企業ICT導入事例

-ヤマガタヤ産業株式会社-
ICTでニッポンの「木の力」を取り戻せ!岐阜県の老舗住宅建材総合商社の挑戦

記事ID:D20016

現在でも尺貫法が用いられるなど、日本の木材業界は歴史と伝統技術を大切にしてきました。一方ICT活用への対応はあまり積極的とは言えないようで、今でもホームページを持たない中小の事業者が数多いと言われています。このような状況下、岐阜県の「ぎふの木ネット協議会」がICTを活用し、県産材の需要を促進する試みを展開しています。その取り組みをリードする老舗住宅建材総合商社「ヤマガタヤ産業株式会社」の代表取締役社長・吉田 芳治氏に話をうかがいました。

岐阜県に再び「木の力」を!産学官三者連携の協議会を創設

代表取締役社長
吉田 芳治氏

 岐阜県は、日本有数の森林県です。面積における森林率は全国2位の約81%(出典:ぎふの木ネット協議会ホームページより)で、長年「岐阜は木の国山の国」と称されてきました。特に針葉樹の宝庫として知られており、長良川沿いの長良杉、木曽川沿いの東濃桧は、世界的に著名なブランドです。しかし岐阜県のみならず、国内林業は長年にわたる構造不況に苦しめられてきました。
 「戦後日本の木材業界の歴史は、圧倒的に安価な輸入木材との戦いの歴史でもあります。約40年もの間、国産材の価格はヒノキの柱材の例で1立米※1当たり6~8万円程度に据え置かれたまま推移しています(ヤマガタヤ産業試算)。その結果、就労者数は減少の一途をたどり、山は荒廃して産業が廃れる負のスパイラルへと陥ってしまいました」(吉田氏)
 このような状況下、新しい業界コミュニティの創設やICTの活用などで、岐阜県林業の復興に取り組んでいるのが、岐阜県の住宅建材総合商社の老舗「ヤマガタヤ産業」です。
 「林業復興のためには、県産材の安定供給の確保、適切な価格の維持などが大きな課題となります。そのためには、今までにない新しい販売機会の創出や、県産材の品質の高さをアピールする場が必要です。そこで、業界内の連携強化を目的にした協議会の創設、ICTを活用した効果的な情報発信が欠かせないとの判断に至りました」(吉田氏)
 そこで吉田氏は2019年、産学官の連携チームによる「ぎふの木ネット協議会」を立ち上げ、協働による岐阜県木材業界の復興と「木の力」による地方創生を目標に活動を開始しました。
 「協議会では①森を守る、②人を守る、③技術を守る、④地域経済の活性化、⑤ICT導入によるイノベーションの五つのテーマを掲げました。全国でも数少ない林政部を有する岐阜県、研究成果をビジネス面で検証したい大学、県産材の輸入材に対する優位性に科学的根拠を求める業界間などで良好な関係が構築され、協働の成果は日々上がりつつあります」(吉田氏)

「ウッドショック」により県産材への注目度がアップ

 早速活動を開始した協議会でしたが、2021年ウッドショック※2に襲われ、業界は大打撃を受けてしまいました。コロナ禍や国際情勢の不安が引き起こした輸入木材の需給バランスの崩壊と価格の高騰が、木材需要の過半数を海外からの輸入に頼る国内業者を直撃しました。工期の遅れや受注の停滞も発生し、業界はかつてない危機に見舞われたのです。
 「ウッドショックは大きな災厄を国内林業にもたらしましたが、一方で国内産の木材が脚光を浴びるきっかけともなりました。岐阜県でも県産材に対する注目度が俄然上昇し、このような危機を二度と経験しないためにも、私たちの取り組みが以前にも増して推進されることになったのです」(吉田氏)
 この結果、設立時には100弱にとどまった「ぎふの木ネット協議会」への参加社・団体は、現在約230へと成長し、吉田氏は「異業種からの参加もあり、互いに強い部分を持ち寄って合作することで、想像以上のパワーが生まれている」と言います。例えば、岐阜大学の研究室との連携では、「木の香りが身体を活性化させる」「杉や桧の空間にいると、記憶障害の改善に効果がある」など、科学的根拠に基づいた成果が検証され、新たな木材製品の開発に結びついています。

