ICTコラム
第2回 AI導入で変わる、コールセンター運営とオペレーターの働く環境記事ID:D40006
前回はAIが音声対応する「COTOHA Voice DX Premium™」と、チャットで質問を受け付け、応答する「COTOHA® Virtual Assistant」について、お伝えしました。今回はお客さまとオペレーターとの応答内容をA Iがテキスト化、さらにテキストを要約し活用するソリューションについて、N T Tコミュニケーションズ株式会社へのインタビューを通じ、レポートします。
避けて通れない「通話のテキスト化」がオペレーターの大きな負担に
─コールセンターの運営における「電話応対以外の作業負荷」について教えてください。
加納:コールセンターでは「通話後の応対ログの書き起こし」、つまり音声を聞いてのテキストファイル作成が日常的に行われています。その目的は電話でのクレームを社内関係部署で共有するため、FAQなどの社内資料に反映させるため、SV(スーパーバイザー)が確認し、オペレーターの応対品質をチェックするためなど、さまざまです。また事業内容によってはお客さまに言ってはならない“NGワード”の有無の確認など、管理部門によるコンプライアンス違反チェックにも使われます。さらに金融業などでは監督官庁から応対ログの提出を求められることもあり、日々の応対のテキスト化は不可欠です。
─そうした作業はオペレーターが担っているのでしょうか。
加納:大規模なコールセンターでは、専任のSVが書き起こしを担当することもありますが、多くの場合、オペレーター自らが受電と受電の合間に作業を行います。
これらの作業がコールセンター運営に与える影響について教えてください。
加納:まず現場の負担増が挙げられます。こうした書き起こしに要する時間は、たとえ一言一句ではない要約だとしても、実際の通話の少なくとも2倍、多くの場合それ以上の時間がかかり、オペレーターはその作業中、受電ができません。人手不足が常態化しているコールセンターでは、これが大きな負担となります。次に、とくにクレーム電話の書き起こしにともなうオペレーターの疲弊です。クレーム電話への応対では、オペレーターがお客さまからきつい言葉を受け止めることになりますが、その応対ログをもう一度聞き直し、書き起こすことは、とてもつらい作業です。こうした作業の繰り返しは、オペレーターが心身を病む原因にもなります。(図1参照)

今枝:また応対ログの要約は、たとえば挨拶とか前置きなど不要な部分を省くことであとからの確認をスムーズにするために行いますが、やはり作業者によって得意不得意があり、要約にかかる時間の長短だけでなく、その品質にも差が出てしまいます。要約の内容が不明瞭だった場合、テキストを確認するSVが改めて応対ログを聞き直すなどの作業も発生してしまいます。
音声のテキスト化からその要約までAI+クラウドで実現
─こうした課題を、どのようなI C Tで解決できるのでしょう。
加納:応対ログの書き起こし作業をICTにより行うことができれば、オペレーターの時間を本来業務である電話応対に充てることができると考えています。そうした作業を担うソリューションが「COTOHA Voice Insight®」です。
今枝:書き起こされたテキストファイルは「COTOHA ®Summarize」で要約可能です。これはそもそも社内文書の要約などを目的に開発したソリューションですが、お客さまからコールセンターの応対ログの要約に使いたいというご要望を多数いただいたことで、2021年3月にコールセンターの応対ログの要約に適したモデルを追加提供しています。社内文書の要約とは異なり、二人の対話、つまり言葉のやりとりが行われるため、そうした用途に適したチューニングを行っています。
─「COTOHA Voice Insight®」の内容を簡単に教えてください。
加納:現在提供中の「バッチプラン」は、通話終了後にオペレーターが音声ファイルをVPN※1経由でクラウドに送ると、AIが音声を解析し、テキストファイルとして保存します。そのファイルをオペレーターがダウンロードして確認し、必要な社内処理に回すという仕組みです。音声をテキスト化するために必要な時間は通話実時間+αで、オペレーターはテキスト化が終了するまで別の電話への対応も可能になり、本来業務への集中と業務効率化が図れます(図2参照)。

─「COTOHA ®Summarize」はどういった仕組みを持っているのでしょう。
今枝:テキストファイルから重要な部分を抜き出す「抽出型要約」と、重要な部分を基に新たに文章作成する「生成型要約」の二つを提供しています。要約することで、同じお客さまから続けてのお問い合わせ時の履歴参照や、社内で応対内容を確認、共有する際、全文を読み下すよりも時間がかかりません。
─他にメリットはありますか。
加納:書き起こしという単純作業からオペレーターを解放することで、職場のES(雇用者満足度)を高めることができます。また教育など「人がやるべき仕事」にあてる時間も生まれ、結果としてコールセンターの質を高めることができます。
今枝:さきほどオペレーターの得手不得手により要約の質に差が生まれるとお話ししましたが、「COTOHA ®Summarize」ではA Iが統一的な基準で要約を行うため、品質のばらつきがない要約文の生成が可能となります(図3参照)。

