ICTコラム

物流業界におけるAI活用事例

記事ID:D40059

AIと聞くと、「大手じゃないと取り組めない」「自社にはIT人材がいないので扱えない」「AI導入にはお金がかかる」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。数年前までは、AIの導入といえば個別開発案件がほとんどで、1,000万円を超えるような規模の投資が必要でした。しかし、近年ではAIもパッケージ化され、クラウドで月数千円~数万円と安価で利用できるものも増えてきました。中小規模の物流会社でも活用できる事例は数多くあり、生産性向上にAIが役立っています。

AI活用で期待される効果

 昨今、ChatGPTをはじめとした生成AIへの注目が高まっていますが、物流業界においてもAIの導入が進んでおり、配送ルートの最適化、在庫管理の精度向上、物量予測の改善など、さまざまな分野で活用されています 。
 AIは大量のデータを解析し最適な判断を下すため、人間の作業を補助または代替することができます。例えば、交通状況や納品先などのデータをAIがリアルタイムで解析し、最短かつ最も効率的なルートを導き出すことが可能です。
 このように、人が行うと時間がかかったり、正確な判断ができなかったりすることに対し、AIを活用することで、判断や作業のスピードと精度が向上し、業務の効率化を図ることができます。そこで、今回のコラムでは実際にすでに活用されている物流AIの事例をご紹介します。

物量の予測に合わせたシフト管理で労働時間を削減

 過去の実績データから、日々の物量を予測するAIの活用が進んでいます。例えば、過去2年分の日別の販売データや天候、気温情報などを分析し、将来的な需要を平均誤差±10%以内で予測するようなものがあります(図参照)。この技術を活用すると、企業は需要波動(需要の増減)に迅速に対応でき、無駄な在庫を持つことなく効率的な生産・在庫管理が可能となります。
 また、出荷量が多いと予測される日は、あらかじめ協力会社に声をかけることで車両の手配をスムーズに行うことができます。反対に物量が少ない日は、ドライバーのシフトを調整することで、積載率を向上させ、無駄な出勤をなくすことができます。実際に物量予測AIを導入した運送会社では、ドライバーの労働時間を月間15時間ほど削減した例もあります。

図:予測の平均誤差が±10% 以内を誇るAIによる物量予測結果

積載量を可視化し、積載率を向上

 車両の積載量を判定するAIも実用化が進んでいます。トラックに積み込まれた荷物をスマホやタブレットで撮影すれば、AIがトラックの荷台容積に対し、現在何%積み込まれているのかを即座に判定します。積載率を正確に把握することで、スペースに余裕のあるトラックにほかの荷物を積み合わせたり、車両を入れ替えたりして、積載率を向上させることができます。
 一般的な物流会社では、配車担当者の経験から、どの荷物をどのトラックに積むのかを決めていますが、それが本当に効率的な組み合わせなのかは検証できていません。しかし、AIによってデータを可視化することで、最適な配車が可能になります。

リスク運転を検出し、事故を未然に防ぐ

ドライバーの目線からリスク運転を検知するAIドライブレコーダー

 昨今、ドライブレコーダーの普及率が高まってきていますが、最新のものにはAI機能がついたものもあります。AIドライブレコーダーは、外向きと内向き(ドライバー向き)の二つのカメラによって、運転中の映像をリアルタイムで解析し、危険運転やヒヤリハット運転がなかったかを検出します。
 例えば、内向きのカメラでドライバーの目線の向きを検知し、運転方向から2秒以上違うところを見ていた場合、AIが脇見運転と判断し、ドライバーに警告を発したり、管理者へ通知が飛ぶようになっています。そのため、運転中にスマホの画面を見ていた瞬間などを捉えることができ、事故を起こす前にドライバーへ警告・指導することができます。
 従来のドライブレコーダーは、すべての運転映像を遡ってチェックする必要がありましたし、チェックしたとしてもリスク運転をつい見逃してしまうことが ありました。しかし、AIなら運転状況をすべて把握することができ、検出した映像を元に教育・指導を徹底することができるた め、AIドラ イ ブ レコーダー導入前と比較して事故件数を半減以下にしている会社も珍しくありません。

手書き文字の自動データ化で打ち込み作業が激減

 物流業界ではアナログなやり取りが多く、出荷指示がいまだにFAXで送られてくることも少なくありません。そのため、事務員が毎日何時間も手打ちで転記作業をしていることがよくあります。
 そのような課題を解決するのがOCRです。OCRとはOptical Character Recognition(またはReader)の略で、日本語では光学文字認識と言われ、スキャンした書類などの画像データに含まれる文字を読み取り、テキストデータに変換する技術のことを意味します。OCR自体は何十年も前からある機能ですが、読み取り精度が低く、今まではあまり有効活用されてきませんでした。
 しかし近年、このOCRにもAI機能がついたもの(AI-OCR)が誕生しています。これにより手書きの文字や2行にわたる文章でも、正確に読み取りデータ化することが可能になりました。AIの読み取り精度も使えば使うほど高まり、手書き文字でも96%以上の精度で認識できます。ある物流会社では、受発注の紙帳票をAI-OCRで読み込むようにしてから打ち込み作業が激減し、事務員の労働時間を月間100時間以上も短縮しています。
 これまで、物流現場におけるAI事例をご紹介してきましたが、せっかく導入しても使いこなす人がいなければ宝の持ち腐れになってしまいます。AIは傾向やデータを自動で可視化し、方向性を示してくれますが、それを実行するのは最終的には人です。AIツールの選定とともに、社内体制の整備や人材の育成も合わせて実行すると成果につながるでしょう。

河内谷(かわちや)庸高(のぶだか)

船井総研ロジ株式会社 執行役員 コンサルティング本部 本部長。2006年、船井総研グループに入社以来、運輸・物流業を中心に、マーケティング戦略の立案や、DX・デジタル化といったテーマをメインにコンサルティングを行っている。物流企業経営研究会「ロジスティクスプロバイダー経営研究会(会員数約350社)」を主宰。共著に『90日で業績アップを実現する「ローコードDX」』(クロスメディア・パブリッシング、2023年)。

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