企業ICT導入事例

-アイビック食品株式会社-
ICTを活用してHACCPを運用 人に負担をかけない衛生管理を実現

「HACCPによる衛生管理」は、原則として「衛生管理記録の作成」と「管理記録の作成保存」を満たすことで成立します。しかしアイビック食品工業株式会社は、ICTの活用も含めたさらに高度な衛生管理を行い確立した品質を武器に、成長を続けています。

アイビック食品工業株式会社は、北海道札幌市に本社および工場を置く食品メーカーです。

「弊社のルーツは1922年に創業した雑穀、金の仲介業にさかのぼります。その後、さまざまな事業を手がけたのち、1960年代から釣り具の卸売りを事業の軸に据えました。ただ釣り具は趣味性の高い分野であることから、景気に左右されやすいという弱点があり、経営の安定のためには生活により密着した事業分野での収益が必要でした。そこで1980年代に不動産業に、続いて食品分野に進出したのです。そしてその食品事業部が2002年に独立し、アイビック食品工業になります。2018年にはM&Aで総菜分野にも進出、また同年中国の現地企業との合弁会社も設立しました。弊社の主な事業分野は食品のたれ、だし、スープで、他の食品事業者さまへのOEM供給が中心です。惣菜分野でも、スーパーなど販売店さまへのOEMが主力となります」

形骸化したISO9001の認証を捨て、より高度なISO22000の取得へ

  • 代表取締役副社長
    牧野 克彦氏

    牧野氏は電機メーカーで経験を積んだのち、2009年、当時売上げが2億円ほどだった同社に入社しました。

    「当時、弊社はISO9001に基づく品質管理を行い、その先進性をPRしていました。しかし実際に入社してその中身を知った私は、驚きを禁じ得ませんでした。たしかにISO9001の認証を取得してはいましたが、実際には“認証されることが目的”であり、その認証が品質に反映されていない部分が多かったのです。品質の裏付けにならないISO9001にとらわれたままでは成長が望めないと感じた私は、HACCPの考え方を取り入れ、より食品の衛生管理に特化した規格であるISO22000の認証取得を考えるようになりました」

じつはこうした考えの根底には、牧野氏が描く将来像がありました。

「私はあらゆる市場でグローバル化が進むことで、近い将来、日本の食品も海外のライバルと戦い、さらには海外市場に進出する時代が到来すると予想していました。海外市場でのHACCPの義務づけが進むなか、ISO9001は何の訴求力もありません。海外で成功するためには、国際的に認められたISO22000の認証が必要なのです。また当時世間を騒がせた食品偽装の問題も、ISO22000認証取得の動機のひとつとなりました。外見上の書類でつじつまが合うISO9001ではなく、工程をきちんと管理できるHACCPをベースとしたISO22000でなければ、お客さまの信頼を得られないと考えたのです」

「うちにそれが必要ですか?」という社内からの反発も

牧野氏は2013年頃から、そうした思いを公にするようになります。しかし待っていたのは社内からの反発でした。

「当時、売上げは拡大を続けていたとはいえ、その規模はまだ5億円程度でした。社内からは『うちのような小さな会社でISO22000を取ってどうするんですか?』『ISO22000は大手さんがやることで、うちなんてISO9001で大丈夫ですよ、背伸びしすぎですよ』といった反応が返ってきました。しかし自分はもっと先を見ていました。5億で満足するじゃなくて、もっと上を見るべきだと。北海道の食品会社には上場企業で100億円企業がいるし、さらに全国に視野を広げればもっともっと大きな会社がある。そこに追いつくためには、やはりしっかりした品質が必要なんです。目標は『2022年に売上げ40億円を達成すること』でした」

こうして同社はISO22000取得に向け舵を切り、2年後の2015年、認証を取得します。

「その頃、売上げは10億に乗っかるところまで来ていました。そしてさらに2年後には15億に手がかかった。ここで2013年の決断、ISO22000の取得に向け動いたことが正解だったと、みんなが実感できたのではないでしょうか」

人の手に頼らないことで、より確実な品質管理を実現

ISO22000に基づく品質管理にあたって牧野氏が重要視しているのは、できるだけ人の手間や負担に頼らない運用です。

人の手に頼らないことで、より確実な品質管理を実現

「たとえば品質管理のチェック項目に、体温が37℃以上であれば工場に入らず、帰宅するという内容があるとします。一般的には工場の入口に体温計を置いて入場時に測り、台帳に記入するという手順になるでしょう。しかし実際には、面倒だと思って体温を測らずに36.8℃と記入する人がいるかもしれません。また計測した体温が37.1℃でも、『せっかく出勤したんだから、働きたい』と考え、つい36.9℃と記入してしまう人がいたらどうなるでしょう。またネックレスや指輪など、金属製アクセサリーを付けて工場に入ってはならないという規則がありますが、作業服に着替えたあとでネックレスを外し忘れたことに気づいた時、どうするでしょうか。『気をつければ大丈夫』と、そのまま入室する人もいるでしょう。そうした人の作為やミスを防ぎ、適切な運用を行うためには、ICT機器の活用が不可欠なのです」

  • 非接触式サーモセンサー

    同社では、工場入口に非接触式のサーモセンサーを設置し、体温を自動的に計測する仕組みを用意しています。また空港の保安検査場にあるような金属探知機により、アクセサリーを身に付けたままではアラームが鳴り、そのままでは入室ができません。

