電話応対でCS向上コラム

第132回 「孤独という病」

記事ID:C10141

内閣府が2023年に、全国の16歳以上の人を対象にした「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査」を実施しています。それによりますと、孤独感に悩んでいる人が4割を超えているという結果が出ていたのです。孤独とは主観的な状況ですから、周囲からは分かりません。しかし、この数字はかなりショッキングです。今回はこの孤独について考えます。

「孤独・孤立対策担当大臣」

 つい先頃まで、日本に孤独・孤立対策担当大臣が置かれていたことをご存じでしたか。孤独担当大臣を、世界で初めて置いたのは、2018年のイギリスでした。孤独からくるストレスは病につながる危険性があり、そのリスクは、過度の飲酒や喫煙より高いというのです。2番目に誕生したのは日本でした。2021年2月に、坂本 哲志少子化対策担当大臣が兼務し、内閣府に推進本部が置かれました。2024年には、孤独・孤立対策推進法も施行されています。この早い動きを考えますと、日本人の孤独状況はこの時点ですでにかなり問題だったのでしょう。このことを裏づけるもう一つのデータがあります。OECD(経済協力開発機構)が2024年に行った人間関係に関する調査で、友人、同僚との交流が「全くない」「ほとんどない」と回答した人の割合が、日本は15.3%で、加盟20ヵ国中最下位だったのです。日本人は、いつからそんなに人づき合いの下手な民族になったのでしょうか。

小野田元少尉から聞いた忘れられない言葉

 第2次世界大戦の終結時に、フィリピンのルバング島で、終戦を知らずに独り戦い続け、30年後の1974年に救出された小野田 寛郎元少尉のことを、年配の方ですとご記憶でしょう。以前に、その小野田さんにお会いしたことがあります。その時、「30年近くも、たった独りで生きるって、本当に大変でしたでしょうね」とうかがいました。すると小野田さんは、「私は決して独りではありませんでした。島にいる原住民と命をかけて30年間、戦い続けてきたのです。その緊張感や恐怖心が、私を孤独から救ってくれました。それがなかったら、独りで生きてはこられなかったと思います」。言葉を噛みしめるように、ゆっくり語った小野田さんの言葉が、今も脳裏にはっきり残っています。

動物たちに見る孤独・孤立

 視点を変えて動物の世界を見てみましょう。動物の中には、決して群れをつくらず、一匹(一頭、一羽)だけで生きている動物がいます。トラ、オランウータン、ヒグマ、イタチ、フクロウ、モズなどがそうです。彼らは、食料の確保、繁殖のための競争など、生き残るためにやむを得ず単独の行動を選んだのでしょう。しかし、現実の地球上には、生き残るために集団の行動を選択している動物のほうが多いのではないでしょうか。では、私たちの祖先とされる現生人類ホモ・サピエンスはどちらでしょうか。ラテン語でホモ・サピエンス(知恵ある人)と名づけられた人間は、知恵を共有し、仲間を大切に、厳しい時代を生き抜いてきました。孤独、孤立では生きられなかったでしょう。それが21世紀の今、日本人に、集団よりも孤独を好む人が増えたとすれば、その理由はなぜでしょうか。それは独りでも生きられる今の豊かな文明社会に、大きな理由があるように思うのです。

ネット社会が孤独を増やす

 孤独、孤立化が進行した直接的な理由の一つは、2020年から2023年にかけての新型コロナウイルス感染症によるパンデミックです。外出の自粛にとどまらず、企業ではテレワークが恒常化し、Web 会議が増え、遠隔地への出張も減りました。アフターファイブの飲み会も激減し、ストレスが溜まります。大学の講義もオンデマンドが増え、師への信頼感、同級生との絆が育ちません。そこにあるのは、喜怒哀楽に乏しい孤独な青春です。孤独状態は人の心を読めなくします。察することもできません。共感はしないし感動もしません。以心伝心もありません。
 ロボットやAI技術の進歩は、今後も私たちの想像を超える速さで進むでしょう。そこは人間不在の世界です。そのDX空間で、人間がどうつながりを持てるかが問われます。その答えを握っているのが、身近にある「電話」です。電話には、AIには表現できない人声の世界が残されています。人の心をつなぐのは声です。メールやSNS、AIによる音の情報がどれほど高度に進歩しても、私たちが抱く、何か取り残された孤独感、違和感は、決して癒やされることはないでしょう。それができるのは、唯一「声でつながる電話」なのです。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定委員会検定委員。
NHK アナウンサー、(財)NHK 放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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