企業ICT導入事例
-株式会社ミヤックス-創業75年の老舗がデジタル化で取り組む産官学と協働した地域貢献ビジネス

公園の遊具にセンサーやカメラを取り付けて業務のスリム化を模索する実証実験や、データサイエンスやAIを学ぶ大学生と地元企業との協働を図る取り組み、繁華街の再興など、デジタルを活用した地域貢献で、中小企業庁「2023年度はばたく中小企業・小規模事業者300社(DX部門)」に認定された株式会社ミヤックス 代表取締役社長の髙橋 蔵人氏に、データの活用法や地域と協働するヒントをうかがいました。
公園の遊具×デジタルが実現する社会課題の改善

代表取締役社長
株式会社ミヤックスは、宮城県を中心に公園などに設置されている遊具の製造販売や、保守点検サービスなどを手がけてきた、地域密着型の老舗企業です。同社は近年、データサイエンスやAIを活用した新事業「MIYAX DIGI TAL」を創設し、地元企業と学生とのマッチングなど、地域のDX支援にも積極的に取り組んでいます。一見デジタルの世界とは無縁に思える遊具事業の会社が、なぜデジタルの導入に踏み切ったのか。代表取締役社長の髙橋 蔵人氏はその理由をこう語ります。
「現在仙台市内には約1,800の公園がありますが、少子化の加速などにより市場は縮小傾向にあります。また行政の限られた予算はどうしても人気のある公園に多く投下されがちで、保守点検など全体の維持管理に苦労しているのが現実です。働き手の不足や高齢化などに起因する、コスト増加問題も見逃せません。そのため、これまでデジタルと縁遠かった公園の遊具事業も、事業のスリム化により持続的な経営を実現するため、デジタル化は欠かせないと判断したのです」(髙橋氏)

写真①:園の遊具の実証実験は、ブランコの踏み台の裏などにセンサーを取り付けて実施された
同社はまず、公園内のさまざまな遊具にセンサーを設置し、使用頻度や利用時間など、各遊具の実際の使用状況を計測する実証実験を開始しました(写真①参照)。公園の遊具は国土交通省の指導に基づき、年1回以上の有資格者による一括点検が義務づけられていますが、来園者数の多い公園や人気の遊具は使用頻度が高いため、点検前に故障してしまい、予期せぬ業務が発生する場合もあります。
「人気の高い遊具と不人気な遊具では、消耗スピードが異なります。それを年1回、まとめて安全点検するというのは現状に即していない面もあり、安全性に問題が出てくる可能性もあります。そのため、実証実験では使用頻度や利用時間などを数値化し、遊具一台一台の消耗度合いを可視化しました。これにより、保守点検の時期が予測可能となり、時間や手間がスリム化されコスト削減を実現し、さらに安全性向上にもつながると考えたわけです。実験でも『ターザンロープやブランコなどの利用比率が特に高い』など、遊具によって数値が大きく異なるデータが可視化されました」(髙橋氏)
地元の学生と企業をつなぎ地域の産業を応援

