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ICTコラム

第2回 ICTを活用した新しい農業への期待

現在、最先端のICTを駆使した「儲かる農業=生産性の高い農業」の実現がこれまで以上に注目されています。前回は日本農業が抱える現状の課題と、近年着実に拡がりつつあるICT活用の波について解説しました。今回は最先端ICTを活用した新しい農業の代表事例である「次世代施設園芸」を含め、未来につながるチャレンジを紹介します。

植物に最適な環境をICTで生み出し、
安定栽培と収量増加を実現

 NTTアグリテクノロジーでは、現在、世界の最先端テクノロジーを駆使した「次世代施設園芸」に着目し、さまざまなパートナーと取り組みを始めています。

 「次世代施設園芸」とは、大規模な温室にて、ICTなどを活用し複数の環境因子(温度、湿度、二酸化炭素量など)を組み合わせて制御することにより、周年・計画生産の実現や収量を向上させる農業の総称です。

次世代施設園芸のベースには、国を挙げて大規模な農業ビジネスを推進しているオランダ式農業があります。オランダ式農業は生産性が高く、ある面積から獲れる収量(単収)が日本の数倍といわれています。次世代施設園芸はオランダのほか、スペインなどヨーロッパを中心に普及し、今では各国で導入されていますが、これらの技術を日本にそのまま持ってきても、天候の違いや台風、高温多湿、病害虫の問題など各国とは環境が異なるため、期待した効果がそのまま得られるわけではありません。そこで弊社では、日本向けにチューニングを行った上で、次世代施設園芸に関わるトータルソリューションの提供を行っていきます。その上で、生産から出荷、流通、販売までのバリューチェーンや、労務管理、安全管理を含む農業経営管理全般のノウハウを蓄積し、NTTグループの得意とするICTを組み合わせて、農業生産者にコンサルティングするだけでなく、施設の建設、システム構築まで一気通貫のトータルソリューションを提供し、地域の農業生産者に貢献していきます。

2020年度には自社ファームが完成予定

 その第一歩が、山梨県内に約1ヘクタールの農地を確保して建設中の次世代施設園芸の運営です。これは2020年1月に起工式を行い、2020年度内の竣工、栽培開始に向けてスタートしました。ここでは、センシングやAI、ワイヤレスネットワークを組み合わせた環境制御を活用した生産だけでなく、儲かる農業の実現に向けた労務管理・経営管理、また従業者の健康・安全管理などの一連のプロセスの実証実験を行い、その成果をコンサルティングやソリューションとして提供していきます。

 ポイントは、ICTなどを駆使することで、従来の露地栽培と比較し、同じ面積比で数倍の収量を実現すること、またオートメーション化により従業者数は数分の一で運営することです。大規模農業でも、その面積に応じた従業者を集めるのは現在の社会や経済状況を考えると非現実的です。「大規模農業」と「省力化」を両立させ、労働集約型モデルから脱却し、就農人口減少への対処や儲かる農業を自ら実践していきます。
 
 弊社では、こうした農業の実践におけるノウハウや知見を補完するため、すでに豊富なノウハウを持って次世代施設園芸に取り組む株式会社サラダボウルやJA全農、また農業ICTの地域への実装に向け農研機構、各自治体などと協業しています。そこで、新しい農業の代表例である協業パートナーとのプロジェクトの一部をご紹介します。

①「株式会社サラダボウル」との取り組み

 先駆的な農業法人として注目を集めている株式会社サラダボウルのグループ会社「アグリビジョン」では、約3ヘクタール(東京ドームとほぼ同じ敷地面積)の広大な温室で、環境自動制御などの先端テクノロジーを活用し、高品質トマトの生産・販売を行っています。

 同社の場合、従来の生産・販売のプロセスでボトルネックとなっていたのが「収量予測の揺らぎ」でした。これまで人の目視と経験則に頼って予測していたため、担当者ごとに揺らぎがあったのです。この課題を解決すべく導入したのが「AIを活用した収量予測システム」です。

