企業ICT導入事例

-株式会社今野製作所-
個人に頼った仕事のやり方を業務の見える化とICT化でチームプレー型に変革

営業担当者や技術担当者個人の能力に頼りがちな小規模、あるいは中小の製造企業。その結果、業務負担が特定の従業員に偏ってしまい、ビジネス全体の成長を抑えてしまうことも。こうした問題を業務の「見える化」とこれに基づいたICT化により、見事に乗り越えた会社があります。

小規模製造企業が支える日本のモノづくり

優れたモノづくりを支えている日本の製造業。その数は、2012年現在、全国に約43万社ありますが、このうち大企業はわずか0.5%。国内製造業の実に99.5%は中小企業であり、さらにこの9割近くを占めるのが従業員20名以下の小規模企業です。(いずれの数値も「平成24年経済センサス」より)

こうした小規模製造企業の多くには、その道何十年という営業担当者や腕の立つ職人がいるものです。彼らは簡単な打ち合わせだけで、設計図面もなしに、長年の知識や経験、技を駆使して見事な製品を作り上げてしまいます。しかしその反面、こうした個人の能力に頼った仕事の進め方は、企業がそれまでの事業の枠を超えて新しいビジネスにチャレンジしようとする際に、足かせとなってしまうケースがしばしば見受けられます。

東京・足立区に本社を置く従業員数30名余り、油圧機器製造と板金加工を事業の柱とする株式会社今野製作所も、新ビジネスへ乗り出した矢先、社内は大きな混乱に陥りました。

新ビジネスへの進出で問題が噴出

▲代表取締役社長・今野 浩好氏

同社は東京と大阪に営業拠点、福島には開発・製造拠点という3拠点で事業を展開しており、売上高6億円(2015年8月期)。「イーグル」という自社ブランドの油圧ジャッキ製品を持ち、工作機械や印刷機械といった重量機械の運搬・据付け用途ではシェア7割を誇っています。

しかし、2008年、リーマンショックを引き金とした景気低迷・設備投資縮小のあおりを受け、標準仕様で量産していた油圧ジャッキ製品の販売が激減。売上高は前年比でほぼ半減という非常事態を迎えてしまいます。今野氏が取った打開策は、顧客の細かい要望に対し設計段階から対応する特注品のビジネスへの進出でした。

「運搬・据付け用の油圧ジャッキでは、DTO※1に対応するメーカーがほとんどなく、数量は少ないものの、当社への反応は上々でした。しかし、当時、営業担当者の若返りを進めていたこともあって、設計に必要な仕様の聞き漏らし、仕様変更の伝達忘れなどから作業のやり直しが頻発。営業と設計はその対応に忙殺される一方で製造現場は仕事待ち、と現場は大混乱に陥りました。これまでは問題なかった担当者間のあうんの呼吸が通用しなくなっていたのです」(今野氏)

「プロセス参照モデル」※2で業務を見える化

▲ICT化によるモニターでの作業状態の確認と、熟練の職人の勘と技が、優れた製品を生み出します

今野氏は、従来の仕事のやり方の全面的な見直しを決意。そのための手法として、人づてに聞いた「プロセス参照モデル」を用い、業務分析、つまり業務の「見える化」に着手しました。

小規模企業は「組織の壁」こそありませんが、口頭伝達、紙ベースのメモ、電子メールなど情報のやり取りでは行き違いも多く、営業や設計の担当者間で、思った以上に情報共有ができていませんでした。また、仕事の進め方もその従業員なりのやり方を作り上げており、同じ部門の従業員でもバラバラ。福島工場や大阪営業所など、離れた拠点の細かい作業内容や作業の進め方ともなれば、ほとんど把握できていないはず。こうしたことが混乱の大きな原因になっているのでは、と今野氏は考えました。

さっそく今野氏と営業、設計、製造の各リーダー、そしてコンサルタントを入れたプロジェクトチームを結成。現状の業務を詳細に見える化するとともに、明らかになった問題点の改善策づくりにも知恵を絞りました。

「見える化したことで、さまざまな課題が明確に浮かび上がってきました。単純なところでは、一つの受注案件を営業と設計とが異なる体系で管理番号を割り振っていたこと。これでは混乱するのも当然でした」(今野氏)

ICT化も組み合わせ売上は3倍に

半年をかけたプロジェクトの成果として、理想とする新たな業務フローをまとめ上げたのは2010年の終りでした。引き続き、この業務フローをコンピューター上で実現するためのICT化をスタートさせます。

「業務フローを反映したICTシステムの構築は、業務の見える化の検討に入ったところから意識していました。見える化の工程で理想とする業務フローの骨格をしっかり検討できていたため、ICT化の作業そのものはスムーズに進みました」(今野氏)

ICT化の際に重視したのは、とにかくコストをかけないこと。そのために、従来から導入していたグループウェアと新たに採用したクラウド型の簡易データベースを組み合わせてシステムを構築。システム作りも業務兼任の担当者を一人置き、3日ほどで完成。入力項目の設定や画面のデザインなどは従業員全員参加でアイデアを出し合いました。

第一弾の業務システムとなった営業の案件管理システムが2011年秋から稼働を開始しました。3拠点を結び、営業が収集してきた情報を漏らさずに共有できるこのシステムにより、担当者間での確実な情報伝達が実現。SNS機能も統合したことで、他業務の従業員からアドバイスや意外なアイデアなどを入手することも可能になりました。

今後は、ある著名な経営者が作り出した言葉である「職商人(しょくあきんど)」の集団を目指し会社を成長させていきたいと今野氏は語ります。

「江戸時代のモノづくりは『職人』と『商人』が融合した『職商人』が担っていました。モノづくりの原点はこうした人々。利用者と直接コミュニケーションしながら製品を作り上げていく。こうしたことのできる人材が集う会社にしていくことが夢です」(今野氏)

※1 DTO :デザイントゥーオーダーの略。受注設計生産のこと。
※2 プロセス参照モデル:ビジネスプロセスに共通するインプットやアウトプット、業務ルールなどを定義したもの。

会社名 株式会社今野製作所
創業 1961年(昭和36年)4月
所在地 東京都足立区扇1-22-4
代表取締役 今野 浩好
資本金 3,020万円
事業内容 油圧機器事業、板金加工事業、受託開発事業
URL http://www.eagle-jack.jp/

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