電話応対でCS向上コラム

第48回「名前は正確に誠実に伝える」

「その人にとって、自分の“名前”は、最も好きな言葉である」と言ったのは、ご存じの名著『人を動かす』を書いたデール・カーネギーです。名前を名乗ったり呼びかけられた時、人はその相手に好感を持ちます。電話応対教育でも、しっかり名乗ることの大切さを教えているはずです。ところが、最近その教育が揺らぎ始めているのです。“名前”の大切さについては、第9回でも書きましたがもう一度基本に立ち返って考えます。

名乗りは信頼関係のはじまり

最近、差出人の住所氏名が書かれていない封書が届くことがありませんか。この名なしの封書、まだ数は多くはありませんが、このところ増加傾向にあるというのです。個人情報の悪用につながるという懸念からだそうですが、同様に電話での個人名の名乗りもしなくて良いと指導する会社もあると聞きます。人と人との出会いは名乗りに始まります。ビジネスも名刺交換が最初です。それは信頼関係のスタートなのです。会社の方針とあれば否やは言えませんが、個人的には納得しかねます。むしろ堂々と正しく名乗ってこそ、良き信頼関係が生まれ、良きビジネスに結びつくのだと思います。

慣れになるマニュアル名乗り

問題なのはむしろ、名乗ってはいるのですが、何と名乗ったのか分からない誠意のない名乗りです。名乗りもマニュアル言葉の一つであって、「名乗りました」という事実だけで終わってしまうのです。伝えるという意識が希薄なのでしょう。

知人に羽藤(はとう)という人がいます。「いつも佐藤と間違えられるんだよ」とぼやいています。発音が似ていると、圧倒的に数の多い「佐藤」と受け取られるのは必然です。本田さんと恩田さん、井村さんと江村さん、若山さんと岡山さんなど、聞き違えの例を挙げれば枚挙に暇がありません。対面でも電話でも、直接話している時には確認もできますが、困るのは留守番電話です。何度聞き直しても分からないということがよくあります。「あとで電話ください」と言われても電話のしようがないのです。日頃から間違われることの多い人は、1音1音をはっきり言う。くり返し言う。漢字を説明する。同名の著名人の名前を例に挙げるなど、正しく名前を覚えてもらうことの工夫が必要でしょう。

名前は数多く呼びかけながら会話する

私たち日本人が好きな言葉に「ありがとう」があります。ビジネス電話では、この「ありがとうございます」を、こちらが何か言うごとに連発する人がいます。いくら好きな言葉でも、全く心のこもらない言い方で連発されると苛々(いらいら)します。その点、「名前」は違います。数多く言われても不快になることはありません。「〇〇さまのおっしゃる通りです」「〇〇さま、一度お試しになってください」「〇〇さま、ご納得いただけましたでしょうか」「〇〇さま、今日はありがとうございました」。このように、「〇〇さま」と呼びかけるごとに距離が縮まります。「お客さま」という不特定多数の呼び方では、決して距離は縮まりません。電話では、お客さまの名前を早く訊き出すことです。そのためには自分の名前をしっかり名乗ることが大事です。厳しいクレーム電話でも、数多く名前を呼びかけて対話することで怒りが収まることが多いのです。名前の呼びかけは、あなたを認めていますというメッセージでもあります。ただ、気をつけたいことが一つあります。登録記録などがあると、名前を訊かなくてもお客さまの名前が分かることがあります。この場合に軽々しく名前を呼びかけると、お客さまに、名前を盗まれているような不信感を与えることがあります。まずは会話の中で確認する配慮が必要でしょう。

発信者名はフルネームで

欧米のビジネス社会では、相手に対して最初はフルネームで名乗りますが、慣れるとすぐにハンドルネームなどの愛称や名前だけで呼び合うようになると聞きます。日本ではなかなかそうはいきません。私が気になりますのは、メールなどで発信者名を姓だけしか書いてこない人が多いことです。姓だけですと事務的でよそよそしく感じます。その上、返信の宛名も、フルネームが分からないため、姓だけを書くという失礼なことになるのです。

岡部 達昭氏

日本電信電話ユーザ協会電話応対技能検定 専門委員会委員長。
NHKアナウンサー、(財)NHK放送研修センター理事、日本語センター長を経て現在は企業、自治体の研修講演などを担当する。「心をつかむコミュニケーション」を基本に、言葉と非言語表現力の研究を行っている。

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