ICTコラム
第2回 GIGAスクール構想が推進する21世紀にふさわしい「学び改革」による
新しい授業の姿とは
記事ID:D40016
「GIGAスクール構想」を国が推進する目的は、Society5.0+第4次産業革命が急速に進行する21世紀の時代にふさわしい「学び改革」のためだと前回お話しいたしました。では、「GIGAスクール構想」による「学び改革」とは具体的にはどのような内容の変革になるのか解説していきましょう。
「学び改革」に向けた「危機感の共有」とは
昨年から続く新型コロナウイルス感染症の拡大では、新聞やメディアで医療現場の逼迫が伝えられていますが、教育現場も今、逼迫した状況にあると言われています。
2 0世紀には、日本の教育は非常に良いシステムとして機能してきました。先進的な科学技術を駆使して高性能・高品質の製品を大量生産し、目標だった高度経済成長を遂げ、GDP(国内総生産)世界第2位の経済大国を実現したことがその証です。資源の少ない日本の成長を支えたのは紛れもなく「教育の力」でした。しかし、時代が「工業化社会」から「情報化社会」へ変化すると、世界では大きな変革が起きました。経済の中心が「モノ」を作る製造産業から、米国のGAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)を代表とするIT産業へとシフトしたのです。GDPで日本は中国に抜かれ、10年ほどであっという間に3倍近い差をつけられてしまいました。もはや、「記憶力と理解力」でモノ作りを支えた20世紀の学びでは対応できない「創造力と協働力」が求められる時代となったのです。
実際日本の教育レベルは、OECD(経済協力開発機構)の行う学習到達度調査(PISA)では、コンピューターを使用したテストへの不慣れによってランクが下がり、国の研究開発力を示す指標の一つである自然科学分野の論文数で、日本はドイツに抜かれて4位に下がっています。教員のICT活用率が、調査国中下から2番目という調査結果もあります。もはや日本は、科学技術も経済も、そして教育も世界の最先端国とは言えないのかもしれません。
「GIGAスクール構想」から始まる「新学習指導要領」の実現
そこで、情報化社会に対応するため、2011年、文部科学省は「教育の情報化ビジョン」を公表、教育の情報化への取り組みを始めました。
そして、新しい「学習指導要領」は、「教育の情報化ビジョン」の内容を踏まえて検討、作成されています。この「学習指導要領」は2020年に小学校で、21年に中学校でそれぞれ実施され、22年には高校でもスタートする予定です。
その新しい学習指導要領では、学校教育を通じて「学んだことを人生や社会に活かそうとする学びに向かう力、人間性など」、「実際の社会や生活で生きて働く知識及び技能」、「未知の状況にも対応できる思考力、判断力、表現力など」の3本の柱を偏りなく育んでいくことを目指していて、このような能力を育むための新しい学習方法として示されているのが、「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」です(図参照)。このような学びは、ICTを活用した学習方法が得意とする分野でもあります。
「GIGAスクール構想」の 1人1台が実現する「学び改革」
新しい学習指導要領が目指している「学び改革」が進むと、教育現場はどのように変わるのでしょうか。従来の黒板の前の教壇に立つ先生に向かって机を整列させて受ける「一斉学習」に対して、新しい学びでは、机をグループ毎に島状に集めて「一斉学習」「個別学習」「協働学習」が流動的に展開する「アクティブ・ラーニング」が中心となります。机の上には「GIGAスクール構想」で配備された1人1台の情報端末が置かれ、必要に応じていつでもインターネットを通じてさまざまな情報を検索・収集することはもちろん、学習支援ツールを活用して、先生ともグループメンバーとも、ほかの児童生徒とも情報共有することが可能となります。
典型的な授業としては次のような進行が想定されます。学習のめあて(課題の提示)→調べ学習(情報収集)→個別学習・思考(情報処理)→グループ学習(情報発信+協働学習)→グループまとめ(コンセンサスの醸成・思考の深化)→発表・プレゼンテーション(情報発信)→感想・意見交換(評価)→再検討。これは、一般社会で利用されているPlan(計画)、Do(実行)、Check(評価)、Action(改善)の「PDCAサイクル」と同様の流れであり、課題解決型の学習と言えます。
「GIGAスクール構想」でひとまず1人1台情報端末は実現しましたが、これで「学び改革」は果たして本当に実現するのでしょうか。学びにおける情報活用能力(ICT活用能力)のあり方、今後の展望と課題については次回お話しさせていただきます。
山口 時雄氏
株式会社ワニテル代表。メディアコンサルタント。ICT教育ニュース編集長。AIロボットニュース編集長。日本大学法学部新聞学科在学中からTV-CM業界で活動、記録映画監督、企業ビデオ監督、イベントプロデューサーなどを経てテレビ朝日グループ株式会社フレックスに入社。ニュースステーションディレクターを経て総務・人材育成・報道担当取締役に就任。2003年株式会社ワニテルを設立。メディアコンサルタントとして、企業トップ・広報担当、大学教授、医師、スポーツ選手などのメディアトレーニングを実施。プログラミング教育の普及やライター育成にも尽力している。
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