ICTコラム

メタバースのビジネス活用の可能性

記事ID:D40046

近年、バズワード※1としてあらゆる業界から注目を集める“メタバース”。まだまだ発展途上であるメタバースですが、ビジネス領域への活用も本格化し始めています。3回連載の初回は、基本的なメタバースの定義やビジネスにおける活用事例、課題について解説します。

定義が存在しないメタバース

 メタバース(Metaverse)という言葉は、1992年にアメリカのSF作家、ニール・スティーヴンスン氏の小説内に架空の仮想空間サービスとして登場した超越という意味の“Meta”と、宇宙を意味する“Universe”を掛け合わせた造語です。ここ数年で急速に一般化したメタバースですが、実は世界中で確立された定義は存在していません。そのため、一概に「これがメタバース」と結論づけることはできませんが、簡潔にまとめると以下のような要素が含まれます。

・三次元の仮想空間であること
・複数のユーザーが同時参加し、空間を共有できること
・高い没入感が体験できること

 つまり、「多くのユーザーが同時に参加でき、現実に近いリアルな体験が可能な三次元の仮想空間」と理解できます。より厳密な条件を求める定義もありますが、現時点でビジネスでの活用を考える上ではこのようなイメージを持っておけば十分でしょう。2021年には旧Facebookが“Meta”に社名変更を発表し、近年では世界各地で新しいメタバースサービスが誕生したことで、メタバースは一般の人々からも注目を集めています。

想定されるメタバースのビジネス活用

 ここからは具体的なメタバースのビジネス活用を考えていきます。想定されるメタバースの活用例をまとめたのが、表1です。

 さまざまな活用事例が考えられますが、表中で分かりやすいものをピックアップして解説していきます。まずは仮想空間上で商品をアピールする「プロモーションイベントの開催」です。通常のカタログやホームページでは写真や動画といった二次元の情報しか消費者に提供できませんが、メタバース空間に実際の商品を再現した3Dモデルを配置することで、リアルでよりインパクトのあるアピールを実現できます。また、「触る※2」「動かす」といったことができるメタバースならではのコンテンツを消費者に体験してもらうことで、従来よりも刺激的な商品体験を提供できます。
 「観光地/街並み再現」については、すでに広く活用が進められている領域の一つです。遠隔地にいながら、リアルに再現された都市や観光資源を仮想空間上で歩き回ることで、観光地への集客や都市の魅力発信に貢献できると考えられます。また、歴史的な建物や街並みをメタバースに再現することは、文化財保存の観点からも有効であり、国や自治体からも注目を集めています。
 また、「トレーニング・研修」領域もメタバースと親和性が高い活用方法として知られています。一般的なトレーニングや研修の場合、実際の場所や設備を用意した研修は人・時間・費用面のコストが高くなりがちです。対して、メタバース空間上でのトレーニングが実現できれば、現実に近く、より臨場感の高い教材コンテンツを場所や時間を問わずに提供することが可能です。加えて、実際には再現が難しいような危険な体験や災害体験にも効果を発揮すると考えられます。
 表1の通り、ほかにも数多くの活用事例が想定されますので、メタバースの強みや特徴を踏まえて、現状のビジネスとどう融合させるのか、検討することが重要です。

技術、制度面に見られるメタバースの課題

 大きな期待がかかるメタバースですが、表2で示した通り、多くの課題があります。

 まず一つ目の技術面の課題として、最も大きいものが「デバイスの成熟度と普及」です。ここで言う「デバイス」とは、頭に装着するゴーグルのようなディスプレイであるヘッドマウントディスプレイ(HMD)などの機器を指します。ここ数年でHMDは急速に進化し、低価格で高性能な製品を入手できるようになったものの、リアリティの再現度もまだまだですし、一般消費者における普及率もスマートフォンには遠く及ばない状態です。誰もが気軽に高品質なメタバースを体験するためにはデバイスのさらなる進化が必要です。
 また、大人数が参加できる3D空間の作成には数千万円のコストがかかる場合があることや、同時に接続可能な人数が少ない(多くのメタバースサービスでは15~30名程度が上限)ことも技術的な課題として挙げられます。
 一部の利用者にとっては、二つ目の制度面の課題のほうが重要に感じる方もいるかもしれません。メタバースは新しい概念なので、一貫して言えるのはメタバースに対する法制度が追いついていないことです。特に個人情報の取り扱いは身近な問題であるため、メタバース上での匿名性の担保や行動履歴の取得有無・提供範囲などは、適切なルールを制定する必要があります。
 また、メタバース上での犯罪行為や嫌がらせといった行為に対しては、法制度の充実とともに、サービスを提供する側も不正ユーザーの監視や公的機関への情報提供といった対策を要請される可能性があります。すでに、詐欺行為やテロリズムの拠点としてメタバースが犯罪者の注目を集め始めていることが報告されており、いかにそれらを防止していくか官民で検討していく必要があります。

メタバースのこれから

 ここまで見てきた通り、メタバースは期待と課題が混ざり合った状況で、まだ今すぐ誰もがメタバースに参加するという世界ではないかもしれません。しかし、大企業の投資や国内での法整備の動きは現在も活発ですので、先に挙げた課題は近い将来解決される可能性が高いと考えられます。状況は流動的ですので、関連情報を継続してウォッチする姿勢が重要となります。
 まずは今のうちにメタバースのビジネス活用について議論し、小さな投資でメタバースの活用を始めてみることは、将来的にメタバースビジネスを創出する上で重要な知見を与えてくれます。そしてそれは、来たるべき「メタバース新時代」を生き抜くための第一歩となるでしょう。

※1 バズワード
新しい概念を表しているように見えて、実際には明確な定義や意味が定まっていない新語、フレーズ、流行語のこと。
※2
近年は、メタバース上のデジタルオブジェクトに触ったり、感触を得たりすることができる、コントローラーが登場している。
※3 アバター
英語でavatar、日本語で化身、権化を意味し、ユーザーの分身のように表示させるキャラクターのこと。
※4 PoC
Proof Of Conceptの略で、日本語で「概念実証」と訳される。新しい手法などの実現可能性を見出すために、試作開発に入る前の検証を指す。

横尾 知孝氏

NTTデータ 技術革新統括本部 技術開発本部イノベーションセンタ所属。2016年、NTTデータ入社。メタバースの最新動向や関連技術の調査を推進し、先進顧客とのPoC※4を通したビジネス活用性の検証を行っている。社内外でメタバースをテーマとした勉強会講師としても活動中。

PDF版はこちら

関連記事

入会のご案内

電話応対教育とICT活用推進による、
社内の人材育成や生産性の向上に貢献致します。

ご入会のお申込みはこちら