企業ICT導入事例

-株式会社ヤマト屋-
創業130年の老舗がSNSで挑む若年層の顧客開拓とICT活用による業務改善

記事ID:D20040

創業130年を超える女性用バッグの老舗が展開する、SNSのユニークな活用法が注目を集めています。ファッションモデルを起用したInstagramの動画を起点に、ユーザー目線に立った製品情報を発信する、株式会社ヤマト屋の代表取締役社長・正田 誠氏に、SNSやICTの効果的な活用法と業務改善ノウハウについてうかがいました。

SNSで若年層開拓に挑むが反応ほぼゼロの現実に直面

代表取締役社長 正田 誠氏

 ミセス向けファッションバッグの製造販売を手がける株式会社ヤマト屋は、1892年(明治25年)に浅草の仲見世通りに和装小物小売業「大和屋」として産声を上げた、創業130年を超える老舗です。時代の洋装化に対応してバッグの製造販売を開始し、「軽い」「柔らかい」「丈夫」「日本製」を特徴とする同社のバッグは、長年にわたって多くのシニア女性の支持を得ています。

 「ヤマト屋ブランドには『ヤマラー』と呼ばれる古くからのお客さまが多く、中には100歳を超えるファンの方もいらっしゃいます。顧客の平均年齢も70歳を超えており、若年層の顧客取り込みは、弊社の長年の課題となっていました」(正田氏)

 2015年、同社は30歳代を意識した新製品を開発し、これまでの支持層の孫まで含んだ三世代(祖母・母親・娘)をターゲットとした市場開拓に乗り出しました。しかし当時は製品をアピールする場がカタログ冊子などしかなく、新しいターゲット層にヤマト屋ブランドの魅力を届けるのは困難でした。そこで2019年にInstagramをスタートさせ、若い世代に製品の良さを効果的に訴求するSNS戦略に着手しました。しかし、現実は厳しかったと正田氏は振り返ります。

 「Instagramを開始しましたが、消費者から期待したような反応を得ることができませんでした。ターゲット層の間で流行っているからとりあえず挑戦してみようという安易な考え方で、どのようなコンテンツを制作して若年層を獲得するかといった基本的な戦略を立てずにスタートしてしまったのが、失敗の原因でした。当然コンテンツの内容も販売フェアの告知など、面白みに欠けた一方的な発信にとどまりました。スタート当初は、とにかく何か『情報を発信しなければならない』といった強迫観念にかられ、コンテンツの内容を吟味したり、クオリティを考慮する意識が足りなかったのです」(正田氏)

SNSで何をしたいのか使う側の意識が重要

画像①/販売ターゲットと同世代のモデルを起用したInstagram

 その後、同社はモデルプロダクションと契約し、Instagramの内容を一新しました。コンテンツの主役として30歳代のファッションモデル6人を起用したことで、ターゲット層が一目で分かるようになりました。バッグを手にした彼女たちが、使い勝手や魅力をユーザー目線で紹介する、ライブ感あふれるリポート動画が好評です(画像①参照)。また、定期的にプレゼント企画を実施し、正田氏が自ら出演するテレフォンショッピング風動画をアップするなど、顧客の興味を刺激するユニークなコンテンツ作りにも余念がありません。

 「スマホによる撮影から編集作業、文字や音入れまで、コンテンツはすべてモデルである彼女たちの手作りです。完成した動画や画像はクラウドにアップされ、私が確認し問題がない場合は彼女たちが投稿します」(正田氏)

 同社はモデルプロダクションとの間で、画像の版権が完全に同社に帰属する契約を交わしています。そのため、Instagramに投稿された画像は他媒体でも2次利用することが可能になっています。毎年2回製作される同社の製品カタログにもInstagramに掲載された多くの写真が使用されているほか、百貨店売り場のPOPや宣伝素材の多くも彼女たちの画像が使用されており、Instagramのコンテンツがあらゆる広報活動でも活かされています。これにより、写真撮影代などの経費削減につながるなど、Instagramを活用したマーケティング戦略の効果は、商品の認知度向上だけでなく多岐にわたっています。中でも最大の成果は、モデルたちから多くのビジネスが派生したことだと正田氏は語ります。

