企業ICT導入事例

-株式会社松浦機械製作所-
動画を活用したデジタル戦略が生んだコロナ時代を生き抜くビジネススタイル

記事ID:D20018

売上の7割以上を欧米が占める工作機械メーカー「松浦機械製作所」は、コロナ禍を契機に顧客との商機が激減し、従来の営業手法の見直しを迫られました。動画戦略をメインとしたデジタルコンテンツを充実させ、これまでの「対面型」営業から新たなスタイルの構築に挑んだ、同社取締役でDX推進室長の松浦 悠人氏に話をうかがいました。

自信があるから直接見てほしい「対面型」ビジネスを襲った災厄

取締役 営業・技術管掌 執行役員
DX推進室長 松浦 悠人氏

 松浦機械製作所は、5軸マシニングセンタや金属光造形複合加工機など、ハイエンド機材に特化した工作機械メーカーです。

 「主力製品である5軸マシニングセンタは、世界のどこに出しても恥ずかしくない品質だと自負していますが、高品質な分、製品価格は他社と比べて割高になりがちです。工作機械市場は世界中にライバルが林立する厳しいマーケットで、ともすれば価格が品質面の評価に優先するケースが見られます。そのため、顧客に対して弊社の強みである技術力を背景とした、品質の優位性をアピールする必要がありました」(松浦氏)

 そこで実施していたのが、「会社全体がショールーム」と考える営業スタイルでした。これは、顧客を本社工場に招いて実際に製造工程などをつぶさに見学してもらうことで、高精度な技術や誠実な働きぶりを直接アピールする手法で、長年にわたり同社のセールスを支えてきました。

 「ところがコロナ禍で大きな見直しを迫られました。現在は少しずつ復活してきていますが、2020年5月以降は約2年間、海外からの顧客訪問が全くなくなってしまいました。弊社の技術力や心意気をお客さまに肌で感じていただく機会を突然失い、創業以来の危機を迎えました。売上の7割を担うアメリカ、ドイツ、カナダ、イギリスといった欧米の子会社からは、連日のようにデジタルコンテンツを充実させ、『対面型』からオンラインマーケティングにシフトすべきだとの要望が寄せられましたが、国内サイドは人材不足や言葉の壁などの問題を抱え、迅速な対応が難しい状況でした。そこで2020年9月、私が自ら手を挙げDX推進室を開設し、若手社員との二人三脚でデジタルコンテンツの制作に乗り出しました」(松浦氏)

できることから始めよう!見よう見まねの動画撮影が好評

 デジタルコンテンツに関しては全くの素人だった二人が注目したのが動画制作でした。

 「動画はYouTubeなどで気軽に挑戦できます。参考になるコンテンツも山ほどありますし、何より運営費用が無料で、参入障壁の低さが大きな魅力でした」(松浦氏)

 コンテンツ決定には海外子会社の意見を大いに取り入れました。「工場見学」「社長メッセージ」「機械の機能紹介」など、非対面営業で必要となるコンテンツへのリクエストが寄せられました。

 「最初の一本は、見よう見まねで作った『社長メッセージ』でした。今見返すと冷や汗ものですが、社長の情熱は伝わったと思います。現在、使用している撮影機材はスマホです。スマホでも画質は十分ですし、データのやり取りも簡便で、低コストで撮影が可能です。画像の編集には月数千円で利用可能な汎用ソフトを活用していますし、もちろんパソコン自体も一般的なタイプです。無理をしない身の丈に合ったスタートだったからこそ、続けられたのだと思います。本格的な機材を導入したはいいが、使いこなせず気が付けば押し入れに、なんて状況は本末転倒です。そして、今では500本を超えるコンテンツが蓄積されました」(松浦氏)

 同社の動画は「プレゼンター形式」で演出されています。カメラに映った人物が進行役を務めるシンプルな構成で、大手企業のCGやナレーションを多用したものとはアプローチが異なります。一見チープにも見えかねないこの方式ですが、作りやすい上に登場人物の熱意がダイレクトに伝わるメリットがあります。

 「動画の反応は上々で、特に『社長メッセージ』や『工場見学』は海外で好評を博しました。つたない英語でも会社の意思と熱意はしっかり伝わったようで、動画をきっかけにした新規の成約も相次いでいます。現在はチャンネル登録者数も1,700 名を突破し、『自分たちで直接営業できなくても、動画がお客さまを連れてきてくれる』という状況が生まれています」(松浦氏)

 現在制作している動画は、「YouTubeなどで同社の魅力を一般公開するもの」「グループ内メンバーしか見ることができない高度な情報を扱ったもの」「組み立て工程など、技術を社内に伝承するためのもの」の3種類です。「その企画、動画で公開したら効果的ですね」など、社内では動画に関する積極的な意見が頻繁に交わされ、動画の効果やDXの意義が認識されつつあると言います。

 「昨今復活しつつある対面式の展示会などでは、初めて会う方から『動画を見ました』とお声がけいただく機会が格段に増えました。初対面なのに『初めて会った気がしない』とよく言われます。動画が営業の第一歩を担ってくれているのです。動画を通じて事前に弊社のことを理解されているお客さまとは、これまで以上に深い商談ができるようになりました」(松浦氏)

動画制作を開始して約2年半で、コンテンツ数は500本を突破している

DX認定事業者の認定により効果がさらに拡大

 2021年7月、同社は経済産業省が定める「DX認定事業者」に認定されました。福井県の企業では初の認定として、注目を集めました。

 「申請当初は認定されることで得られる税制優遇措置が目的でした。税制優遇措置を得ることで、効果を数値化することの難しいDX推進室の活動が利益に直結することを、目に見える形で証明できると考えたわけです」(松浦氏)

 こうして認定を受けた同社には取材が殺到し、メディアに紹介されたことで、会社の認知度が上がりました。そして、「とにかく話を聞きたい」「弊社とコラボしてほしい」など、さまざまなオファーが増えたそうです。

 「最近は社内業務の効率化やキーテクノロジーの進化など、動画以外のDX戦略の推進にも着手しています。最大のテーマは、多くの日本企業の課題であるレガシー化する基幹システムの刷新です。3年以内に新システムへの移行を完了し、より信頼性の高い生産体制の構築を目指しています。また、AIやIoTを活用して、弊社製品の強みである『自動化』『高速高精度』『使いやすさ』といったキーテクノロジーをより進化させる人材育成に注力し、新たな付加価値創出にも挑戦したいです。近い将来、人手不足問題が企業の大きな課題になるのは確実です。製品の競争力には自信がありますが、将来生産力が維持できるのか、十分なメンテナンスが可能なのか不安はつのります。だからこそDXを活用した省力化、効率化を全社的に展開する必要があります」(松浦氏)

 現在、労働者不足などを背景に効率的な営業戦略の見直しを迫られている企業は多くあるはずです。同社の動画戦略は、そんな企業にとって有益なヒントになると言えそうです。

プレゼンター形式だからこそ、同社の情熱や思いがダイレクトに顧客の心に響いた

※ DX
Digital Transformation(デジタルトランスフォーメーション)の略で、直訳すると「デジタルによる変容」。進化したICT技術を用いることで、人々の生活やビジネスがより良いものへと変容(変革)していくこと。
会社名 株式会社松浦機械製作所
創業 1935年(昭和10年)8月
本社所在地 福井県福井市東森田4-201
代表取締役社長 松浦 勝俊
資本金 9,000万円(自己資本金180億3,200万円)
事業内容 工作機械(マシニングセンタ)の製造、販売。金属光造形複合加工機の製造、販売。CAD/CAMシステムの販売など
URL https://www.matsuura.co.jp/japan/
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