 このシステムは、収穫作業用台車にスマートフォンを固定して収穫対象のトマトを撮影し、温室内にあるWi-Fiを経由し、光回線でクラウド上に画像データを蓄積します。そしてAIで、トマトの色見や大きさ、個数などを分析し、翌日収穫のタイミングにあるトマトを選別し、収量を予測するのです。算定された予測収量を、翌日の収穫スタッフや箱詰めスタッフの適正配置、物流トラックの適正手配、取引先バイヤーに提供する情報などに活用します。これらの取り組みにより、当日の急な欠品、過剰品の発生による出荷調整や機会ロス、フードロスを大幅に削減しました。生産現場での収量予測はフードバリューチェーンの一丁目一番地です。AIを活用した収量予測の実現により、高品質な農産物をより多くの人へ、また鮮度を維持し消費者に届けることが可能になり、結果として儲かる農業を実現しています。

②「JA全農」との取り組み

 JA全農と協力し、「ゆめファーム全農NEXTこうち」(JA全農が地域のJA、自治体や生産者と協力して運営する次世代施設園芸)において、IoTを活用した農作業者の健康管理・労務管理を通じ、安心・安全・効率的な農業経営を実現するプロジェクトを発足しました。ここでは、まずベトナムの技能実習生受け入れのタイミングに合わせて、働く人の健康を守る取り組みを開始しています。これは、腕時計型ウェアラブルデバイスにより農作業者のバイタルデータ(心拍数など)を取得し、温室内にある環境制御用の温湿度センサーから取得するデータと組み合わせて身体の負荷状態を可視化、あらかじめ設定した条件を超えたら管理者にアラート通知するものです。これにより、外国人技能実習生など、言語が不得手でコミュニケーションに不安がある場合にも、管理者から能動的に休憩を促すことができ、大切な従業者の健康維持や労働安全を実現するとともに、優秀な人材確保につながる期待もできます。

 また、こうしたデータに位置情報を組み合わせ、農作業者ごとの作業内容や作業時間を適切に把握し、職場環境の改善(作業動線見直しなど)や、適正な人員配置といった労務管理を行います。地域に密着し、生産者支援を行うJA全農と協力することで、担い手確保を課題とする各地域への紹介やシステムの実装を目指しています。

③「農研機構」との取り組み

 農業の生産性向上や生産者の所得向上を目的に、データ駆動型農業の地域実装を協力して推進するため、「国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構」(農研機構)と連携協定を締結しています。第一弾として、農研機構及び地域の公設農業試験研究機関と協力し、両者が保有する紙ベースの栽培マニュアルをデジタル化してクラウド上に格納するプロジェクトを開始しました。このプロジェクトでは、デジタル化した栽培マニュアルと、生産者の圃場に設置したIoTセンシング機器が取得する環境データ(温度など)を自動的に連動させる仕組みを提供します。これにより、栽培経験が浅い生産者でも、最適な圃場環境の維持管理が可能になります。

 例えば、農業に新規参入した生産者や、付加価値が高い品種の栽培に新たにチャレンジする生産者の安定栽培の支援に有効です。さらに、地域や農産物の種類ごとに異なる最適な圃場環境管理に必要な温度などの基準が、生産者のタブレット端末やスマートフォンに自動で表示されるため、専門知識がなくてもICTを手軽に活用することができ、地域におけるデータ駆動型農業を身近にします。

④「東京都」との取り組み

 2020年4月には、東京都の関連組織である(公財)東京都農林水産振興財団と「ローカル5Gを活用した最先端農業の実装に向けた連携協定」を締結しました。これにより、次世代通信システムであるローカル5Gや超高解像度カメラやスマートグラス、自律走行型ロボットなどの先進テクノロジーを活用し、遠隔からの高品質かつ効率的な農業指導やデータを基にした最適な農作業支援の実現など、新しい農業技術の実装を目指していきます。

 遠隔からの農業支援は、限られた営農指導スキル者の効率的な活用、またなるべく人を介さない農業を実現することで、省力化はもとより、新型コロナウイルスのような感染症リスクの低減も期待できるでしょう。

 次回はこのコラムの最終回として、これからの日本農業の展望について解説します。

(次回へ続く)



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酒井 大雅氏

株式会社NTTアグリテクノロジー 代表取締役社長

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