スマート光ビジネスWi-Fi」が導入され、スマートフォン上のアプリケーションによる店員同士の連絡に活用されています。

「書店員は売り場や倉庫を行き来します。そんな時、スマート光ビジネスWi-Fiがあれば、どこにいてもMetroLinkにアクセスできるため、業務が大幅に効率化しました。将来的にはこのWi-Fiを使ったお客さま向け書籍案内アプリケーションを用意し、お客さまにおすすめの書籍をご案内するなど、ICTによる『本との出会い』が実現できればと思っています」(川崎氏)

※1 返本制度:日本の書店に見られる、他業態とは異なる商習慣のこと。書店に並ぶ書籍の多くは取次店(問屋)からの委託販売という形をとり、仕入から一定期間(新刊の場合3カ月)が経つと取次店に返品しても良い。
※2 POS:Point of Salesの略で、日本語では販売時点情報管理。レジなどで商品の販売状況を収集、コンピューターで管理し、適切な在庫管理や売れ筋の分析に役立てる仕組み。
※3 EDI:Electronic Data Interchangeの略で、日本語では電子データ交換。複数企業のコンピューター同士が注文書や請求書などを電子的に交換し、処理する仕組み。

会社名 川崎興産株式会社 メトロ書店
設立 1959年(昭和34年)
所在地 長崎県長崎市尾上町1-1 アミュプラザ長崎3F
資本金 9,800万円
代表取締役 川崎 孝
事業内容 和洋書籍・雑誌・事務機器・文房具・CD/DVDなどの販売、ブックカフェ
URL http://metrobooks.co.jp
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