ICTコラム
職場に進出し始めた「Z世代」 スマホ&SNS第一世代の彼ら彼女らとの上手なつき合い方とは?
記事ID:D40024
スマホ&SNS※1第一世代の「Z世代」の若者たちがいよいよ社会に進出し始め、職場で席を並べ、一緒に仕事をする機会も増えてきます。これまでの「ゆとり世代」とは明らかに異なる思考や考え方を持つ、新社会人たちにどのように接すれば良いのか。連載最終回は、「Z世代」に共通する社会背景や仕事に対する価値観、キーワードを紹介しながら、この世代への対応策のヒントを考えていきます。
好景気によって売り手市場な「Z世代」
これまで「Z世代」とはどういう人たちなのか、またどのようなS N Sを使いこなしているのかをお話ししてきましたが、今回はこの世代の典型的な特徴と、職場での接し方についてです。「ゆとり世代」と比較しながら、この世代はどういう人たちなのかを見ていければと思います。
生まれてから成人になるまで“失われた20年”という暗い時代を過ごしてきた「ゆとり世代」と決定的に違うのは、アベノミクス※2による好景気と少子化が続いたことによる超人手不足の中で育ってきたことです。「ゆとり世代」はアルバイトがなかなか受からなかったという思い出を持っている人がたくさんいますが、それが「Z世代」にはほとんどいません。アルバイトも受かり放題、子どもの人数が少ないので高校も大学も受かり放題。それが「Z世代」です。
就職に関して言えば、コロナ禍になる前までは、就職内定率が過去最高でした。これは「バブル世代」を超える数字です。そしてコロナ禍になって大変になるかと思ったら、下がりはしましたが今のところは新卒に関してはそこまで悪くない状況です。コロナ禍になる直前の就職情報会社の調査によると、私立大学文系女子の6割が、第二希望まで受ければ内定を取れていたという状況でした。「氷河期世代」が100社、200社受けたと言われていたのに対して、この世代の人たちはたった2社です。現在、会社に在籍するメイン層である「氷河期世代」や「ゆとり世代」とは全く違う社会背景を背負っています。
まったりとしながら自意識過剰な “チル&me”
そんな「Z世代」の特徴の一つが“チル”です。
これはアメリカのラッパー※3のスラング※4で「チルアウト」からきていますが、日本語で言うと“まったりしている”という意味です。要は、そんなにガツガツ努力しなくても高校・大学にも入れるし、就職もできてしまうため、全体的にのんびりしているということです。よく大人は「ゆとり世代」にのんびりしているというイメージを持ちますが、「Z世代」のほうが本質的な“ゆとり”を持った世代のような気がします。
そしてもう一つの大きな特徴が、第2回でもお話ししたスマホ&SNSの第一世代ということ。「ゆとり世代」の初めての携帯電話はガラケーでしたが、メールアドレスを知っている人たちとSNSを楽しんだり、紹介制のmixi※5をしたりと、知っている友達とおしゃべりをする手段として使われていました。結果、世界を広げず、むしろ縮こまらせ、同調思考や内向き思考を強めたと言われています。
対して「Z世代」の初めての携帯電話がスマホになったことで、分からないことがあったらすぐに調べる、動画も見られる、SNSも複数使うという変化が見られるようになりました。
SNSは知らない人ともフォローしてつながっていくので、世界中の人に自分を見てもらえ、知ってもらえる環境になっていきました。そのことにより、“me意識”と呼んでいますが、いわゆる自意識が高い人物が多くなったのがこの世代。“チル&me”という、非常にまったりとのんびりしていながら自意識過剰な人間が多いのが「Z世代」です(図参照)。
給料より居心地の良い場所を 作ることが大事
これから社会で「Z世代」を受け入れていく上でキーワードとなるのがこの“チル&me”です。まず“チル”という特徴があるので、この世代は居心地の良さを大事にします。上の世代は、本当に好きな仕事を与えればやりがいを持って働いてくれると思いがちですが、それは通用しません。どんなに楽しくて好きな仕事でもプライベートを超える仕事は存在しない、ということを理解して接する必要があります。何が言いたいかというと、労働時間の中でしっかり働かせることが大事ということです。そのために、時間内で身の丈以上の成果を出せる育て方をしていくことが課題になります。
そしてこの世代は自分の居場所がすべてなので、プライベートが最優先です。そのためなら、多少給料が下がろうと自分の居心地の良い会社を選ぶ傾向があります。給料の高さよりも上司にすごく柔らかい人たちが多いとか、自分たちにとっての有益な福利厚生があるとか……。そういうものを用意することで、この世代にとっての居心地の良い場所を作ることができます。
また、自己承認欲求が非常に強い自意識過剰な人たちなので、モチベーションが保てる場所も大事になります。「残業しています」とSNSに上げる際におしゃれに写真が撮れるスペースがあるとか、ヘルシーで最先端の料理が食べられる食堂があるとか、そういう些細なことがこの世代の働く意欲に大きく関わってくることを頭に入れておくと、この世代を理解しやすいと思います。
もちろん褒めてあげることも大事です。昔は、“新人は4割褒めて、6割叱る”なんて言われていた時代もありますが、「Z世代」の人たちは“9割褒めて、1割改善提案をする”ですね。叱るなんて存在しない。基本的に「いいよ」と褒めて、「でもこうしたほうがもっと良かったのにね」と話してあげることが大事です。いわゆる部署内表彰などは意外と良いのかもしれません。そうなると上司としての理想像が“褒め上手”です。些細なことでも褒めてあげて、気持ち良くさせて会社を居心地の良い場所と認識させる、これが大事です。
どんな一流の会社でも、何か自分にとって面倒くさいことがあればすぐに違う道を探そうという考えを持っている人が多い世代です。とはいえ、働くことが嫌いとかそういうことではないので、その世代の特徴を知って、その世代に合った接し方をしていけばいいと思います。ぜひ「Z世代」にとって長く居たくなる環境を作り、この世代の力を上手く引き出す職場を作っていってください。
※1 SNS : Social Networking Service(ソーシャルネットワーキングサービス)の略で、登録された利用者同士が交流できるウェブサイトの会員制サービスのこと。
※2 アベノミクス: 2 0 1 2年1 2月に誕生した安倍 晋三内閣の経済政策。エコノミクスと安倍首相の苗字をかけ合わせた造語。
※3 ラッパー: リズムに合わせて早口で喋るように歌う音楽をラップと呼び、ラップの演奏者のこと。
※4 スラング: 俗語。改まった場面で用いられない品のない言葉。
※5 mixi : SNSの一つで、共通の趣味や仕事を持つ同士が意見交換したり、知人を紹介し合えるウェブサイト。加入するのにはユーザーの紹介が必要。
「mixi」は、株式会社ミクシィの商標または登録商標です。
原田 曜平氏
マーケティングアナリスト。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーに。若者向けのマーケティングや商品開発に携わり、2003年JAAA広告賞新人賞受賞。博報堂退社後は信州大学特任教授、若者研究・メディア研究を中心に、次世代に関わるさまざまな研究を実施。テレビをはじめメディアのコメンテーターとしても活躍中。著書多数。近著に『アフターコロナのニュービジネス大全新しい生活様式×世界15ヵ国の先進事例』(小祝 誉士夫共著ディスカバー・トゥエンティワン刊)など。
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