「モクタウン」が実現する消費者との新たな接点

デジタル展示場モクタウンは現在、40のモデルハウスのVR映像と60件の地元工務店紹介動画を公開中 (2022年10月20日現在)

 同協議会がICTを活用した代表的な事例は、2021年にオープンした県産材による住宅作りを提案するWebサイト「モクタウン」です。県産材の素晴らしさ、各住宅の内覧、地域工務店などの情報を掲載していますが、中でもモデルハウスの様子をVR※3で公開し、現地見学さながらのリアルな体験が可能な「デジタル展示場」が好評です。部屋から部屋への移動や、気になる場所のズームアップなど、3D画面による高精細な表現は、非接触時代にも適応したシステムとなっています。
 「物件の見学会や相談会などの予約システムも好評です。見学の空き時間も一目瞭然で、前日にはリマインドメールが発信されるなど、顧客対応も工夫しています。公開後は、複数の参加工務店から問い合わせ件数の増加が報告されています」(吉田氏)
 運営母体である「ぎふの木ネット協議会」ホームページへのアクセス数も、モクタウンの開設を契機に増加しており、今後のさらなるコンテンツの充実が期待されています。
 また、同社がICT活用として2020年から始めたのがセリのオンライン配信(デジセリ)で、今年はスマートグラス※4の利用も試みたと言います。
 「デジセリでは、私がスマートグラスを着用して臨場感たっぷりに木材の特徴などを紹介しながらセリにかけたのですが、おもしろいほど反応が良く、ほぼ完売の成績を収めました。映像や音声面での課題も指摘されたので、改善し次回につなげたいと考えています。こういった遊び心満点の情報技術活用も、県産材の普及推進につなげて行きたいですね」(吉田氏)

デジセリでは吉田氏の目利きに信用を寄せる視聴者からの注文が殺到し、ほぼ完売の成績を収めた

業界各社の情報共有を推進

 同社では現在、県内の業界各社と情報共有システムを構築し、県産材の利用促進に貢献する計画を立てています。
 「伐採から製材、建築に至るまで、木材業界に携わる多くの地元企業と協定を結び、サプライチェーン※5を構築して各社間で情報の見える化を図りたいと考えています。実現すれば、建築予定数が分かることで木材の需要予測が立てられ、製材や原木供給量の安定化が図れます。そうすると、スムーズな供給と価格の安定化が実現し、ウッドショックのような緊急時のリスクヘッジとして機能します。また、工務店サイドと工場サイドのCAD※6データを連携すれば、入力作業の削減、資材の統一化により、製材品歩留まり率の向上が期待でき、ひいてはコストダウンに結びつきます。このように、業界全体がワンチームでの連携を図ることで、コスト削減と品質の向上が同時に実現できると考えています」(吉田氏)
 こうした動きに賛同する企業は増加しています。岐阜県を木材の先進国に! 生産者から加工業者までが、この高邁な精神を胸に動き始めた岐阜県から、遠からず全国に向けて、国内林業復興の成功例の発信が期待できそうです。

※1 立米(りゅうべい)
立方メートルと同義。木材を売買する際に使用されている単位。
※2 ウッドショック
コロナ禍などを要因に2021年に発生した、国際的な木材の需給バランスの崩壊現象。輸入材に頼る多くの国で、価格高騰、供給不足による弊害が発生した。
※3 VR
Virtual Reality(仮想現実)。限りなく実体験に等しい体験が得られる仕組みや装置などを意味する。
※4 スマートグラス
メガネやゴーグルのような形状で、目の周辺に装着して使用するウェアラブルデバイス。実際に見ている光景にコンピューターで情報を付加または合成して表示できる。
※5 サプライチェーン
製造業などで用いられる、材料の調達から生産、物流、販売までを一気通貫システムとして捉えた際の名称。
※6 C A D
製造業や建築業などで使用される、コンピューター支援設計ツール、作図ソフトウェア。
会社名 ヤマガタヤ産業株式会社
創業 1918年(大正7年)2月
本社所在地 岐阜県羽島郡岐南町みやまち1-3
代表取締役社長 吉田 芳治
資本金 2,300万円
事業内容 岐阜県を拠点に建築資材の販売、フルオーダーの製造、建築サポートから各種協議会の運営事業を通じて県の木材産業をリード。
URL https://ymg-s.co.jp/company/
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