ICTコラム

第1回 小中高生のインターネットトラブル事例について考える

記事ID:D40009

近年、各家庭のインターネット利用環境が整い、また、携帯電話やスマートフォン利用の低年齢化も進む中で、小中高生のインターネットトラブルが増えています。今号より3回にわたり、「子どものインターネットリスク」をテーマにレポートします。第1回は、小中高生のインターネットトラブル事例を交えた現状について考えます。

早まる子どものスマホデビュー

 スマホが国内で販売されるようになってから、10年以上が経ちました。現在では、ほとんどの大人がスマホを持ち、幼い頃からインターネットとともに育った子どもたちは、スマホやインターネットの魅力を十分知っています。だからこそ子どもたちは、早く自分専用のスマホを手に入れて、LINEやゲーム、YouTubeを存分に楽しみたいと思うのは当然のことです。
 一方、親からすれば、子どもにスマホを持たせるとトラブルに巻き込まれてしまうのでは、とあまり乗り気ではないかもしれません。
 子どものスマホデビューは早まっています。MMD研究所が発表した調査(図1)によると、スマホデビューの時期は中学3年生が16.3%、小学6年生が12.1%と、進学をきっかけに持つことが多いことが分かります。そして学制別では、小学生でのデビューが40.1%と、もっとも多くなっています。
 小学生でも習い事の送迎など、見守りの面で子どもにスマホを持たせたい親もいるでしょう。しかし、スマホを長時間利用してしまうのではないか、知らない人と会ってしまうのではないか、課金トラブルに遭ってしまわないかなどの不安があります。そこで今回は、実際にどんなトラブルが起きているか、最新情報をご紹介します。

  • 小学生でのスマホデビューが増加している(出典:MMD研究所 2019年12月24日~27日)

ネットで知り合った大人に誘拐される

 SNS※1やゲームを通じて悪い大人と出会い、誘拐や性犯罪に遭ってしまう事件が起きています。大阪市在住の小学6年生女児は、オンラインゲームを通じて知り合った栃木県の35歳の男に誘拐されました。女児は1週間近く犯人の家に幽閉されたのち、自分の力で交番に逃げて保護されました。
 この事件では、女児が自分から会いに出かけたこと、そしてボイスチャット※2が使われたことが注目を集めました。オンラインゲームでは、ボイスチャットで話し合いながら協力してプレイします。毎日のようにゲームを通じて話していれば、子どもにとってその大人は「知らない人」ではなく、「友達」です。いつしかTwitter※3のアカウントも交換し、メッセージで連絡を取り合っていたようです(図2)。しかもゲームのボイスチャットは証拠が残らず、音声を使った会話は心を許しやすくなります。「連絡をするならSNSだろう」とSNSだけをチェックしていては、トラブルに気づくことができないのです。

  • ゲーム内でのテキストチャットやメール、ボイスチャットでの交流が盛ん(出典:MMD研究所 2020年9月25日~10月7日)

200万円もの課金トラブル

 スマホはネットで決済(課金)も行えます。子どもの場合、オンラインゲームに高額な課金をしてしまうトラブルが後を絶ちません。2020年12月には、愛知県の子どもが親のクレジットカードを利用して200万円もの課金をしていたことが発覚、消費生活相談窓口に相談が寄せられています。
 なぜ子どもが大金を課金できてしまうのでしょうか。勝手にクレジットカードを持ち出してスマホに登録してしまうケースもありますが、親が以前使っていたスマホにクレジットカード情報が残っている、またはキャリア決済(スマホの通信料金と一緒に支払う)を登録していたなど、親のうっかりミスが原因の場合もあります。
 子どもの年齢が幼いほど、金銭に対する感覚は養われていません。10万円と言われても、それがどれほどの金額なのかがピンと来ていないこともあります。さらに、ゲーム内の通貨は「コイン」など独自の呼び方をすることで、金銭であることを分かりづらくします。消費者生活センターへの相談事例を見ると、高校生の課金トラブルも多く見受けられます。
 しかし、子どもが課金してしまっても、取り戻すことは難しいと言われています。未成年が親の同意なく行った契約は無効にすることができるケースもありますが、子どもが年齢を偽って決済した場合は契約を取り消せない可能性もあるからです。

いじめや誹謗中傷は加害者にも

 SNSでのいじめや誹謗中傷も不安の一つです。SNSは13歳以上と定めているサービスが多いのですが、現実には小学生でも利用しています。親がしっかりと管理できていれば良いのですが、小学生に見える女子がダンスをする動画などもたくさん投稿されており、プライバシーの漏えいや誹謗中傷コメントを受けてもおかしくない状況です(図3)
 SNSでの誹謗中傷では、Instagram※4への誹謗中傷を苦にして亡くなった女子プロレスラーの事件があります。現在、書き込みを行った男たちが判明し、書類送検されています。ネット越しで見えない人たちから24時間中傷される恐怖は相当なものだったでしょう。

  • SNS上で誹謗中傷を受けた経験が「ある」と答えた18歳は12.0%(出典:日本財団『18歳意識調査』 2020年7月)

 子どもが中傷被害を受けることもありますが、悪ふざけから加害者になってしまう可能性もあります。教室で男子生徒をふざけてからかっていた様子を動画に撮り、友達限定でInstagramに投稿していた女子高生がいました。その動画を保存した誰かによって、動画はTwitterやYouTubeに拡散し、女子高生は名前や学校名が暴露されてしまいました。つまり、これから就職やアルバイトをする時、彼女の名前を検索するといじめをしていたことが表示されてしまうのです。
 スマホを持たせることを躊躇するような事例ばかりを挙げてしまいました。でも、スマホやネットは生活が楽しくなり、勉強に役立つ素晴らしいツールです。次回は、子どもにスマホやネットを使わせる際に親はどうすべきかをお話ししたいと思います。

※1 SNS:ソーシャル・ネットワーキング・サービスの略称。登録された利用者同士が交流できるウェブサイトの会員制サービスのこと。

※2 ボイスチャット:コンピューターネットワーク上で、二人以上の相手と音声によるメッセージをリアルタイムでやり取りするシステム(サービス)のこと。チャットと異なり、ボイスチャットでは文字入力が必要ない。

※3 Twitter:ユーザーが「つぶやき」と呼ばれる140字以内の短いコメントを書き込み、ほかのユーザーがそれを読んだり、返信をすることでコミュニケーションが生まれるインターネット上のサービス。

※4 Instagram:iPhoneまたはAndroid端末で画像や短時間動画を共有する、無料のスマートフォンアプリ及びそれを用いたサービスのこと。写真に特化したSNS。

鈴木 朋子氏

ITジャーナリスト・スマホ安全アドバイザー。日立ソリューションズにてシステムエンジニア業務に従事したのち、フリーランスに。SNSが専門で最新トレンドを常に追っている。身近なITに関する解説記事も執筆しており、初心者がつまずきやすいポイントをやさしく解説することに定評がある。スマホ安全アドバイザーとして、安全なIT活用をサポートする記事の執筆や講演も行う。近著は「親が知らない子どものスマホ」(日経BP)、「親子で学ぶスマホとネットを安心に使う本」(技術評論社)。著書は監修を含め、20冊を超える。

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