写真②:勉強会に参加した学生の中には卒業後、地元での就職を望む人材も現れている
同社は現在、地域の中小企業とAIを学びたい地元の学生をつなぐ、DX支援事業にも積極的に取り組んでいます。髙橋氏は東北大学で、文系学生にデータサイエンスやAIを教えていますが、企業・大学それぞれの課題解決を地域全体の課題解決につなげています。
地元企業の中には、データを活用したいが活用方法がよく分からないという企業が多くあります。一方、データサイエンスやAIを学ぶ学生には、大学にビジネス現場の実情に即したリアルなデータが少なく、実践的な教育が受けられないという課題があります。そこで、地元経営者からリアルデータを提供してもらい、学生が企業課題に取り組む協働により、地域全体を元気にするための勉強会を始めたのです(写真②参照)。
「例えば地元レストランとの勉強会では、レジのデータによる客数変異などの検証から導き出した施策を、データ管理ツールで検証しました。その結果、売上が低い時間帯の客数を増加させるための施策や、価格の弾力性の検証などが実現しています。またAIによる来客予測から食材の仕込み量の最適化を導き出し、大幅なフードロスを達成する提案などへと結びつきました」(髙橋氏)
勉強会は、開始して1年足らずで5社以上の地域企業のDX支援を実現し、地域の活性化に貢献しています。このような取り組みで、同社は経済産業省東北経済産業局が主催する「TOHOKU DX大賞」でも優秀賞を獲得しました。
DXで商店街に元気を!産官学で取り組む地域活性化
同社は現在、産官学が連携した「仙台まちテック」プロジェクトの幹事事業者として、市中心部のアーケード街の復活にも取り組んでいます。近年、仙台市の中心部から、仙台駅ビルやその近隣に人流や消費が移行しています。そのため、駅前から老舗百貨店、市役所、飲食街などをつなぎ、長年東北最大の繁華街として栄えた、アーケード街の空洞化が深刻な問題になっています。そこで、同プロジェクトでは地元の老舗百貨店や飲食店、大学などが結集し、データを活用してさまざまな売上向上の施策に取り組んでいます。
「商店街ではこれまでも、商店街組合や店舗がそれぞれ人流データ、来店者データや購買データなどを収集していました。しかし、そのデータは共有されることもなく、商店街全体の活性化には活かされていませんでした。そこで、プロジェクトでは取得したデータの匿名加工などを実施した上で、オープンデータとして公表し、地域課題解決のための利活用を促進しています」(髙橋氏)
同プロジェクトでは、新たに街中の9ヵ所に人流を把握できるAIカメラ、5ヵ所にスマホの無線信号から年齢や性別などの基礎情報を取得できる電波受発信機を設置し、アーケード街の人流データを収集しました。そして、季節・曜日・時間帯別や、開催されたイベントなどで年齢や性別などの属性がどう異なるかを分析し、客層に合わせた商品構成や価格設定を考え、売上増やコスト削減を図っています。
「例えば、店舗前の通行量が21時台にピークになるにもかかわらず、売上が落ち込む飲食店では、店舗前の通行者の属性に20~40代と比較的若手世代が多いことから、SNS や写真を多用した店頭POPを掲示・宣伝する施策を打って、21時からドリンクの格安セールを実施したところ、その時間帯に売上のピークを作り出すことに成功、売上増を実現しました」(髙橋氏)
常時データを収集して街の動向を常に捉え、変化に適合した手を打つこの取り組みは、経済産業省が選定する「地域新成長産業創出促進事業地域DX促進環境整備事業地域デジタルイノベーション実証型」に、全国でわずか7件のうちの1件として採択されました。
遊具事業のDXも街づくりの事業のDXも、同社の取り組みからは、産官学が一体化し、力を結集して取り組む重要性が伝わってきます。地域の社会的課題を乗り越えるために、地域全体で適切な解を導き出す同社の姿勢は、地方における多くの企業のヒントになりそうです。

会社名 | 株式会社ミヤックス |
---|---|
創業 | 1948年(昭和23年)9月29日 |
本社所在地 | 宮城県仙台市泉区寺岡1-1-3 |
資本金 | 2,000万円 |
事業内容 | 修景遊具環境事業、オフィスパブリック・施設事業、MIYAX DIGITAL、文具宅配便 (カウネット) |
URL | https://www.miyax.jp/ |
関連記事
-
2025.04.25 公開
-松本興産株式会社-
自社開発のアプリで業務効率を大幅に向上 従業員の“デジタル人材化”を後押しする環境づくり松本興産株式会社は、自動車や精密機器などに使われる金属部品の切削加工メーカーです...
-
-
2023.08.25 公開
-社会福祉法人みなの福祉会-
人手不足時代の頼れる救世主 ロボット&ICTによる介護の質向上と職員の負担軽減緑豊かな埼玉県秩父郡皆野町で、老人福祉施設を運営する社会福祉法人みなの福祉会は、...
-
-