ICTコラム

世界規模の課題にデジタル技術で立ち向かう

記事ID:D40040

自然災害の発生件数の増加は、世界的な傾向です。災害大国の日本でも従来は地震に対する備えに力を注いできましたが、近年は台風や洪水、ゲリラ豪雨などによる水害の影響が大きくなっています。数十年に一度の規模の災害に対して発表される気象庁の特別警報が毎年のように発令されています。デジタル技術の進展は、私たち一人ひとりの災害への備えをどのように変えようとしているのでしょうか。

21世紀は災害の世紀

 「ダボス会議」という会議の名前を耳にされたことはありますか? 毎年1月に、スイス東部の山間にあるダボスという町で開かれている国際会合です。世界の主要国から政治家や企業の経営トップなどが参加して、さまざまな世界的課題を議論しています。ダボス会議は、同じくスイスに本拠地を置く非営利財団の世界経済フォーラムが主催しています。
 世界経済フォーラムでは、毎年「グローバルリスク報告書」を公表しています。2022年に発表された報告書では、今後10年間で最も深刻な世界規模のリスク上位五つに、①気候変動への適応への失敗、②異常気象、③生物多様性の喪失、④社会的結束の侵食、⑤生活破綻を挙げています。
 2021年の報告書では世界規模のリスクのトップは感染症でしたが、コロナ以前からのトレンドとしては①②に代表される気候関連の項目が上位を占めています。
 私たちの日常でも、夏は40度超えも珍しいことではなくなり(筆者の子どものころは35度を超えたら大変!というような感覚だったと記憶していますが)、梅雨末期には大雨が降る、というのも一般的な認識になってきているように思います。グローバルリスクで挙げられた気候変動や異常気象と自然災害の発生には密接な関係があります。
 このコラムでは、自然災害に対応するために私たち一人ひとりがどのようにデジタル技術を使っていけばよいのかを考えていきます。図1は、1950年から2019年までに世界で記録された自然災害の件数の推移です。“21世紀は災害の世紀”と言われている理由がお分かりいただけるかと思います。

デジタル技術が災害の事前準備と事後対応を変える

2019 年の台風19号時に発出された気象庁からのエリアメール/緊急速報メール

 毎年、世界では300~400件近い自然災害が発生していて、日本に住む私たちの日常生活にも大きな影響をもたらしています。図1を見ると2000年前後を境として急激に発生件数が増えています。ただ、20年前の私たちと2023年の私たちには違いもあります。デジタル技術です。日本では、iPhoneが発売された2008年以降、私たち一人ひとりがインターネットに接続し、いわゆる“アプリ”を使って生活に関するいろいろな活動をする環境が急速に普及しました。LINEやeメール、SNS、読書・宅配アプリや決済など、スマートフォンがなければ生活できないという人が増えてきています。
 デジタル技術は自然災害に対する私たちの備えや事後対応の在り方をガラリと変えようとしています。災害対応は、①減災、②事前準備、③事後対応、④復旧・復興の四つのフェーズで語られることが多いです。それぞれのフェーズでデジタル技術が活用されていますが、私たちの生活に特に関わりが深いのは②事前準備と③事後対応です。
 例えば、事前準備×デジタル技術の事例で日本が世界に誇れるものはエリアメールや緊急速報メールです(提供する企業によって呼び方が異なります)。自然災害が迫っている時、気象庁が特別警報を出します。台風が近づいている時や地震が起こると予測された時などに、ご自身のスマートフォンあるいはガラケーにメッセージを受信されたことがある方もいらっしゃると思います。
 このように、災害が発生する前に災害のリスクを国民一人ひとりに伝える仕組みは世界にまだ例が少なく、日本人で良かったと思える瞬間です。ただ、執筆時点で、気象庁から気象に関する特別警報メールは2022年12月に終了するとのアナウンスがありました。12月以降は民間が提供する防災アプリとの連携強化による情報伝達に移行することが発表されました。この点については、次回以降のコラムで述べたいと思います。

理想の暮らしに近づくために

 私たち一人ひとりがデジタル技術を活用する環境が普及して、災害に対応するためのさまざまなデジタルサービスが提供される社会となる中で、利用者は災害×デジタルサービスにどの程度のニーズを持っているのでしょうか?
 筆者が2021年実施したデジタルガバメントのニーズ調査(オンライン調査)で、理想の暮らしを尋ねました。回答者は4,000人強です。そのおよそ半数が回答したのは、「静かで煩わされない暮らし」「お金の心配の少ない暮らし」「穏やかで充実した老後」「災害や犯罪から守られた安心できる毎日」の4項目でした(図2参照)。
 より深く分析していくと、「災害や犯罪から守られた安心できる毎日」と回答した人々は、デジタル関連サービスの利用意向を高く持っていることが分かりました。理想の暮らしに近づくために、デジタル技術が果たす役割は大きいと言えます。

出典: ㈱サイバーエージェント、国際大学GLOCOMの共同調査『デジタルガバメントに関する住民ニーズ調査』

※ 防災テック
防災とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語。

櫻井 美穂子氏

ノルウェーにあるアグデル大学の情報システム学科准教授を経て、2018年より国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授。専門は経営情報システム。自治体や地域コミュニティにおけるデジタル活用について、レジリエンスやサスティナビリティをキーワードに研究している。近著に『ソシオテクニカル経営:人に優しいDXを目指して』(日本経済新聞出版、2022年)、『世界のSDGs都市戦略:デジタル活用による価値創造』(学芸出版社、2021年)。

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