企業ICT導入事例
-東白川村役場-インターネットを活用した概算建築費算出システムでビジネスモデルを変革、村の産業再生に貢献
山林に囲まれ、林業や建築業を主力産業とし2,400人弱の人口を擁する岐阜県東白川村役場は林業の衰退に伴う雇用や村民所得の低下に悩んでいました。そこで間取りを自由にデザインし、概算建築費を確認できるウェブサイト「フォレスタイル」を運営して村内建築業者の新規顧客獲得を支援し、村内の産業の活性化と村民所得の増大を達成しました。

工務店の住宅受注激減で村の経済に深刻な打撃が

▲地域振興課長 桂川 憲生氏
岐阜県の山間に広がる東白川村では、村の面積の90%を占める山林が産出する銘木「東濃ひのき」をはじめとする林業が盛んで、製材業、そしてその木材で住宅建築を手がける建築業などが、村の中心産業となっています。最盛期には岐阜県内、さらには隣県の愛知県から寄せられる年間70棟ほどの住宅受注が、村の経済を潤していました。
しかし2007年、村の地域振興課長である桂川氏は住宅受注数が大きく落ち込んでいることに気づきました。
「検証の結果、落ち込みは2003年くらいに始まっていました。そして、村で事業を営む方々の営業所得、そこで働く人の給与所得にも大幅に影響していたのです。このままでは村の将来に大きな危機が訪れることが予想されました」(桂川氏)
その原因を探るうちに桂川氏は、ある事実に気づきます。
「これまで村の建築業者の主な顧客は50代、60代が中心でした。つまり間もなく会社をリタイアし、退職金と年金で第二の人生を設計する人々です。しかし2003年には、年金制度の根幹に関わる未納問題が表面化し、こうした層の老後への不安が拡大しました。それが原因となり、住宅購買意欲が大きく減退してしまったと思われるのです」(桂川氏)
「インターネットで住宅を売る」というビジネスモデルへの転換
この危機を乗り越えるには、これまで東白川村の工務店が続けてきたビジネスモデルを見直す必要があると、桂川氏は考えました。
「これまでのビジネスモデルは、工務店が手がける物件の上棟式でお祝いに集まった近隣の方々にチラシなどを配り、見込客には重ねてアプローチし、2年、3年かけて契約をまとめていくというものでした。つまり具体的な商談よりも、人間関係の構築が第一だったのです。しかし、インターネットの普及が人々の購買行動を大きく変えました。何を買うにもまずは比較、それから見積、商談という流れです。つまり、比較せずに商談に入ることはありえないのです。そして年金未納問題で将来に不安を感じた50代、60代は、子どもの家族と同居する住宅の建築に資金を出すだけの存在になりました。つまり30代、40代という、より若い世代が住宅購入のイニシアチブを握る時代が到来していたのです」(桂川氏)
こうして桂川氏が出した結論が、「インターネットで住宅を売る」という試みです。
「従来のビジネスモデルでは、“比較”に慣れた30代、40代の目には留まりません。この人たちを引き込むには、新たな販売手法が必要なのです。ヒントとなったのは、閲覧者が住宅の間取りをデザインし、公開するウェブサイトでした。自分の理想の家を想像し、それを図面にして具体化する。ここで見積金額も“見える化”できれば、住宅の受注に結びつき、村内の経済に好影響を与えると判断したのです」(桂川氏)
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▲強度に優れ、腐食に強く艶がある銘木「東濃ひのき」
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▲注文住宅受注サイト「フォレスタイル」
URL:http://www.forestyle-home.jp/ -
▲お客さまのご予算に合わせてこだわりの間取りと概算建築費を自由にシミュレーションできる「木の家¥シミュレーター」
競争原理の導入で村内の建設業の持続的な成長を
ウェブサイトや付随するシステムの構築は、財政規模の小さな村にとっては厳しいものでした。しかし桂川氏は解決策を見出しました。
「総務省から地域ICT利活用モデル構築事業に認定され、約6,000万円の事業委託を受けることができました。こうして予算の目途が立ったのち、いくつかの事業者から企画提案を受ける方式で事業者選定を行い、システム構築がスタートしました」(桂川氏)
こうして完成したウェブサイト「フォレスタイル」は、2009年に一般公開されます。
「フォレスタイルではお客さまが作成した間取りをもとに、フォレスタイル事務局が仲介役になり建築士選び・工務店選びをサポートします。建築士や工務店は、村が提携する事業者以外からお選びいただいてもかまいません。実は当初、地元の工務店から『役所がやる事業なのに、どうして順番に仕事を回さないんだ』という声がありました。しかし私は、競争原理にこだわりました。フォレスタイルが持続可能な仕組みとして成長していくには、村の事業者同士、そして外部との競争原理が不可欠だと考えたからです」(桂川氏)
フォレスタイルに興味を持ち、アクセスする人が増えるにつれて間取りのデザイン作成から住宅発注につながるケースが徐々に増えてきました。そして一時14棟まで落ち込んだ年間受注数が、2015年には30棟まで上昇します。フォレスタイルを開設した2009年から5年間で村の建設業者の売上は約114%増加、それに伴い村民一人あたりの所得も約16%の伸びを達成しました。
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▲国産材をふんだんに利用した注文住宅を提供
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▲「フォレスタイル」を活用して施工し完成したお客さまの住宅
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2007年の“気づき”にはじまり、2009年のウェブサイト開設、そして以降の仲介役としての地道な努力が、ここにようやく花開くこととなったのです。
「数字の伸びもさることながら、東京など、旧来のビジネスモデルでは無理だった遠隔地のお客さまから受注をいただけたことも、大きな成果だと思っています」(桂川氏)
こうしてICTの力を活用し、村内の産業再生を進める桂川氏に、他の自治体へのアドバイスをうかがいました。
「課題の解決に必要なのは小手先の対策ではなく、その課題の根源に何があるのかを徹底的に調査し、対応策を講じることです。『住宅の受注減少』という村の将来を左右する課題に対し、『広告を出す』、『キャンペーンを行う』などという小手先の対策ではなく、産業を支援、育成する村役場の立場から受注減少の原因を深く分析し『これまでの売り方がお客さまのニーズに合っていない』『アプローチする顧客層が間違っている』という結論を導き出し、売り方そのものを見直すという対応策により生まれたのが、フォレスタイルなのです。さまざまな課題を抱えている各自治体の皆さんも、課題の根源を徹底的に調査し、適切な対応策を講じることで、きっと克服できるはずです」(桂川氏)

組織名 | 東白川村役場 |
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所在地 | 岐阜県加茂郡東白川村神土548 |
村長 | 今井 俊郎 |
URL | https://www.vill.higashishirakawa.gifu.jp/ |
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