企業ICT導入事例
-有限会社山崎石材店-墓石情報を一元管理。創業270年の老舗が、ICTにより先進的な企業に生まれ変わる
多様化する葬儀や「墓じまい」などで縮小傾向にある墓石業界にあって、先進的なICT活用で注目されている有限会社山崎石材店。その取り組みは、久しぶりにかかってくる顧客からの電話に的確に対応することから始まりました。
【導入の狙い】顧客と墓石の情報を一元管理し、社員の誰もが対応できるようにする。
【導入の効果】迅速で的確な組織的対応により、新規顧客の獲得にもつながった。

久しぶりにかかってくる顧客からの電話にも、迅速・的確に対応することが信頼の基盤になる

▲代表取締役・山﨑 哲男氏
茨城県常総市にある有限会社山崎石材店は、「石平(いしへい)」の屋号で、江戸時代半ばの1747年(延享4年)に創業した老舗の墓石店です。その13代目にあたる代表取締役の山﨑氏が、先代から経営を引き継いだのは2011年3月の東日本大震災の直後でした。
「地震の影響で墓石が倒れたり、ずれたりした事故が約700件発生しました。たくさんのお客さまからの問い合わせがあって大変だったのですが、手作りのCTI(Computer Telephony Integration)システムと10年前から作り始めていた墓石情報のデータベースのおかげでなんとか乗り越えることができました。でも、この経験からもっとICT活用を進めることが必要だと思うようになりました」(山﨑氏)
墓を建てるのは数代に一度くらい。久しぶりにかかってくる顧客からの電話で、名前と墓石の情報をすぐに結びつけて対応するのは難しいはず。墓石情報には墓所、形状、墓碑名、施工履歴などが必要になるからです。しかし、山﨑氏は「そこで迅速・的確に対応すれば信頼感が増し、新たな需要にもつながる」と考えたのです。山﨑氏は、10万円で購入した簡易なCTIシステムをベースにソフトを自分で作り、過去の手書き履歴から約2,500件の有効既存顧客を掘り起こし、顧客の電話番号から顧客情報を表示させるようにしたのです。とはいえ、約270年も続く老舗です。
「潜在的には5,000件くらい。先代の頭の中にある情報も“見える化”しようと、今も更新中です」(山﨑氏)
専門家の力と助成金を活用して独自のシステム「石平くん」を開発

▲既存顧客約2,500件の墓石情報を管理
CTI導入から始めたICT活用の取り組みは、年を追って本格化しました。地元商工会の経営革新セミナーなどに参加し、ITコーディネータの派遣や助成金を受けて顧客情報と墓石情報の一元化によるCRM(顧客管理)システムを構築することにしたのです。
「お客さまの墓がどこにあって、どんな墓石を使い、どんな文字が刻まれているか、過去にどんな補修をしたか、現在工事中なら、その進捗状況も一目で分かるようにしました。また併せて社内の業務システムも整備して、見積作成、受注・入金・在庫管理などもできるようにしました。クラウドサービスを利用しているので、そこにアクセスすることで、本社や展示場、移動先からでもそれらの情報が共有できるようにし、このシステムを『石平くん』と名付けました。経費は約400万円要しました」(山﨑氏)
システム開発の狙いは、顧客対応力の強化と情報の社内共有にありました。そこで後者について、誰がどのように活用しているのかをさらに具体的にお聞きしました。
「現在、当社の社員は役員を含めて7名。専従の営業スタッフも最近、初めて採用しました。情報の共有は、これら社員だけでなく、基礎工事などを請け負う協力会社も含まれます。設計図や現場写真などもポータブル端末から入手できますし、墓所の位置は、緯度と経度の情報から地図上にマッピングされるので、協力会社の人も迷わずに見つけられます」(山﨑氏)
「家業を企業にしたい」との思いがICT活用を加速させてきた
このように社内だけでなく、協力会社を含めたチームで迅速に問題解決できるような組織にすることを目標にし、その施策の基本に据えたのが情報共有です。上記の顧客情報と墓石情報の一元管理システム「石平くん」がまさにそれです。
「長年、家業としてやってきましたが、これを企業にしなくてはと考えてきました。経営者だけでなく、誰もが経営情報を参照して的確な判断と対応ができるのが企業組織です。そのためにはICT活用が避けて通れないと思います」(山﨑氏)
前述した「石平くん」システムに加えて、山﨑氏は、社内のSNSシステムも整備しました。SNSは、フェイスブックやツイッターのように、メールソフトを使わなくても仲間たちの間で簡単に連絡を取り合える利点があります。
「“トークノート”というシステムで、仕事の報告や指示もこれを使っています」(山﨑氏)
結果として、ICT活用の効果で、過去5年間で売上高は1.7倍に、顧客数は約2倍になったのです。
デザイン墓石にも力を入れて市場開拓 目指すは、業界の経営モデルになること
また同社のホームページではデザイン墓石にも力を入れていることがうかがえます。契約している墓石デザイナーの手によるもので、顧客の注文も取り入れられる斬新な墓石への関心が広がっています。
「墓石にも時代の流行があります。3DのCADソフトを使ってデザインしたものをまずCG合成して見ていただきます。でも遠隔地の場合、施工そのものは当社では受けません。何かあればすぐに駆け付けられる距離の範囲内でないと責任ある仕事ができません」(山﨑氏)
ホームページには、ほかにも施工事例や「お客さまインタビュー」の連載記事、社員ブログなどが掲載され、同社の顧客重視の姿勢が伝わってきます。
「ピーク時に比較して墓石市場は3分の2に縮小しています。経営者の頭の中だけに顧客や墓所、墓石の情報があるというのでは、満足な顧客対応ができません。『墓じまい』にしても、不安や疑問があるはず。私たちは、その段階からお客さまに寄り添っていくことを考えねばなりません。それにはCRMシステムでお客さまとの信頼関係を強化する顧客対応力の強化で乗り切れると判断したのです」(山﨑氏)
同社の今後の目標は、「業界の経営モデルの一つになる」ことです。

会社名 | 有限会社 山崎石材店 |
---|---|
創立 | 1747年(延享4年) |
所在地 | 茨城県常総市水海道栄町2648 |
代表取締役 | 山﨑 哲男 |
事業内容 | 墓所墓石設計施工、石碑・記念碑・石像・モニュメント・表札販売、各種灯篭、各種仏像、石彫刻製品企画販売、お墓の建て替え・リフォーム、移転・改修・クリーニング、住宅石工事:玄関・門柱・石塀・敷石、各地霊園・墓地のご案内 |
URL | http://www.ishihei.com/ |
関連記事
-
-
2022.05.25 公開
-株式会社つばさ公益社-
ICTで経営効率や労働環境を改善し遺族の負担の少ない葬儀を提供コロナ禍の長期化に伴い、葬儀スタイルも簡略化やオンライン化が進んでいます。そのよ...
-
-
2019.06.28 公開
-株式会社LIXIL-
AI-OCR の導入によりRPAの前処理を自動化し、ミス削減と業務効率化を加速株式会社LIXILは、AI-OCR※の導入で、手書き帳票類のデータ化を実現。コピ...
-
2019.06.28 公開
-株式会社上間フードアンドライフ-
ICTの積極的な導入で経営に必要な数字を“見える化”、経営戦略を最適化原価率、粗利益などの経営判断に必要なデータが明らかになるのは、一定の締め日以降と...