画像②/Instagramの投稿内容は、月1回のミーティングで決めていく

 「彼女たちとは月1回ミーティングの機会を設け(画像②参照)、Instagramの構成案や、新製品企画の打ち合わせを行っています。ターゲット層である彼女たちの生の反応や提案は、この上なく貴重なマーケティングデータになります。近年は商品のカラーや素材選びも彼女たちに委ねることも多くなりました。また彼女たちのオリジナルブランドも登場し、今では約40アイテムが発売されています」(正田氏)

 一方で、Instagramのフォロアーをターゲットにしたビジネスの可能性には、正田氏は懐疑的です。

 「Instagramの開設以来約5年が経過しました。番組は好評でオンラインショッピングの売上増にも貢献していますが、それでもフォロアー数は約5,800人にとどまっています。『生ライブで販売セールを行なう』など活用アイデアは尽きませんが、統計的には最低で約20,000人のフォロワーがいなければレスポンスは期待できません。ファッションモデルの例のように、新しいビジネスの価値を常に意識しながらコンテンツを生産することが、これからのSNSの上手な活用法だと考えています」(正田氏)

中小企業ならではの業務改善をICTで実践

 同社では、マンパワーや資金力が限られる中小企業こそ業務改善が重要と考え、ICTの活用にも積極的に取り組んでいます。

 「弊社では、作業時間を5分の1に短縮することを目標に、ICTを活用した業務改善に取り組んでいます。2022年には、JANコードによる在庫管理や商品出荷を実現しました。出荷伝票の作成など、これまで手作業で1時間かかっていた業務が5分程度で終了するなど、さまざまな成果が生まれています。また、縫製工場との間でやり取りされる検品データも、すべてデータベース化しています。そのため、万が一不良品が発生した場合でも、いつ、どこで、誰が縫ったバッグで、どのような不良が発生したのかが瞬時に分かるようになりました。このデータは毎月関係部署で共有されています。近い将来にはICタグを製品に縫い込むなど、トレーサビリティに注力し、商品管理などに費やす時間のさらなる改善に取り組みたいと考えています」(正田氏)

 また、同社は羽田空港内で直営店を経営していますが、店舗には7台のカメラが設置され、本社で店舗の様子を把握することが可能です。そのため、問題が発見された場合は即刻本社から連絡することが可能になり、店舗スタッフの業務負荷を軽減することができました。今では朝9時から夜9時までの営業時間で、2名体制の勤務が実現しています。
 一方で、中小企業の業務改善には、ICTを上手に活用しつつ、人の手で行う部分も残すといった、身の丈に合った考え方が大切だと正田氏は語ります。

 「弊社の製品検査は、今でもプロの職人が一個一個、ミシン目が正しく縫われているか、手作業で行っています。一見カメラを設置してAIに学習させれば、すぐにでも業務改善が実現しそうなプロセスに思えますが、バッグの縫い目など細かな部分を隅々まで確認する作業は、人間の眼の方がはるかに優秀です。そのため、デジタルとアナログの使い分けが重要だと考えています」(正田氏)

 創業130年の老舗が実践する、最新のSNSやICTとアナログならではの良さをバランスよく使い分ける業務改善は、中小企業の良い参考事例になると言えそうです。

※ トレーサビリティ
製品が生産から消費者に届く(もしくは破棄)までの一連の工程を記録し、追跡可能な状態にすること。
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会社名 株式会社ヤマト屋
創業 1892年(明治25年)
本社所在地 東京都台東区蔵前3-14-5
代表取締役社長 正田 誠
事業内容 ファッションバッグ、ポケッタブルバッグ、 和装バッグ、その他装粧品の製造販売
URL https://www.yamatoya-tokyo.co.jp/

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