ICTコラム

日常的に使える デジタル防災対策ツール

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災害の危険が迫っていることをリアルに実感することのできる、さまざまなツールが開発されています。リアルタイムの気象状況を地図上に表示したり、ハザードマップ情報を重ね合わせることで危険個所がピンポイントで分かるようになってきました。デジタル×防災の中心的な役割を担っているのはスマートフォンで、現在は日常的に使うツールをいかに非常時に使うことができるかが課題となっています。そこで今回は、この防災対策ツールについて解説します。

防災アプリの浸透

 「NTTドコモ モバイル社会研究所」の調査によると、いわゆる「防災アプリ」をスマートフォンにインストールしている人の割合は年々増加しているそうです。2021年におよそ9,000人を対象として実施された調査では、回答者の中でスマートフォンを保有している人(約8,500人)のおよそ半数が一つ以上の防災アプリをインストールしていました。年代別の傾向を見てみると、年齢が上がるにつれて防災アプリをインストールしている人の割合が高くなる結果が出たようです(図1参照)。
 皆さんは、「防災アプリ」と聞いてピンとくるものはありますか? もう既に日常的に使っているよ、という方もいらっしゃるかもしれません。同調査によると、最も利用されている防災アプリは、「Yahoo ! 防災速報」と「NHKニュース・防災アプリ」の二つでした。

防災アプリが災害の危険度を知らせる接点に

 前回のコラムで、気象庁からの気象に関する特別警報の対象エリアと、私たちの携帯電話の基地局のエリアが一致した時に携帯電話に直接届くエリアメール・緊急速報メールの仕組みをご紹介しました。この仕組みは特に自分で登録しなくても、警報が自動で届くところが良い点であった一方で、警報の対象エリアが広く、必ずしも自分の居場所に近いところで災害の危険性が高まっているかどうか分からない、というのがデメリットでした。
 気象や噴火などに関する特別警報の「緊急速報メール」の配信は、2022年12月26日をもって終了となりました。気象に関する特別警報は、大雨や洪水警報の危険度を可視化する気象庁のサービス「キキクル」と連携している事業者の防災アプリによって、プッシュ通知で受信可能です。プッシュ通知を受信するためには、連携している事業者の防災アプリをダウンロードして、ご自身の居住地域を登録する必要があります。
 2023年1月現在、キキクルと連携しているのは「PREP=総合防災アプリ」「特務機関NERV防災アプリ」「お天気JAPANアプリ」「Yahoo! JAPANアプリ」「お天気ナビゲータWEB(アプリではなくメールによる通知)」とのことです。
 なお、緊急地震速報と大津波警報・津波警報については、従来通り「エリアメール」と「緊急速報メール」による配信が継続されます。

リアルタイム災害状況の可視化

 「キキクル」は、気象庁が提供している浸水と土砂災害の危険度を示した地図ツールです。ウェブサイト上でリアルタイムの危険度の分布図を確認することができます(図2参照)。図で示されているのは、土砂災害の危険度です。黒いエリアは既に災害が起こっていてもおかしくない地域(警戒レベル5)、紫のエリアは災害の危険度がかなり高まっている地域(警戒レベル4)です。災害の危険度が色分けされ可視化されることで、ご自身のお住まいや現在いらっしゃる場所がどの程度危険にさらされているのか一目で分かります。

 各自治体が出しているハザードマップの情報(土砂災害警戒区域)も地図上に重ねることができます。ハザードマップについては、2015年の関東・東北豪雨に関して国土交通省が実施した調査があります。同調査によると、ハザードマップの日ごろの活用状況について、回答者500人弱のおよそ6割が「ハザードマップを見たことがない」、2割が「どこにしまってあるか分からない」と回答し、1割の人しか「事前に浸水が想定されるエリアを把握している」と答えませんでした。
 皆さんはいかがでしょうか? ご自分の住んでいらっしゃる地域のハザードマップをご覧になったことはありますか?
 ハザードマップの認知度を上げるために、国はさまざまな事業を展開しています。例えば「マイ・タイムライン」という取り組みがあります。マイ・タイムラインは、災害への備えとして、ハザードマップを見ながら自宅から避難所までの距離、避難にかかる時間などを記入していくシートです。町内会などが主体となって、日本のさまざまな地域でマイ・タイムラインを使った災害への備えに対する啓蒙活動が行われています。

普段の生活の延長線上にある防災対策×デジタル活用

 マイ・タイムラインのデジタル化も進められています。マイ・タイムラインをスマートフォンに登録すると、登録されたタイムラインの内容に基づいた避難などのプッシュ通知が送られてきます。ヤフーでは、オンライン上でマイ・タイムラインの作成ができる「防災タイムライン」をリリースしました。
 これまで、全国の自治体で、住民の防災意識を高めるためのさまざまな取り組みが行われてきました。防災機能に特化した、いわゆる“防災のためだけの”アプリを各自治体で開発しても、ダウンロード数がなかなか伸びないという悩みを抱えていました。日本は災害大国ではありますが、日ごろ使い慣れていないツールはいざという時に使えないことも、この10年ほどで分かってきました。
 冒頭ご紹介した「Yahoo!防災速報」と「NHKニュース・防災アプリ」はいずれも日ごろ使っている頻度の高いニュースや天気情報を提供することで、平常時と災害時の機能のスムーズな連携が容易になっています。これから私たちの生活により一層浸透していくものと思います。

 日常時と非常時を切り離さず一体のものとして捉えることは、フェーズフリーと言われています。フェーズフリーについては次回ご紹介します。

※ 防災テック
防災とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語。

櫻井 美穂子氏

ノルウェーにあるアグデル大学の情報システム学科准教授を経て、2018年より国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授。専門は経営情報システム。自治体や地域コミュニティにおけるデジタル活用について、レジリエンスやサスティナビリティをキーワードに研究している。近著に『ソシオテクニカル経営:人に優しいDXを目指して』(日本経済新聞出版、2022年)、『世界のSDGs都市戦略:デジタル活用による価値創造』(学芸出版社、2021年)。

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