ICTコラム
サービスロボットの課題と未来像記事ID:D40039

10月号、11月号で紹介してきた通り、サービスロボットは生産効率を飛躍的に上げ、労働者の時間的な余裕を生み出します。そして現在、日常生活やさまざまなビジネスシーンにおいてサービスロボットが活躍しています。しかし、サービスロボットのさらなる普及、活用を進めていくためには、解決していかなければいけない課題があります。最終回となる今回は、その課題と未来像について解説していきます。
ロボット業界の抱える二つの課題
ロボット業界が抱える課題には、大きく分けて二つの課題があります。一つは「技術者不足」。もう一つは「ユーザーのロボットに対する知識や理解力(=ロボットリテラシー)不足」です。一つ目の課題、技術者不足の原因は、人口減少による働き手不足という点と、技術者を育ててこなかった国の失敗という二つの点があります。人口減少の問題はここで解説するまでもないでしょう。問題は後者の国策の失敗です。
日本は過去何十年にもわたり技術者を育ててきませんでした。ロボットを開発するには機械の知識だけではなく、制御ソフトウェアの知識も必要になります。また、場合によっては心理学の知識や動物の知識も必要です。つまり、深く幅広い知識が開発技術者に求められるということです。そんな高い能力が求められる技術者ですから、国が本気で教育改革を行うなど本格的に取り組まなければ技術者を揃えることはできないのです。
次に、二つ目の課題である、ユーザーがロボットについてよく知らないというのも大きな問題です。Amazonは物流ロボットのおかげで今やEC小売で一人勝ち状態です。しかし、なぜ他社はそうしなかったのでしょうか?物流は単純作業が多く、普通に考えたら「ロボット」というアイデアが出てきても良さそうです。しかし、そうはなりませんでした。なぜか。その原因は、他社のロボットリテラシー不足にあったと考えられます。

多彩な知識を持つロボット開発技術者の養成が大きな課題に
二つの課題を解決するために必要なこと
まず、技術者不足の問題は国が本腰を入れて技術者を養成しなくてはなりません。高校生から学ばせれば、高校と大学、場合によっては大学院の期間学ぶことができ、おおむね6年~9年で社会に出てくることができます。人がプロフェッショナルな知識を身につけるには5年が必要と言われています。つまり、高校生から学ばせることで若いプロフェッショナル人材の輩出を期待できます。もちろん、社会人にも多くの助成金を出して教育を奨励すべきです。
ロボットリテラシー問題は、ユーザー側に立った支援を業界が実施することが必要です。具体的には構想策定やプロジェクトマネジメントなどです。筆者が所属するNPO法人RobiZyでは、この問題に取り組む活動を始めています。例えば、ある電力企業が多角化の取り組みの一つとしてスマート農業に参入したのですが、この時には構想/計画策定支援を行いました。同社にはロボットの知見がなかったため、どういうロボットを使い、どういう形で実現していくのかなどを可視化して、分かりやすく解説していきました。その結果、同社のロボットリテラシーが高まり、今では自分たちの構想を自分たちの言葉で語れるようになっています。
-
スマート農業で進むロボットの活用
ロボットは未来の救世主
ロボットの未来は明るいと筆者は考えています。先に挙げた課題があるとはいえ、ロボットはまさしく救世主です。ロボットの活用によって、ユーザーは同じ時間で多くの利益を稼ぐことができます。ロボットは重労働や危険作業を肩代わりします。これによりケガや病気、事故が軽減され、労働者がより健康になります。労働者の健康は生産性の向上につながり、多くの利益を生み出します。利益向上は給与向上につながります。給与が向上すれば市場が盛り上がります。
給与が上がりながらも、自分たちの働く時間は減る。ロボットはそんな未来を形づくります。これは決してユートピアではなく、現実に見えている世界です。オランダは世界に先駆けてスマート農業を進めていますが、トマト栽培においては、その生産効率は日本の平均的な農家の約8倍とも言われています。日本のトマト農家が8時間かけて稼ぎ出す収益をオランダの農家は1時間で稼いでしまうということです。どうでしょうか?これはロボットがもたらす未来のほんの始まりです。全人類がロボットによって幸せな方向に変わっていくのです。
-
農業用ドローンの普及も拡大
これまでの連載で全三回にわたってロボットについて解説してきました。すでに使われているものもあれば、もう少し未来にならないと実現しないものもあります。ロボットがもたらす明るい未来はもうすぐそこまで来ています。本連載を機に多くの人がロボットに関心を持っていただけたら幸いです。

伊藤 デイビッド 拓史氏
特定非営利活動法人ロボットビジネス支援機構 副理事長 兼 専務理事。一橋大学大学院卒(MBA)。富士通株式会社、富士通インド(Fujitsu India Limited)でITシステムの国内/国際案件に従事。富士通総研、デロイトトーマツコンサルティングファームにてITアドバイザリーとして活躍。その後、経営補佐、ビジネスアドバイザリーに従事。現在は、ロボットビジネスアドバイザリーとして、多くのロボット導入・開発プロジェクト案件を手がける。
関連記事
- 電話応対でCS向上コラム(314)
- 電話応対でCS向上事例(260)
- ICTコラム(124)
- 女性の健康、悩みに寄り添うフェムテックとは(2)
- デジタル時代を企業が生き抜くためのリスキリング施策(3)
- 2024年問題で注目を集める物流DXの現状とこれから(3)
- SDGs達成にも重要な役割を担うICT(3)
- 人生100年時代をICTで支えるデジタルヘルス(3)
- 働き方改革と働き手不足時代の救世主「サービスロボット」の可能性(3)
- ICTで進化する防災への取り組み「防災テック」(3)
- ウイズ&アフターコロナで求められる人材育成(3)
- AI-OCRがもたらすオフィス業務改革(3)
- メタバースのビジネス活用(3)
- ウェブ解析士に学ぶウェブサイト運用テクニック(46)
- 中小企業こそ取り入れたいAI技術(3)
- 日本におけるキャッシュレスの動向(3)
- DXとともに考えたい持続可能性を図るSX(3)
- 「RPA(ソフトウェア型ロボット)」によるオフィス業務改革(6)
- 「農業×ICT」で日本農業を活性化(3)
- コロナ禍における社会保険労務士の活躍(4)
- コールセンター業務を変革するAIソリューション(3)
- ICTの「へぇ~そうなんだ!?」(15)
- 子どものインターネットリスクについて(3)
- GIGAスクール構想で子どもたちの学びはどう変わる?(3)
- Z世代のICT事情(3)
- 企業ICT導入事例(178)
- ICTソリューション紹介(86)