企業ICT導入事例
-株式会社フードケア-少数精鋭主義と、徹底したICT活用から生まれる介護用食品パイオニア企業の強み
超高齢化社会の日本において、高齢者の食事は大きな課題の一つです。株式会社フードケアは、“食べる喜び”を提供する「介護用食品」のパイオニア企業。少数精鋭経営で順調に業績を伸ばす同社の強みはICT活用から生まれています。
【導入の狙い】ICT活用による効率的受注・出荷システムの確立
【導入の効果】業務効率化による売上増、ネットワーク強化による営業力向上
噛む力や飲み込む力が衰えた高齢者に“食べる喜び”を安全に提供する
▲代表取締役・竹内 豊氏
内閣府の「平成26年版高齢社会白書」によると、2012年末時点で要介護あるいは要支援に認定された人のうち、65歳以上が約546万人を占め、2001年に比べて倍以上に増えています。高齢化に伴う要介護人口急増の問題は、深刻さを増しています。特に介護の現場で課題になっているのが食事です。噛む力や飲み込む力が衰えることで栄養不足になって身体の機能が落ち、病気にかかりやすくなったり回復が遅れたりします。また、誤嚥によって肺炎を引き起こし、死亡につながるケースも少なくありません。そこで必要になるのが、各種疾患に対応した病態別食品、つまり「介護用食品」です。
神奈川県相模原市にある株式会社フードケアは、長年、食品製造会社に勤務してきた竹内氏が、1997年に創業した介護用食品の企画開発・販売会社(製造は外注)です。以来約20年にわたり、業界のパイオニアかつリーディングカンパニーとして順調に業績を伸ばしてきました。その商品は「全国病院用食材卸売業協同組合」加盟の販売代理店(57社)を通して、全国約1万軒の病院や介護福祉施設に届けられています。
「当社の商品は、噛む力や飲み込む力が衰えた方に“食べる喜び”を提供するもので、58品目それぞれに味や容量のバリエーションがあります。主力商品の『ネオハイトロミールシリーズ』(とろみ調整食品)や特許を持つ『スベラカーゼ』(ゼリー食)は、誤嚥などが起きないよう、医療機関との共同開発や専門家の指導のもとに開発し、社員全員が試食をするなど、安全性や味をしっかり検証しています」(竹内氏)
年商40億円を支える32名の社員 少数精鋭経営を続けるために
▲「ネオハイトロミールシリーズ」「スベラカーゼ」など、“食べる喜び”を提供する同社の主力商品
驚くべきことは、年商40億円を超す同社の売上を支えてきたのが40名にも満たない少数の社員だということです(2016年春に6名の新卒者が加わって46名の現在は、管理・営業・開発の3部門体制)。
「人を増やすことには慎重です。創業当初はまだ市場規模も小さく、ワンルームマンションの1室から事務経験のない家内(後に専務)と二人三脚でスタートしました。鉛筆1本買うにも苦労し、銀行から借り入れを断られた苦い経験もあります。基本的には自力で運営できる身の丈に合った経営を心がけ、ムリ・ムダを減らし、4年目から少しずつ増やしてきた社員も、一人何役もこなせるように育ててきました」(竹内氏)
▲株式会社東京IT経営センター 代表取締役・田中 渉氏
しかし、業績の順調な伸びで仕事がオーバーフロー気味になることは避けられませんでした。販売代理店の多くはICTインフラが未整備で、注文方法の9割がファックス。注文が多い日は対応できないこともあり、商機を逸していました。受注分も当日発送の手配や登録が必要ですし、帳票を作成し、1週間分をまとめた請求書を組合に送る作業もあります。
「特に午前中は、ファックスの山、電話が鳴りっぱなしのパニック状態。このままではどうにもならないと危機感を持ち、対策を検討し始めました」(竹内氏)
この状況を打開するために竹内氏がコンタクトしたのは、相模原市にある株式会社東京IT経営センターの代表でITコーディネータである田中氏でした。同センターには、大手ICTベンダーなどで活躍した豊富な経験のあるITコーディネータが多数登録しており、中小企業の経営改革支援のお手伝いをしています。
ITコーディネータと若手社員で本格的なICT活用に踏み出す
▲総務部 課長・按田 憲告氏
「竹内社長から経営についてのお考えをお聞きしたのが2005年。第1段階で取り組んだのは、市販のソフト『Access』(マイクロソフト社)による受注・出荷システムの構築でした。受注/登録を電子化したことでパニック状態から抜け出し、担当者を4名体制から3名体制でこなせるようになりました」(田中氏)
その間に世の中のICT化が急速に進むことを見越した上で、2010年から第2段階として本格的なICT活用による全社的な業務改革に取り組みました。
「幸い前年に、ICTの分かる若いスタッフが入社したので、彼が会社の窓口となり、システム改革で実現したいことをまとめ、進捗管理をしてくれました」(田中氏)
この若いスタッフとは、現在同社総務部 課長の按田氏のこと。ICT企業で働いた経験もある按田氏はこう振り返ります。
「クラウドで基幹システムを構築して受注登録から帳票作成を自動化し、代理店とのEDI(電子データ交換システム)導入を進めることで、業務担当を3名から2名に、帳票関連コストも95%削減しました。また医療・介護のキーパーソンを訪問する営業部門には、SFA(営業支援)/CRM(顧客管理)、グループウェアなどを導入して、より計画的で密度の濃い行動ができるようにしました。この前線から得られた情報は即時データベースに蓄積し、開発やマーケティングにすぐ活かせるようにもなりました。また、現在では商品トレーサビリティ機能も追加しています」(按田氏)
こうしたICT改革でコスト削減と業務の質を進化させ、少数精鋭経営との両立ができた同社。将来のビジョンについて、竹内氏は次のように語ります。
「2016年の6月から、介護食事業の次の柱にすべく、医療機器開発販売の新会社『カレイド』を立ち上げました。また海外市場の開拓も進めていますが、今後は在宅介護市場向けの事業にも力を入れていきます。となれば、受発注の管理や治験データ管理などで、全業務でICT活用はさらに進めていかねばなりません」(竹内氏)
超高齢化社会の日本の将来を見据え、同社の挑戦と躍進はまだまだ続きそうです。
会社名 | 株式会社フードケア |
---|---|
設立 | 1997年(平成9年)2月3日 |
所在地 | 神奈川県相模原市緑区橋本4-19-16 OMGビル |
代表取締役社長 | 竹内 豊 |
資本金 | 1,000万円 |
事業内容 | 介護医療食品の開発および販売 |
URL | http://www.food-care.co.jp/ |
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