企業ICT導入事例

-大分県柑橘研究会-
ICTを活用し、ハウスミカン栽培を省力化

【導入の狙い】ハウス内の温度管理とコストダウン
【導入の効果】温度異常の早期検知の実現により、農作物を保護

ハウスミカン栽培が抱える問題

▲会長・木村 房雄氏

 大分県杵築市は、昭和40年代後半からビニールハウスで温州ミカンを栽培する「ハウスミカン」の栽培に力を入れています。

 「それ以前は露地(自然の状態の土地)での栽培を行っていましたが、全国的な過剰生産で価格が低迷したため、夏に出荷できるハウスミカンの栽培に切り替えたのです」(会長・木村 房雄氏)

 しかし現在、このハウスミカン栽培はいくつかの課題を抱えています。

 「ひとつは、近年の資源需要の高まりを背景とした、燃料の高騰を原因とする、生産コストの増加です。そしてもうひとつが、ミカン栽培に従事する人々の高齢化です」(木村氏)

生産の省力化のためにICTを導入

▲温度センサと小型の基地局

 こうした課題を解決するため、木村氏が選んだ方法は、ICTの導入でした。

 「これまでハウス内の温度は、経験で得られた知見により管理していました。もし最適な温度管理をICT化できれば、寒い時期に暖房を入れる場合も、必要以上に温度を上げることがなくなるため、燃料費を削減することができます。また、ハウス内の温度が高い場合には、ミカンの木がダメージを受けないよう、換気扇で温度調整をしているのですが、この換気扇が正常に動いているかどうか、これまでは見回りでの確認が欠かせませんでした。そこで、ハウスの温度を監視できるシステムを導入すれば、生産の省力化が期待できると考えたのです」(木村氏)

 そうした木村氏の構想を受け、兵庫県に本社を持つ住友精密工業株式会社は現在、この地で、ハウスミカン栽培のICT化に取り組んでいます。

▲住友精密工業株式会社 センサネットワーク事業室 事業室長・宮本 哲氏

 「この杵築でミカンを栽培する農家の方のハウスそれぞれの内部に、複数の温度センサを設置しました。クラウドがこれらのデータを収集し、機械学習エンジン『Jubatus(ユバタス)』が解析します。Jubatusにはあらかじめ個々のハウスの年間観測データが与えられており、温度が異常であると判断すると、そのハウスを管理する農家の方にメールでアラートを送るのです」(住友精密工業株式会社 センサネットワーク事業室 事業室長・宮本 哲氏)

 「こうした仕組みづくりには相応のコストがかかりました。しかしそれ以上に、安心できる温度管理の環境が整ったことが大きいと思っています。実際に、このシステムから送られたアラートで換気扇の故障が見つかり、大切なミカンの木が守られたというケースも何度かあり、導入の効果が実感できました」(木村氏)

  • ▲ビニールハウスモニタ構成図

  • ▲各ハウスの温度や油使用量を可視化

見える化の実現により課題解決を目指す

 そして現在、木村氏と住友精密工業は、燃料費の削減という課題の克服に取り組んでいます。

 「ハウス内の温度を、ミカン栽培に影響が出ない範囲でどこまで下げられるかを、実験を通して確認を進めているのです。その温度域を下げてもミカンが問題なく生育するようであれば、それだけ燃料費が節約できます。そして温度の最適管理が見える化できれば、経験の有無に関係なく、だれもが高品質のハウスミカンを生産できるようになります。管理の手間も省け、燃料費などコストも低減され、若い人の参入も容易になるでしょう」(木村氏)

 このプロジェクトが実を結べば、農業の抱える諸問題を解決するだけでなく、消費者にとっても「美味しく安価で安全な農産物」をもたらすことになるはずです。

▲ハウスミカンを栽培するハウスの外観

組織名 大分県柑橘研究会
設立 1965年(昭和40年)7月
所在地 大分県杵築市大字杵築741-1
会長 木村 房雄

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