クラウドを利用するため社内設備への大きな投資は不要
導入にあたっての注意点を教えてください。
加納:「COTOHA Voice Insight®」の料金体系はスマートフォンのパケット料金プランに似たもので、単位は時間です。最小利用時間は音声ファイル100時間分で、そこから300時間分、500時間分など、必要な時間数をお選びいただくことができます。必要な通話だけ、もしくは全通話と、テキスト化する範囲はお客さまによって異なりますが、まずは“お試し”的にスモールスタート、つまり短い時間のプランからご利用いただくケースが多くなっています。導入にあたっては、セキュリティを確保するため、NTTコミュニケーションズのVPNのご利用が必要です。さらにより認識精度を高めるため、お客さまの声とオペレーターの声をそれぞれ分けて録音できるステレオ2ch方式の通話録音方式を推奨しています。
今枝:「COTOHA® Summarize」のコールセンター向けプランは、すでにリリースしている自然言語処理・音声処理API※2プラットフォーム「COTOHA ®API」の機能として追加提供する予定です。クラウドで動くソリューションですので、お客さま側に特別な準備は必要なく、すぐにご利用いただけます。
今後も改良を重ね、質の高いコールセンター運営を支援
─今後の展望について教えてください。
加納:この春、新たなプランを二つリリースする予定です。一つ目はお客さまとオペレーターの会話をリアルタイムにテキスト化する「リアルタイムプラン」、もう一つは通話内容を分析しお客さまの満足度を判定したり、応対内容に必要な重要事項やFAQをモニターに表示するなど高度な機能を持つ「音声マイニングプラン」です。
今枝:「COTOHA® Summarize」のコールセンター向けプランは、ご利用者の声をうかがいつつ、機能を高めていきたいと思っています。私たちはコールセンターに寄せられる声は“宝の山”だと思っていますが、それがなかなか活用できていない状況です。AIをはじめとするICTによりそうした状況を解決し、質の高いコールセンター運営を支援したいというのが私たちの願いです。
導入事例 株式会社NTTネクシア
SVの作業負荷を大きく軽減し、オペレーターの教育、育成が効率的に

北海道事業部 高度電話カスタマセンタ DX推進PT
(左より)
龍田 静香氏
部長 目抜 勉氏
瀬川 千晶氏
当社は全国26カ所でコンタクトセンターを運営し、数多くのお客さま企業にサービスを提供しております。そのなかで私たち「高度電話カスタマセンタ」は、フリーダイヤル、ナビダイヤルの全国からの申し込み、お問い合わせ、オーダー処理、料金業務を一元的に引き受けております。
コンタクトセンターは、お客さまの期待に応える応対品質の提供が使命です。その目的を達成するため定期的に応対ログで言葉遣いや内容などを確認し、オペレーターにフィードバックを行っておりますが、そのためのログのテキスト化がSVにとって大きな負担となっておりました。その解決のため、「COTOHA Voice Insight®(バッチプラン)」を2019年秋より試験的に導入し、手応えを感じたことから、2020年より本格的な導入に踏み切りました。
オペレーターからは「直感的で使いやすい」と好評で、SVも長時間かけて行っていた文字起こしが不要になり、その分の時間をオペレーターの教育に充てることができるようになりました。またこれまでは研修で使う「良い応対例」を数多く用意することが難しかったのですが、導入後はテキスト化の負担がなくなったことで、そうした教材も適切に選べるようになり、SVから「より充実した指導ができるようになった」という声が上がっています。
ただその一方で、認識精度を上げるために行った一部用語の辞書登録が、別の単語への誤変換につながるなど、“使いこなす”上での試行錯誤もあります。そのあたりをもう少し工夫して、よりうまく使いこなすための努力を続けています。

※1 VPN:Virtual Private Networkの略。インターネットなどの公衆ネットワーク上に仮想的な専用ネットワークを構築し、その上で暗号化通信を行うことで、情報の盗聴や漏えいを防ぐ仕組み。
※2 API:Application Programming Interfaceの略で、ソフトウェアやアプリケーションなどを第三者が開発したソフトウェアと機能を共有できるようにすること。

今枝 尚史氏
プラットフォームサービス本部
アプリケーションサービス部
担当課長

加納 真波氏
プラットフォームサービス本部
アプリケーションサービス部
主査
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