「HACCPによる品質管理では、こうしたICTの導入を義務づけてはいません。紙のノートにその日の体温を記入したり、アクセサリーを外しましたとチェックするだけでもいいんです。でも私たちが求めているのは『HACCPをクリアすること』ではなく、『アイビック食品ならではの品質管理をいっそう高め、いわば“アイビック品質”というものを作り上げていくこと』です「HACCPによる品質管理では、こうしたICTの導入を義務づけてはいません。紙のノートにその日の体温を記入したり、アクセサリーを外しましたとチェックするだけでもいいんです。でも私たちが求めているのは『HACCPをクリアすること』ではなく、『アイビック食品ならではの品質管理をいっそう高め、いわば“アイビック品質”というものを作り上げていくこと』です。そのためにはHACCPで求められている以上のことをするの当たり前で、さらにその実現をより容易にするには、できるだけ人手に頼らない運用が不可欠だという考え方なのです」

自社の管理に万全を期すことで「ミスが起きるはずはない」と主張できる

そしてこうした考え方は、現場の省力化や目に見える品質向上にもつながっています。

「冷蔵・冷凍庫の温度管理にはIoTを導入し、異常値が検出された時には担当者のPCやスマートフォンにアラートを送信するようになっています。人手による管理では、たとえば1日2回温度を確認し、記録する必要がありました。しかしいま工場のなかには冷蔵・冷凍庫が7つあり、それを1日2回確認するとなると、計14回も見に行かなくちゃならない。それがIoTならより質の高い連続的なデータとして管理できますし、人の負荷も軽減できます。またたとえば段ボールに詰めて出荷する瓶入りのたれ製品について、お取引先からごくわずかではありますが、『段ボールひとつに6本入っているはずなのに、5本しか入っていない』というクレームが寄せられることがありました。作業手順では担当者が『6本入れた』と確認して、封をすることになっているんですが、やはり人的エラーは出てしまう。そのパーセンテージはごくわずかですが、中身の足りない商品が届いたお客さまにとっては1/1なわけです。そこでまた梱包した段ボールを計量する重量センサーを設置し、そのセンサーを通ったあとは網に入れ人の手を入れることができないようにしました。こうした対策をとることで、『1本足りない』というクレームがあっても『弊社はここまでやっているから、ミスが起きるはずがありません』と堂々と主張できるようになりました」

将来的にはカメラとAIを組み合わせ、不良品発生の防止も視野に

また同社では現在、作業工程を動画で撮影するカメラの導入も進めています。

「製品を瓶に充填する前にサンプルを品質管理担当に渡し、塩分や糖度、phといった数値を測り、規定内収まっているか確認します。ここでおかしな数値が出てくる場合、たいていは塩をひと袋入れ忘れたとかが原因で、それを防ぐために『使い終わり廃棄した袋の数をカウントする』という手順もあるんですが、どうしてもそうしたエラーがなくならない。そこで作業工程をカメラで撮影し、その記録を確認することで、たしかに塩の袋を投入する作業が1回足りないなど、原因の特定ができるようにしています。そして将来的にはAI導入の導入も考えています。つまり作業員の動きをAIが監視し、ふだんと違う動きがあればアラートを発するという仕組みです。これで品質管理担当のさらに手前で不良品を防ぐことができるようになるでしょう」

工場内の冷蔵・冷凍庫はIoTによる温度管理を行いモニターにも表示(左)。
品質管理で問題が発生した時はビデオで作業内容を確認できます(右)。

こうした将来を見据えた品質管理を追求しつつ業績を拡大してきた同社は現在、売上げを20億円規模まで伸ばし、2022年の売上げ目標40億円が視野に入ってきています。

「ISO22000の導入には2年かかりましたが、早い時期に高い目標を定め、決断したことが、企業の成長にあわせた品質の実現に大きく寄与したと思います。そして次の目標は2027年に売上げ100億円を達成することです。いまの製造工場ではフル稼働しても年36億が限界です。さらに伸びるためには工場の拡張、M&A、さらに海外合弁などに積極的に取り組んでいく必要があると考えています」

市場を持つ海外メーカーに品質を提供し、Win-Winの関係を構築

そしてそうした新たな取り組みにも、すでにISO22000を取得していることが大きなメリットになると、牧野氏は語ります。

「アイビック食品工業では2年かかって取ったISO22000ですが、惣菜部門の別会社ではすでに培った経験を活かし、約6カ月の取得が可能であると考えています。さらに海外マーケット、中国の合弁会社でもISO22000を取得します。ISO22000は国際的な認証ですから、他国の企業と取引する時に信頼を勝ち得る大きな武器となるからです。そしてこのISO22000と、北海道産のすぐれた原料を使った食材の開発と展開は、“北海道ブランド”への信仰が高い中国国内市場での成長を後押しすると確信しています。また中国以外の市場にも展開を予定しています。現在話しを進めているのはタイにある食品会社との合弁です。あちらの会社は市場を持っている、こっちは北海道産の原料を活かした製造技術、そして高い品質管理が提供できる。お互いのメリットを活かしあうことで、タイの市場はもとより、東南アジアの物流ハブであるタイを中心に広くASEAN諸国での事業拡大が可能になるでしょう」

ICTを活用しつつHACCPを導入、さらに独自の“アイビック品質”を武器に、同社の成長はこれからも続きそうです。

会社名 アイビック食品株式会社
設立 2002年(平成14年)12月16日
本社所在地 札幌市東区苗穂町13丁目1-15
代表取締役社長 牧野 利春
資本金 3,000万円
事業内容 たれ・だし・スープの製造販売
URL http://ibic.info/
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